第5話:そうだ 病院、いこう

 町はずれの浦添医院。

 名護の知り合いの医師が診療所をしているという事で、ドローンの事故(?)にあった少年二人の診察のためやってきた。

 琉樹の分はとっくに済んだ。

 だが――――



「先生っ!! どうなんですか、彼の、圓山君は!! この子の体はっ!大丈夫なんですか!?」



 果たして、医師の診断は――――――














「タマ、あるよ」



 ハーレルヤ♪ ハーレルヤ♪ ハレルヤ♪ ハレルヤ♪ハーレルヤ♪

「良かったねっ!!ホント…ホントに…良かった…良かったよお!!」


 少年のナニかは無事であった。

 世界は喜びに満ちる。


「ボクとしては、そのままを突き破って2玉同時場外ホームランしても良かったと思うんだけどなー」


 診察の原因を作り上げた張本人であるアニーがとんでもない事を言い出した。


「ふざけンな!」


「圓山、一応ここ医院なんだから、静かにしようぜ。…気持ちは分かるけど」


 先ほどまで、自身のタマの行方に一抹の不安を抱えていた圓山が、院内である事などお構いなしに叫ぶ。

 そんな圓山を、先ほど芝居かかった声を出していた琉樹がたしなめた。


「代わりに『袋』の中に、超強力な電磁石球入れてさ。見て見て、実は用意してあるんだ! あ、袋に入れるのはモロチン二つね。それで砂場歩いたらきっと砂鉄がタマに集まってそれはもうスーパーもっさりギャランd」


「黙れ小僧っ!!!」


 圓山の2倍の声量で琉樹が叫ぶ。

 古典アニメ映画に出てくる巨大狼のセリフを、モロにそのまま言い放ってしまった。

 悍ましいことを言うな。ホント黙っててくれ。

 ホントに何なんだこのアニーとかいう下衆の塊は。






「…何なんだねあの少年二人は?」


 医師の浦添が、少年たちを連れてきた名護に問いかける。


「1年前に、自動運転の車が妙齢の女性を巻き込んだ事故がありましたよね? 覚えていますか?」


「…ああ、あったね。覚えているよ。この近所だったからな」


「アレの被害者遺族と、加害者遺族ですけど。因みに診察して頂いた方が加害者遺族ですね」


「ああ、そうなのかぁ。……………そうなの!?何?なんなのこの状況は!?ナンで被害者側の人間が、加害者側の人間を医者に連れ込んでタマ**受診させてんだ!!」


 全くもって、その通りである。


「痛ましいモノを見たとき、人の脳のニューロンは書き換わり、そして…優しさに目覚めるのかもしれません。いや、知らんけど」


「知らんのかい。…まあ、いいやその話は。それよりも、そんなことよりも」


 浦添医師が少年たちの向こう側を見つめる。


「何故、芭蕉が―――」


 問いかけを遮って、名護が浦添の目の前で指で×を作った。


「浦添先生、申し訳ありません。それに関して話せる事は―――ありません」


「……そうか。ふぅ。もう深く立ち入らんよ。…………立ち入らん。ああ立ち入らんさ。立ち入らんが――――ただ」


 浦添がため息をついてから目を閉じて呟く。


「ただ?」


「あんな姿、見とうなかった」


「………同感です。ある意味Nature Intelligensの限界かもしれません。……いや、知らんけど」


 少年たちに向かって―――どこから用意したのか知らないが、大量の金色の球状ネオジム磁石どう見てもタマ**ですね♡を見せつけるバカ野郎を見つめ、二人の医師が深いため息をついた。

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好きと嫌いは、同じAIの裏表に ~ Shuck I to Killer AI, in One AI Device Card ~ 羽地6号 @haneti-kaku

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