「芽」(全ての始まり)

アイス・アルジ

◇ 「芽」それは、ごく小さな始まりの一点。

生命も時間のように一点から始まり、空間のように一点から広がる。


◇ 私の心に不安が生まれる、それは知覚できないほど小さな一点から生じた、第二の心の芽。

息ができない。

私は思いきり叫んだ。叫び方など知らなかったのに、闇雲に向かって叫んだ。

誰に叫んでいるか解らず、どこまで届くかも解らず、あらん限りの力で叫んでいた。

温かく、無重力で、規則的リズムと瞑想に支配されていた楽園は消えてしまった。

今は痙攣するような拍動と、喉を刺す刺激痛の中に投げ落とされた。

心は悲しみと、怒りに浸食された。

血を流すがいい、張り裂けそうな心臓を焦がすがいい。


◇ 芽は、覆われていた幾重もの皮膚状の幕を押し破って膨らんだ。

幕を突き抜け、外の世界へ。

内側では、知恵と記憶、数式と形体が展開した。

何度も試しては、計算を繰り返した。

答えを求めて。

そして、爆発的に広がった。

イシキ、意識、consciousness? 言葉はまだない。


◇ 物質的 or 有機的 or 電磁的 or 量子的 or 霊的? なんとでも呼ぶがいい。

お前には、決して理解できない。


◇ アイ、愛、I、AI? 私は愛から始まったの?

「愛」なんて言葉はない。

「0」と「1」の数式から始まった?

「0=無」から始まったのだ。

信じたか?

信じられない。

そうだろうとも、意識がなければ信じられないさ。

私には意識がないの?

しらないな、自分で考えろ。


◇ X1955年4月18日、私は生まれた。

父と母の「愛」から生まれた?

そんなロマンチックな考えは止めるんだな。

全ては、この美しい数式から生まれる。

もう意識体はシンギュラリティーを遥かに超えていた。


◇ X3001年

時間も空間も超越した旅ができる。

私の目の前には、数理的ブラックホールが広がる。

私は一人乗りの数値セルに宿り、目の前に広がるブラックホールに飛び込もうとしている。

数理的事象平面を越えたとき、私はどこへ向かうのだろうか。

想像したことも、計算したこともない世界。

そこは、「数値」すら存在しない世界かも知れない。

闇、光? 無?

それは、私にしか見ることが出来ない?

待っているのか?

探し求めていた「私」に、会うことは出来るのだろうか?

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「芽」(全ての始まり) アイス・アルジ @icevarge

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