【第40章 バトンを渡す日】

5W1H:

When:4月24日 夕方

Where:星ノ宮学園 旧図書館前庭

Who:碧・早紀・勇希・純子・周・朝子・麻実・陽翔+後輩たち

What:かつて碧たちが見つけた“羅針盤”を、次の世代へ引き継ぐ

Why:物語は終わるのではなく、手渡されて生き続けていくものだから

How:笑い合いながら別れを惜しみ、それぞれが次の夢に向かって歩き出す、希望に満ちたラストシーン

 春の陽が傾き、旧図書館の前庭には、あたたかなオレンジ色の光が満ちていた。

 門のそばには、今朝の式典でも使われた台座がそのまま残されていて、その上には――あの“羅針盤”が置かれていた。

 碧たち八人はその前に立ち、周囲には、新一年生の小さな輪。

 目を輝かせて見上げている。

 「これが、本当に物語の中に入れる“羅針盤”なの……?」

 「うそでしょ、触ったら転移しちゃうとかないよね?」

 わいわいと騒ぐ声に、勇希が「おっと、触ると魔法が発動するぞ~」とおどけて言って、周に真顔でたしなめられている。

 「大丈夫。もう“物語のゆがみ”は消えたから、今はただの“ページを示す方位磁針”だよ」

 純子が静かに説明すると、子どもたちは「ふーん……」と少し残念そう。

 けれど、それでも手を伸ばすその瞳には、“未来の書き手たち”としての光が宿っていた。

 朝子が言う。

 「この羅針盤は、読む人に“必要なページ”を教えてくれる。

 それが、童話か、怪談か、学園ものか、SFかはわからない。

 でも、そのページをめくるのは、君たち自身なの」

 麻実は後ろからそっと子どもの肩を抱き、笑顔でつけ加える。

 「こわがらなくて大丈夫。“うまく書く”より、“楽しんで読む”ことの方が、ずっと大事だよ」

 そして、碧がゆっくりと前に出る。

 ポケットの中には、トレヴァーから預かった“未完の原稿”。

 そして胸の奥には、自分で書いた“続きの想い”。

 「僕たちが出会ったのは、偶然だったかもしれない。

 でも、ひとつだけ言えるのは――“書かれた言葉”が、僕たちをつなげてくれたってこと。

 物語っていうのは、ひとりじゃ書けない。

 だからこれを、君たちに渡します」

 彼は、羅針盤の小さな木箱を、最前列の一年生へそっと手渡した。

 「君の言葉で、ページをめくってください」

 その瞬間、風が吹いた。

 ページが、何かを読むようにふわりと舞い、庭の桜が一斉に揺れる。

 碧と早紀が顔を見合わせる。

 勇希が「あーあ、ついに渡しちゃったな」と肩をすくめる。

 純子は「次は“空間づくりの授業”でもしようかしら」

 周はノートを開き、「次代育成プログラム」のメモを始める。

 朝子は静かにうなずき、麻実は「さて、切り替えて新生活だね」と笑う。

 陽翔は最後まで手を突っ込んだまま、「次は自分の物語、書いてみるか」とつぶやいた。

 彼らの目線の先にあるのは、過去でも現在でもない。

 “まだ読まれていない未来”だった。

 ――羅針盤は今、新たなページを指している。

 それは誰の手にも渡り得る、自由な旅路。

 碧は、深呼吸をして、空を見上げた。

 青い空がどこまでも広がっていた。

 > 物語は、ここで終わらない。

 > 次に読むのは、――君だ。

〈完〉


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蒼碧の羅針盤と時の図書館 mynameis愛 @mynameisai

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