第18話 孤独な遠征

ドナルド・レーガン男爵領は、緊迫した空気に包まれていた。太郎の号令のもと、領民の城への避難が始まったのだ。広大な城郭は堅固な造りで、領民全員を受け入れるには時間がかかったものの、十分な余裕があった。セバスチャンと従士たちの周到な準備、そして領主である太郎への信頼が、パニックを引き起こすことなく、全ての作業を円滑に進めていた。


城の内堀と外堀に囲まれた二重構造の内部には、無数の簡易テントが張られ、領民たちは一時的ながらも安全な住まいを得た。多少の不便は強いられるだろうが、彼らは皆、領主の決断を信じ、我慢強く指示に従った。



そして、野戦の時が来た。フロッグ・ケン伯爵率いる敵軍は、ドナルド・レーガン男爵領の城門からほど近い平原に布陣していた。夜が明ける頃、偵察隊からの報告に、敵陣営は嘲笑に包まれた。


「フハハ、なんだドナルド男爵の輩は、全員逃げ出しおって、男爵一人で出迎えるとはな!皆の者、おかしいではないか、笑って迎えてやろう!」


当直の兵士が哄笑すると、周囲の兵士たちもそれに続く。


「プハハハハ!」


「ハハハハハ!」


だが、その笑い声も、間もなく凍りつくこととなる。


地平線の向こうから、一騎の影がゆっくりと現れた。馬に乗り、単身で進んでくるのは、まさしくドナルド・レーガン男爵、太郎その人だった。彼は無言のまま、敵陣の前に立ち止まる。


太郎は、右手を静かに、しかし確かな動作で前へと突き出した。そして、低く、しかし戦場に響き渡るような声で叫んだ。


「収納!」


その瞬間、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。


フロッグ・ケン伯爵軍の兵士たちが身につけていた武器、防具、馬具、そしてその他の全ての装備。さらに、彼らの背後にあった荷車、馬車、山と積まれた食料、その他の物資が、まるで砂のように、あるいは幻のように、音もなく、跡形もなく消失したのだ。


「ば、ば、馬鹿な!」


敵兵の一人が、恐怖に顔を引きつらせて叫んだ。フロッグ・ケン伯爵は、まさかこのような事態が起こるとは想像もしていなかった。彼の脳裏には、ドナルド・レーガン男爵領の橋が突如消失したという、あの不吉な噂がよぎった。


「伯爵!い、いや、こうなることは読者の皆様も分かっていたはず……」


太郎は、目の前で呆然とする敵兵たちに、冷たく言い放った。


「これ以上、無益なことはしたくない。下がられよ」


武装を失い、完全に混乱した敵兵たちの中に、フロッグ・ケン伯爵の怒号が響き渡った。


「な、裸でも構わん!全員でこいつを殴り殺せ!かかれ!」


「う、うおおおお!」


「行けえええ!」


武器を失った兵士たちが、怒りに任せて太郎に襲いかかろうと走り出す。だが、彼らは自分たちの行動が、さらなる絶望を招くことを知らなかった。


太郎は再び、右手を前へと突き出した。


「仕方ない。収納」


次の瞬間、襲いかかった兵士たちの足元が、ごっそりと消え失せた。彼らは抵抗する間もなく、そのまま、下へと落下していった。地面にぽっかりと開いた巨大な穴は、まるで地獄の口のようだった。


太郎は、収納した地面を元に戻すべく、再び手を動かした。


「収納解除、元に戻れ」


すると、敵陣のあった平原は、全てが元の状態に戻っていた。しかし、そこにいたはずの兵士たちは、巨大な穴の底に落ちたまま、一人もいなかった。 フロッグ・ケン伯爵の軍勢は、まるごと大地に飲み込まれたかのように、完全に消え失せていたのだ。



フロッグ・ケン伯爵は、その場に立ち尽くし、恐怖に震えることしかできなかった。彼の兵は、一瞬にして壊滅したのだ。


太郎は、一人馬に乗り、敵の残骸を踏みしめることもなく、静かに進んでいった。彼の旅はまだ終わらない。フロッグ・ケン伯爵の領地へと向かい、城を、そしてそこに蓄えられた財宝、食料、全ての物資を「収納」するつもりだった。


こうして、ドナルド・レーガン男爵領には平和が訪れた。敵陣営は文字通り跡形もなく消え去り、太郎の「奇策」は、想像を絶する形で大成功を収めたのだ。だが、彼の孤独な遠征は、まだ始まったばかりだった。

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俺は男爵領の領主になった?あれ、異世界転生?!==異世界領主経営==(経営者編) わたなべ たくみ @gansojitakukeibiin

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