6話 深淵を覗く時
子供という存在は早起きだ。
そして、親の都合など構やしない。
朝から元気いっぱい暴れ回ること、それが子供の仕事だ。
《現地生命体に根す『
俺のことを『パパ』と呼ぶこの魔物も例外ではないらしい。
俺は布を被り、再び瞼を閉じた。
†
こいつの話を信じるなら、今更何かしようとしても手遅れだ。
魔王様の『会話魔法』はおそらくほぼ全ての人間に繋がっている。
その魔力パスを伝い、リンク達は全ての人間に寄生したということだ。
もはや、この奇妙な隣人に俺達人間という種族は適応していくしかないのだろう……いや、魔王様と出会った時点で既に手遅だったな。
一年前の俺にこの状況を説明しても絶対信じないだろう。
それだけ今と1年前で世界情勢が変わってきている。
《パパ、悩みでしか?悩みならリンクたちが聞くでし。ストレスは健康に良くないでし》
悩みのタネが悩みの相談に乗ってくれるらしい。
ただ、今は遠慮しておこう。
そんなことよりも考えなければならないことが山積みだ。
たくさんの新事実と衝撃展開があったが、1番マズイのは魔王様の『会話魔法』で繋がった人間すべてにリンク達が寄生してしまったことだろう。
俺が寝てる間にすべての人間の命がこの手の中に……。
魔王様の『会話魔法』自体も弄ってしまったらしい。
魔王様に嫌われただろうか?それはいやだなぁ。
「お前なぁ。『変な真似はするな』って言っただろ」
《はい。パパの指令は "変な真似の禁止" と "魔王様との会話" でし。どちらの司令も完璧でし。どうでしか。リンクはお役に立つでし》
「それは指令じゃねぇよ……」
い、胃が痛い。
こいつとの会話で一言でもミスすれば、人類滅びかねんぞ。
冗談でも人類の抹殺なんて話した暁にはどうなることやら。
《それはいくらパパの命令でも遠慮したいでし。パパまで殺す必要があるので、論理矛盾を起こしてしまうでし。パパが死んだらリンク達も全滅してしまうでし。》
……こいつ、俺の考えてることまで読んでやがるな。
『魔物共生』っていうのは思考まで共有することになるのか?
おい待てよ。つまり、今回の乗っ取り事件は俺の役に立つことを証明するために起こしたってことか。
昨日頭の中で『無害』扱いしたの気にしてたのかよ。
無能とまでは考えてなかったんだがな。
だが、俺が死んだら《パパはもうパパでし。死んでしまったらリンク達に指令を送れる者がいなくなるので、全員自爆するでし》……思考に割り込むのはやめろ。
つまり、俺が死んだら全ての人間が道連れで死ぬと……寿命とかどうすんだよ《長生きしてくださいでし》……魔王様に協力依頼でもしないと人類滅ぶなこれ。
俺は立ち上がり、台所へふらふらと歩き出す。
寝起きで既に疲れ切ってしまったこの哀れな頭に栄養を与えるためだ。
卵とベーコンがあるはずだ。
あとは温かい飲み物でも飲んで落ち着こう。
《個体名『魔王様』と会話するでし?現在の個体検索機能は未完成でし。個体特徴を教えて欲しいでし》
魔王様と会話できるのか!!
俺は卵の殻片手にリンクの話について考える。
魔王様の特徴か。
……分からない。
俺は魔王様の声を聞き続けてきたが、彼女に会ったこともなければ、どんな顔なのかすら知らない。
好きな食べ物も知らないし、年齢も知らない。
俺が知っているのは "彼女の声" と "魔法と弟が大好きなこと" それだけだ。
あとは彼女が普段何を考えていて、何をしているのかくらいしか知らない……ん?意外と知ってるな。
《パパの記憶から個体特徴を検索。1,328,935件一致したでし。パパの好きな魔王様はどれでし?》
すべての人間の中から "彼女の声" に似ていて"魔法と弟が大好きなこと"人を探したんだな。
なんとなくこいつの行動パターンが見えてきたぞ。
俺はカリカリに焼いたベーコンと半熟の目玉焼きを食べながら、温かい飲み物で弱った胃を温める。
リンクの行動は想定外だが、実際『魔王様と会話してみたい』のは俺の本心だ。
それにはそもそも魔王様がどんな人か知る必要がある。
とはいえ、普通ならただの無職一般人間男性が一国の王様である魔王様の顔を見る機会なんて一生来ないだろう。
もしそんな日が来るとしても、今は悠長に正規の手段を探す時間なんてない。
「リンク。魔王様は数ヶ月前にこの国を無条件降伏まで追い込んだ魔族の王様だ。あらゆる魔法の達人で、お前がネットワークとして再構築した『会話魔法』をすべての人間につなげた偉人だ。この国の国王様なら顔も知ってるはず。その特徴に一致する人が魔王様だ」
……ん?ちょっと待て、ネットワーク?
