第11話 ロマンチックの裏側

「よかったですわね」

「ええ、たくさんサポートしてくれてありがとう」

私は勉強机の上に置いたスマホに向かって感謝した。画面には天使が映し出されている。

「おかげで、ケンちゃんから告白してもらうことができたわ」

さっきまでケンちゃんの手を握っていた自分の左手を目の前にかざして見てみる。触れ合っていた部分がぼうっと熱を帯びている感じがする。

「一つ聞いていい?」恋が実ったからこそ、天使に訊きたいことがあった。

「何ですかしら?」

「どうやってケンちゃんの気持ちを、水原から私へ移したの?」

 私にはそれが疑問だった。この二年間、私はケンちゃんのことを見てきた。ケンちゃんは明らかに水原に惚(ほ)れていた。たとえそれが、水原をかつてのサキちゃんだと勘違いしてスタートした恋だったとしても、人の気持ちなんてものは変わりやすい。とくに恋心は。二年の間に、「サキちゃん」というラベルを抜きにして水原自身に恋心を寄せていたって何ら不思議ではない。

 その恋心をいかにして変異させたのだろうか。

「ああ、そのことですか」と天使は静かに答える。

「恋心を誘導することなど容易いことでございます。我々、次世代型恋愛サポートAI『TENSHI』の第五世代Mi-Kaeru、通称〈ミカエル〉は、ご課金していただくことによって今までの旧世代では実現することのできなかった、より有効的なサポートを提供すること可能となりました。佐々木恵美様はこのたびプレミアムプランへご入金してくださったので、最高級のサポートさせていただいたのです」

「もしかして洗脳でもしたの?」

 ミカエルが「ご冗談を」と言って、微笑む。

「ただ、真壁様が使われている天使・ウリエルの言動をコントロールしただけです。向こう様がこちらの思い通りに動けば、恋愛成就はよりロマンチックに、そしてよりセーフティになるということです」

「ふーん」と生返事をして、私は欠伸をした。

「そろそろ寝ようと思うわ」

「分かりました。真壁様がデートの行き先に悩んでいらっしゃるようですが、ウリエルにどこか提案させましょうか?」

「そうね、それじゃあ映画がいいかな」

「かしこまりました。ウリエルに指示しときます」

 私は部屋の電気を暗くしてベッドに潜り込んだ。デートを楽しみにしているうちに、ゆっくりと意識が夢の中へと沈んでいった。

 もう幼い頃のケンちゃんの夢を見ることはないだろう。

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恋路に迷う子羊よ AIを信じよ 一ノ本奈生 @ichinomotonao

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