第2話 オフィスの伝説


「やっぱ俺、今日も伝説作ったわ!」


30代のサラリーマン、斉藤悠介は同僚たちの前で胸を張った。


「また大げさな……」


佐々木課長は苦笑いしながら言った。


「いや、今回はマジなんすよ。昨日の会議、俺の資料がウケて、上司から褒められたんですよ!」


「お前の資料って、手作り感すごかったじゃん」


「その“手作り感”が逆に良かったらしくて!なんか親しみやすいって」


同僚たちは半信半疑ながらも笑っていた。


 


その日の朝、悠介はいつものカフェでコーヒーを買った。


バリスタの女性がにっこり笑って、こう言った。


「今日も伝説作ってくださいね」


悠介は少し恥ずかしそうに笑った。




仕事中、コピー機が壊れた時も悠介がすぐ直し、同僚たちの拍手を浴びる。


「さすが斉藤さん!」


そんな日々が続き、彼はまるで社内のヒーローのようだった。


 


ところが、ある日の昼休み、同僚の女性、小川さんがぽつりと言った。


「ねえ、斉藤さん……いつも笑ってるけど、その目は笑ってないよね」


悠介は鏡で自分の目を見てみた。


確かに、どこか空虚な感じがあった。


「そんなことないよ」


でも、心のどこかで彼はその言葉が気になっていた。


 


その日の帰り、コンビニで弁当を買った悠介のスマホが震えた。


画面には「伝説の代償、準備はいいか?」というメッセージ。


送り主はわからない。


悠介は笑ってスマホを閉じた。


「誰だよ、こんなメッセージ送る奴は」


 


しかし、夜、ベッドで目を閉じると、彼の心に重たい問いが浮かんだ。


「本当に俺は伝説なんだろうか?」


その時、ふと頭の片隅で、小川さんの言葉が響いた。


「笑ってないよね」


その言葉が、彼にとっての真実だった。

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