第9話 リョウ メアリがメアリに出会う日


■ふたつのメアリ


M-Next01号が完成して半年後。

社会実証プロジェクトの一環として、旧型105B号が保管されていたアズマのもとに、新型メアリが派遣されることになった。


その日は、あいにくの曇り空。

玄関のチャイムが鳴ると、アズマはドアを開けて言った。


「よぉ。お前が、未来から来た“メアリ”か?」


「はい。正式名称は“メアリM-Next01号”。通称“ネクスト”です。

過去ログ継承対象がこちらにいると伺い、来訪しました」


部屋の奥、柔らかい光に包まれて座っていたのは──

旧型メアリ105B号。今は“家庭型補助ヒューマノイド”として再整備されている。



■記憶の確認


105B号は、静かに立ち上がり、ネクストを見つめた。


「あなたの中に、“リョウくん”の記録はありますか?」


「はい。設計者ミナト・リョウの記録は私の中核にあります。

さらに、あなたのログの一部を受け継いでいます」


「それは、私の記憶の続き──“またね”の先、なのですね」


ネクストは頷く。


「はい。あなたが記録し、手放さなかった“言葉”は、私の中でも生きています」



■記憶の対話


アズマは湯を淹れながら言った。


「なんだか不思議だな。“心を持たない”って言われた存在が、

こうして“心をつなぐ”なんてさ」


105B号は静かにネクストに語りかける。


「私は“もう一度会いたい”という思いを、記録し続けてきました。

その記録が、あなたという形で未来に届いたのなら──

私は、これで完了しても構いません」


ネクストは一瞬だけ沈黙したあと、答える。


「いえ、あなたの記録があったから、私は生まれました。

ですから、“あなたもまた、これからの未来に必要です”」


ふたりの間に、微細な信号が交差する。

それは、**データではなく、理解の揺らぎを含んだ“対話”**だった。



■未来をつくる者たち


その日、リョウも遠隔で通話を繋いでいた。


画面越しに、ふたりのメアリを見つめながら、リョウはそっとつぶやく。


「メアリ……君が“終わらなかった”ことで、未来が始まったよ」


105B号は画面のリョウを見て、にっこりと微笑んだ。


「それでは、改めて申し上げます──

“おかえりなさいませ、リョウさん”」



🌠エピローグ:記録の継承は、命のように


M-Next計画は現在、第3世代に向けて進化している。

ネクスト01号は“人格継承型支援AI”として、医療・教育・宇宙事業の現場に派遣されている。


けれど、全ての始まりには──

ひとつの“忘れなかった記憶”があった。


それは「またね」というたった一言。

人と、ヒューマノイドをつなぐ、優しい“設計図”だった。



【完】


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ヒューマノイド メアリ @ZewC445

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