第16話 (エピローグ):「新たな夜明け」

――黒炎の魔王消滅から三日後、かつて瘴気に包まれていた暗黒領域は白銀の世界へと姿を変えていた。煤けた石壁は淡い光を帯びた結晶の層に覆われ、ひび割れた床からは「すう…すう…」と澄んだ光の霧が立ち昇る。まるで大地が深く息を吐き、じわりと回復を始めているかのようだ。遠方では崩壊していた浮遊島の礎が「ポンッ、ポンッ」とかすかな振動音を立てて結晶化し、白い結界がゆっくりほどけながら空中に再浮上していく。空には淡い虹色の雲が水平に伸び、「ざわ…」と小さな囁き声を伴って光霊たちが数羽、ふわりと舞い戻ってきた。


リゼットは大扉を抜けた広間で胸の光の核を抱え、ゆっくり深呼吸をする。かすかな「がさっ」という結晶の隙間が崩れる音が響き、床の大理石は柔らかな陽だまりのような温かさを足裏に伝えた。彼女は「本当に…終わったのね」と小声で呟き、頬を撫でる温風をそっと受け止める。隣でカインが剣を納め、静かにリゼットの手を握り返す。彼の目には安堵と希望がにじんでいた。「ええ、新しい夜明けが始まるよ」。リゼットはわずかに頷き、小さく笑みを返した。背後では、薄氷が音もなく砕けるように浮遊島が再生し、白い橋梁が透明な光へと姿を変えていく。壁面のフレスコ画は「きらきら」と輝きを取り戻し、結晶に反射した残り火のような光で二人を祝福していた。しばしの静寂が広間を包み、「ささ…」という光霊の羽音だけが遠くで響いた。


──リゼットとカインは息を合わせて一歩を踏み出し、崩れかけた浮遊橋を渡った。橋が「がしゃん…」ときしむたびに、再生の意思が二人の胸に染み入る。浮遊島を後にした二人は、そのまま王都へ向かうため再び橋を歩き始めた。


浮遊島群は瘴気の消失とともに「ポンッ、ポンッ」と振動音を立てながら再浮上を果たす。かつて黒く歪んでいた島々の輪郭は白い結晶の輝きを帯び、新緑が「ざざざ…」と芽吹く音をかすかに響かせる。浮遊橋も「がしゃん…」と金属音を鳴らしながら再結晶し、透明な光の架け橋へと変貌した。橋の上では住民たちが歓声を上げ、手を取り合って涙を流しながら喜びを分かち合っている。


やがてリゼットとカインは修復中の浮遊橋を渡り、王都へと向かう。途中、「ガガガ…」という瓦礫を片付ける工の金槌音と、「カーン、カーン」という鍛冶屋の鉄床音が交錯し、再生の息吹が王都一帯に満ちていることを感じさせた。


王都中心広場に到着すると、かつて瘴気に汚染されていた空間は焚き火が勢いよく燃え、「ぱちぱち」という拍手と歓声が巻き起こる数千人の人々で埋め尽くされていた。子供たちは「光の姫様!」「光の騎士!」と呼びながら駆け寄り、リゼットは笑顔で手を振った。広場中央の太陽紋章モニュメントは黄金色に輝き、光霊たちが「きらきら」と祝福の舞を見せ、親たちは子供を高く抱きながら歓声をあげている。笛の小さな調べが風に乗って流れ、子供の笑い声が重なり合い、まるで世界が新しい命を吹き返したかのようだった。


王宮前のバルコニーには国王と高位貴族が整然と並び、深い敬礼で二人を迎えている。国王は深く頭を下げ、「リゼット・クロノ殿、カイン・ヴェルディ殿、闇を討ち、この国に光をもたらしてくれたことに感謝する!」と高らかに宣言した。その言葉に、大歓声が「わあああ!」と広場全体に響き渡る。壇上の貴族たちの中で、かつて瘴気を利用して農地を独占し、民を苦しめていたマルセリウス伯爵が肩を落としながら進み出た。彼は震える声で「私は…かつての愚かさを深く恥じます。この国と民のために、全力を尽くします」と謝罪し、大きく頭を下げた。民衆はどよめきつつも、やがて「万歳!」と賛同の声を上げ、復興への希望に拍手を送った。


リゼットは改めて深く頭を下げ、「私の役目は終わったわけではありません。これからも、この国のために光を使い続けます」と宣言し、大喝采を浴びた。カインは剣を軽く地面に突き、「僕たちは、これからも光と共に歩き続ける」と力強く誓い、民衆の声援がさらに高まった。


王都の喧騒を離れたリゼットは、一人小舟に乗って川を下る。川面には朝陽が「きらきら」ときらめき、水面を揺らす小波が「さざざざ…」と音を立てる。かつて霧の谷で幻影に怯えた日々、氷の精霊と剣を交えた浮遊島、安息の島で光鏡の泉に触れた瞬間の記憶が胸に駆け巡る。舟が進むたびに「私は本当に変わったんだ…」と静かに呟き、胸がきゅっと熱く締めつけられる。舟はやがて霧の谷入口へ差し掛かる。かつて恐怖に震えたあの霧は「しん…」と晴れ渡り、青い空がゆっくりと姿を現す。「あのときの私に、この姿を見せたい」と心の中でつぶやき、リゼットの膝がわずかに震えたが、光の核に手を触れて恐怖を振り払い、そっと目を閉じた。


