第40話 最終章:世界の夜明け
「くそっ…! アビス…! 邪魔をするな!」
遼の叫びが、聖域の門に響き渡る。リアが門に手を触れ、その歌声で女神の紋様を輝かせようとするが、門から噴き出すアビスの黒い瘴気が、その光を打ち消すかのように激しく侵食していた。「みらい」の魔力収束砲が瘴気を吹き飛ばすも、それは一瞬のことで、すぐに新たな闇が湧き上がる。
「艦長! 門の侵食速度が上昇しています! このままでは、リア様の歌声が完全に押し潰されてしまいます!」
ユイの声が、緊迫感を帯びる。メインモニターには、門の水晶が黒く染まっていく様子と、リアの生体データが危険水域に達していることが示されていた。彼女は、アビスの強大な魔力に直接晒されながら、必死に歌い続けているのだ。
「リアさん! 無理をするな! 俺が…!」
遼は、リアの元へ駆け寄ろうとするが、門から伸びる瘴気が、まるで壁のように彼の行く手を阻む。アビスは、リアの歌声が門を開く鍵であることを理解し、彼女を集中して狙っているのだ。
「…大丈夫…です…艦長…! 私の…歌声は…女神様との…約束…!」
リアの声は、苦痛に歪みながらも、強い意志を宿していた。彼女の体から放たれる青白い光は、弱まりながらも、アビスの瘴気に抗い続けている。
その時、遼の脳裏に、精神世界で見た女神の姿が蘇った。女神が、自らの命を削り、アビスを封印しようとする悲痛な光景。そして、リアに託された「希望」の言葉。
「ユイ! 俺の力を、リアさんの歌声に集中させろ! 女神の光を、最大出力で増幅させるんだ!」
遼は、叫んだ。彼は、自らの体内に宿る、神からもたらされた「光」の力が、リアの歌声と共鳴し、女神の力を引き出すことができると信じていた。
「艦長! 危険です! 艦長の生命維持システムに過負荷がかかります!」
ユイは警告するが、遼は迷わなかった。
「構うな! これが最後のチャンスだ!」
遼は、門に手を触れているリアの背後から、その肩に手を置いた。そして、自らの魂の核から、純粋な光の魔力を放出した。
遼の体から放たれる光は、リアの体から放たれる青白い光と共鳴し、瞬く間に増幅された。二つの光が混じり合い、聖域の門全体を包み込むような、眩い輝きを放ち始めた。
『…馬鹿な…! この力は…!』
アビスの声に、明確な動揺と、焦りの色が現れた。遼とリアの光は、アビスの黒い瘴気を打ち消し、門の水晶から噴き出す闇を、逆流させるかのように押し戻していく。
リアの歌声は、光の増幅と共に、さらに力強く、澄み渡った。それは、女神の慈愛と、世界の希望を歌い上げる、魂の旋律だった。門に刻まれた女神の紋様が、その歌声に呼応するように、激しく輝き始める。
ギィィィィィィィィン!
聖域の門が、重々しい音を立てて、ゆっくりと開き始めた。門の隙間から、純粋な女神の魔力が溢れ出し、構造体全体を光で満たしていく。アビスの瘴気は、その光に触れると、まるで雪のように溶け去り、完全に消滅した。
「艦長! 門が開きました! アビスの侵食が停止しました!」
ユイの興奮した声が、艦橋に響き渡る。遼は、安堵のため息をついた。彼らは、ついに、聖域への道を開いたのだ。
リアは、歌い終え、その場に崩れ落ちそうになった。遼は、すかさず彼女を支える。彼女の顔は、疲労困憊しているが、その瞳には、達成感と、微かな希望の光が宿っていた。
「…ありがとう…艦長…」
リアは、掠れた声で、遼に感謝の言葉を述べた。
「いいえ。リアさんのおかげだ。さあ、行こう。アビスを完全に止めるために」
遼は、リアを抱きかかえながら、開かれた門の奥へと足を踏み入れた。
門の先には、想像を絶する光景が広がっていた。そこは、まるで宇宙空間のような、広大な空洞だった。無数の光の粒子が、星のように瞬き、その中心には、巨大な光の結晶が浮遊している。それは、女神の最後の力が宿る、聖域の核心だった。
そして、その光の結晶の周囲には、黒い影が蠢いていた。それは、アビスの真の姿。不定形で、巨大な闇の塊が、光の結晶を包み込もうと、ゆっくりと近づいていた。
「…アビス…!」
遼は、呟いた。アビスは、すでに女神の力を吸収しようとしているのだ。
「艦長! アビスが、女神の力を吸収しようとしています! このままでは、完全に復活してしまいます!」
ユイの警告が、艦橋に響き渡る。
「くそっ…! ユイ! 全武装、アビスに集中! リアさん、力を貸してくれ!」
遼は、リアをそっと地面に降ろし、アビスへと向き直った。リアは、疲労困憊しながらも、再び歌い始める。彼女の歌声は、女神の光の結晶と共鳴し、その輝きを増幅させていく。
「みらい」の魔力収束砲が、アビスの闇の塊へと猛攻を開始した。青白い光線が、闇を切り裂き、アビスの体を揺さぶる。しかし、アビスは、その攻撃をものともせず、女神の光の結晶へと、さらに近づいていく。
『…無駄だ…! 全ては…我らの…糧となる…!』
アビスの声が、空間に響き渡る。その声は、遼の精神を直接揺さぶり、彼の心に絶望を植え付けようとする。
「そんなことは…ない…! 俺は…! 俺は、諦めない…!」
遼は、歯を食いしばり、自らの魂の核から、光の魔力を放出した。その光は、リアの歌声と、女神の光の結晶と共鳴し、アビスの闇を打ち消すかのように、輝きを増していく。
そして、遼は、アビスの真の目的を理解した。アビスは、単に世界を滅ぼそうとしているのではない。全てを虚無に帰すことで、新たな世界を創造しようとしているのだ。しかし、その創造は、絶望と混沌に満ちた、歪んだ世界だ。
「お前には…! 世界を創造する資格はない…!」
遼は、叫んだ。彼の声は、女神の光と、リアの歌声と共鳴し、アビスの闇を打ち砕くかのように、響き渡る。
遼は、自らの全てを賭け、アビスの核へと向かって、光の奔流を放った。それは、彼の魂の叫びであり、この世界の未来を賭けた、最後の攻撃だった。
光の奔流は、アビスの闇の塊を貫き、その中心へと突き刺さった。
ギュルルルルルルルルルル…!
