走れ! ポンコツ戦士(爆死)

 魚豊の漫画「ひゃくえむ。」に出てくる、小学生、小宮くん。
 情熱だけで突っ走る出鱈目で我流な走り方を経て、きれいなフォームを学ぶも、

「最適解のフォームなのに  その走り方には  未来が見えない」

 とか云われてしまう。

「これ、俺やん」

 と誰もが想ったのではないだろうか。

 しかしスマートに洗練された能力の高い走り方をしている人を見て「速い」と感心するのとは違い、「うおお、俺も走りたい!」と腹から湧き上がってくる風と熱は、小宮くんこそ、もっていた。

 この出鱈目なフォームの小宮くんは、我々であり、デビュー直後の「魚豊さん」でもあっただろう。
 画力の点ではいまどきの漫画家志望の中学生よりも低かったかもしれない。しかし熱量で走り切る「ひゃくえむ。」は大勢の読者をぐいぐいぐいぐいと引っ張り、「売れねえだろ」と出版社側に見送られていた単行本化まで果たしてのけた。

 がつんごつんと、まるでやりすぎな「嘆きの壁」のように壁に頭をぶつけていく愚かな上にも愚かすぎる書き手は、きっと愚かなのだろう。
 もっとスマートで、洗練された、合理的な、賢い方法があるのだろう。

 そのスマートさんたちは、全員が彼らの目指す「成功」をおさめているのだろうか?
「こうしろ、ああしろ」
 指示されたとおりの合理的なノウハウを踏んで、その後、彼らは毎回華麗なシュートを決めて、壁の向こうで優雅な毎日を送っているのだろうか?

 わたしは知らない。
 そんな賢い書き手には興味がないから。

 地を這う惨めな蟲。
 愚かだけれど、「惨めな負け犬の遠吠えをしようぜ!」と乏しい武器を手に、今日もどたんばたんと吼えている書き手たちのことが、わたしは愛しい。

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