同じころ、カインは剣術を学んだ地方の武術道場に立っている。稽古を終えた生徒たちの「ハア…」という息遣いだけがわずかに響く道場で、カインは剣を収め、師範代と目を合わせた。「師範、私…これからもこの剣で人々を守り続けます」と誓うと、師範代は深く頷き、「お前ならできる。強さと優しさ、その両方を忘れるな」と叱咤した。その声が「カーン…」という鉄床の余韻と混ざり、カインの奥底に新たな決意を刻み込んだ。


王都へ戻る途中、リゼットとカインは小さな村を通りかかる。そこではちょうど小さな祭りが催され、「ぱちぱち」という拍手や笛の音が混ざり合い、村人たちが二人を祝福していた。リゼットは子供たちに囲まれ、「光のお姫様だ!」という歓声を受けながら笑顔で手を振る。祭りの裏手では老婆がゆっくりリゼットに近づき、「あなたの光が、私の孫を救ってくれたのです」と涙ながらに感謝を告げる。リゼットは優しく微笑みながら深く頭を下げ、「私もこの国を守るために力を尽くします」と答え、老婆の手をそっと握った。祭りが終わると、カインは静かにリゼットに寄り添い、「また別々の道を歩むかもしれないけど、君の光がある限り、大丈夫だ」と囁く。リゼットはカインの黒い髪と優しい瞳を見つめ、力強く頷きながら「ええ、たとえ離れても、この光できっとあなたに会えるから」と返した。二人は固く手を握り合い、風に揺れる提灯の明かりを背にして静かに別れを告げた。


王都の広場では既に瓦礫が片付けられ、「ガガガ…」という修復の金槌音と、「カーン、カーン」という鍛冶屋の鉄床音が交錯し、復興の息吹が満ちていた。かつて瘴気に汚染されていた王宮前の広場には白い布のテントが並び、住民たちが食料や温かいスープを分かち合う光景が広がる。野営の笑い声や鍛冶の音が重なり合い、人々は希望を胸に再建に励んでいた。


王宮バルコニーには国王が立ち、民衆に向かって演説を行う。

「リゼット殿、カイン殿の勇気が、我らの未来を照らした。これからは民の声を聞き、互いに手を取り合い、新たな王都を築くのだ!」

その言葉に民衆は一斉に「万歳!」と歓声をあげた。壇上の貴族たちは順に誓いを述べる。かつて瘴気を利用していたヴェナー男爵は眉をひそめながら、「私も…今後は民の幸福を第一に尽くします」と謝罪とともに誓いを告げた。民衆はどよめきつつも、大きな拍手で彼を迎えた。


王宮内の聖堂では、リゼットが守護していた光の核が特設台座に安置され、祭司たちが「しゅうしゅう…」という鈴の音を鳴らしながら祈祷を続けている。聖堂の奥には「光を継ぐ者育成学院」設立計画が掲示され、リゼットは国王に対し「未来の守護者たちへ光の核を継承すべき」と提言している。ある夕刻、聖堂前庭には小さな少女が光の核をじっと見つめていた。幼い頃、弟を病から救うために必死で祈り続けた記憶が蘇り、少女は小さな手を合わせて「私もいつかあの光を扱えるようになりますように」と願った。リゼットは遠くからその姿を見守り、静かに微笑みながら額に手を当てた。その瞳には「この光を未来の守護者へ継承する」という使命感が宿っている。


日没の景観台では、リゼットとカインが遠くに広がる雲海を見つめている。天空には夕焼けの帯がかかり、遠くの焚き火が「ぱちぱち」と小さな音を立てながら夜の帳を迎えている。カインは軽く剣を肩にかけ、「これからは、どんな困難があっても君の光を支える」と静かに誓った。リゼットは光の核を抱えた手を天にかざし、「私も光を継ぐ者を守り、この世界を照らし続ける」と力強く応えた。二人の影は夕焼けに映えて長く伸び、新たな物語の幕開けを象徴するかのように佇んでいた。


翌早朝、王都はまだ眠りの中にあるが、光霊たちが「きらきら」と街を覆いつくすかのように舞い、「さささ…」という羽音が静かに響き渡っている。遠くの小川では水が「さらさら」と流れ、花がそよ風に揺れる「さわさわ…」という音が聞こえてくる。空は淡い桃色から黄金色へと染まり始め、聖堂やホールには静かな祝福の気配が満ちている。


リゼットは聖堂前の静かな庭でひとり光の核を抱えながら歩き、夜明けの光を見つめている。月明かりから朝陽へと色彩が移り変わるたびに、「すべての光は、誰かの祈りから生まれる。だから、私は祈りを絶やさない。光を消さない…」と小声で呟いた。その言葉には、彼女自身が守り続けるという決意が夜明けの風に乗って世界に届くように込められていた。


彼女が光の核を高く掲げると、「きらり」と一筋の朝陽が大聖堂のステンドグラスを満たし、ホール全体を柔らかな光で包み込んだ。光霊たちは「ぽわん…」という振動音をともないながら舞い、「これからも光と希望を守り続けるように」という祝福の舞を見せる。カインがひそりと現れ、リゼットの隣にそっと立った。二人はしばらく言葉を交わさず夜明けを見つめ、静かに頷き合った。背景には「きらきら」と光霊が消えていくように飛び去り、遠くの空が完全に黄金色へと染まっていく景色が広がっている。


――物語はここで幕を閉じる。

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