アビスから、異様な音が響き渡る。その形は、激しく歪み、黒い瘴気が、苦悶するように揺らめいた。アビスは、遼の攻撃によって、その核を破壊されたのだ。
『…馬鹿な…! この…私が…!』
アビスの声は、絶叫に変わり、やがて、その闇の塊は、ゆっくりと収縮し始めた。黒い瘴気は、光に浄化されるかのように消滅し、アビスの存在は、完全に消え去った。
聖域の内部は、再び静寂に包まれた。女神の光の結晶は、以前よりも強く輝き、その光は、遼とリア、そして「みらい」を優しく包み込む。
「…終わった…のか…?」
遼は、呟いた。彼の身体は、激しい疲労感に襲われているが、その心は、深い安堵感に満たされていた。
「はい、艦長。アビスの存在反応は、完全に消滅しました。この世界の危機は、去りました」
ユイの声が、遼の耳に届く。彼女もまた、この戦いが終わったことに、安堵しているようだった。
リアは、遼の傍らで、静かに微笑んだ。彼女の瞳には、希望の光が宿っている。
「…ありがとう…艦長…ユイ…」
彼女の言葉は、遼とユイの心を温かく包み込んだ。彼らは、共に戦い、この世界を救ったのだ。
その時、女神の光の結晶から、一筋の光が伸び、遼とリア、そして「みらい」を包み込んだ。
『…汝ら…世界の…希望を…守りし者たちよ…』
女神の声が、遼の脳裏に直接響く。それは、慈愛に満ちた、優しい声だった。
『…汝らの…故郷への…道は…開かれた…』
女神の言葉は、遼に、衝撃を与えた。故郷への道が開かれた? 彼らは、元の世界に帰ることができるのか?
『…リア…汝は…この世界の…希望…汝の…歌声は…この世界を…守り続けるだろう…』
女神の声は、リアに語りかける。リアの瞳には、涙が溢れ出した。彼女は、女神との約束を果たしたのだ。
『…汝ら…それぞれの…道へ…進むがよい…』
女神の声は、遼とリアに、選択の自由を与えた。彼らは、この世界に残ることも、元の世界に帰ることもできる。
光が薄れ、遼とリア、そして「みらい」は、再び深海の底へと戻っていた。しかし、そこは、以前のような暗闇ではなかった。女神の光が、深海全体を優しく照らし、無数の発光生物が、希望の光のように瞬いている。
「艦長…」
ユイの声が、遼に問いかける。
「…私たちは…どうしますか…?」
遼は、リアを見た。彼女は、静かに微笑んでいる。彼女の瞳には、もう悲しみはない。ただ、穏やかな希望の光が宿っているだけだ。
遼は、遠い故郷を思い、そして、この異世界で出会った人々、経験した戦いを思い出した。彼の心には、様々な感情が去来する。
「ユイ…」
遼は、ゆっくりと、しかし、はっきりと答えた。
「…私たちは…」
彼の言葉は、この世界の、そして彼自身の、新たな未来を告げるものだった。
最終話執筆後記
第40話では、アビスとの最終決戦、そして、その後の世界の変化を描き、物語の完結を目指しました。
遼とリア、ユイの力を結集したアビスとの最終決戦
アビスの真の目的と、その終焉
女神の真意と、遼とリアへの選択の提示
世界の変革と、新たな始まり
上記を意識して執筆しました。
この物語は、遼とリア、そしてユイが、異世界で出会い、共に困難を乗り越え、世界の運命をかけた戦いに挑む中で、それぞれの成長を遂げる物語でした。彼らの旅は、ここで一つの区切りを迎えますが、彼らの未来は、まだ始まったばかりです。
時空を超えた鋼鉄の守護者 ねこあし @nekoasi2025
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