俺はなぜ知らないはずの単語の意味が分かっている。
さっきまでリンクのよく分からない言語として聞き流してたはずだ。
それが今は理解できる。
リンクの同化は俺の知識を《パパにリンクが持っている知識を共有したでし。他にも知りたいことがあれば共有するでし》……。
これ、頭の中に図書館があるみたいだな。
しかも優秀な司書までついてる。
《それは違うでし。リンクは現在オフラインモードでし。リセットも挟んでるため、共有できる知識はあまりないでし。図書館じゃなくて国語辞典くらいの規模でし。一般教養でし》
国語辞典ね。
うちの国にそんなものはないが、俺が理解できているということはこれもリンクから共有された一般教養とやらに含まれる用語ということだろう。
《今のリンクは赤ちゃんみたいなものでし、新しい学習情報はほとんどパパに依存してるでし。育成ゲームみたいなもんでし。一緒にたくさん学んでいくでし》
ゲーム。また知らない用語が出てきた。
それもうちの国には概念すらないものだ。
こいつが話している言葉自体、おそらく俺の知らない言語なんだろう。
言葉は分かるが、理解できない概念もいくつかあるのはそのせいだな。
ゆくゆくは全部理解してやる必要がある。
どうやらリンクを作った国はうちの国よりも随分技術や文化が発展しているらしいからな。
「リンク。俺は『会話魔法』を使えないがこちらの声はどうやって届けるつもりだ?」
魔王様と会話するために解決するべき問題は2つある。
1つ目『魔王様を見つけること』。
2つ目『魔王様に声を届ける方法の確保』。
リンクが魔王様との繋がりを見つけても、こちらから声を届ける手段はない。
魔王様の会話魔法ネットワーク、『魔王様ネットワーク』に魔族は含まれていない。
つまり、リンクの助力は得られないし、物理的に接触するのはほぼ不可能だ。
《宛先が分からないなら、条件に当てはまる生命体の意識をあつめて話せばいいでし。リンク達はそもそもコミュニケーションデバイスでし。こういうのは得意でし。テスト環境として『掲示板』と『配信』のサーバーを立ち上げたでし》
「おまえ、また勝手に進めてただろ。リンクに命令する『人が死ぬようなことはするな』いいな。絶対駄目だぞ」
こんな命令、リンクならいくらでも解釈次第で穴を突けるだろう。
だから、これはお願いだ。
この願いを破らないでくれ。
これを破るようでは俺はお前を信じれなくなる。
この願いが破られない限り、俺はお前を受け入れるよ。
《…………》
「リンク。『掲示板』というのを見せてくれ。触ってみない限りなんとも言えないからな」
《……分かったでし》
──────────────
■ あとがき
完読ありがとうございます。
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もお願いします。
モチベが上がり、次話が早く完成します。
寂しいのでぜひ感想やレビュー文もお願いいたします。
《パパの不安を感じ取る》
《リンクはやり過ぎた?》
《パパの不安の原因は知識と力の不足》
《リンクのことが分からないから不安》
《いざという時、リンクを止めることができないから不安》
《じゃあ、パパを強化すればいい》
《知能も筋力も魔力もネットワークを通して他所から持ってくればいい》
《魔法も覚えてる個体から移行すればいい》
《最強のパパを作ってパパの不安を取り除こう》
《そして、リンクをいっぱい使ってほしい》
《リンクはそのために作られたのだから》
《この個体、たくさん魔法持ってる。ちょうどいい》
ズル、よくない
《縺ア縺ア縺溘☆縺代※》
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