舌切り雀元話

なにゅん

第1話

むかしむかし、ある村に年老いても盛んなお爺さんと、善良なお婆さんがいました。


とある日のこと、お爺さんは日課となっている谷の露天風呂を覗きに行くと、いと若き女人が湯あみをしているところに出会いました。元気になったお爺さんの姿を目にし、いと若き女人は叫びをあげて惑い転び、うっかり膝に怪我をしてしまいました。


「あな、おかし」

お爺さんはいと若き女人の傍に駆け寄り、それは優しく介抱しました。

事が済み、お爺さんはいと若き女人を山に放ち帰そうとしましたが、いと若き女人はわがことを大いに嘆き、

「ここに至りては、もはや帰り難し」

とすすり泣きました。


お爺さんはその様を見て情が移り、いと若き女人に「雀」と名を付けて可愛がることにしました。

お爺さんは雀を背に負い、家に連れて帰りました。

しかし、嘆く雀を愛でるお爺さんの様子は、当然お婆さんには面白くありません。


お爺さんが日課の散歩に出かけたある日、お婆さんは井戸端で障子の張替に使うために糊を作っておりましたが、放置されてお腹の空いた雀は隙を見てそれを食べてしまいました。


お婆さんはほとほと呆れ嘆き、

「翁には、舌を切りて野に放ちしと申しおくべし。されば、里に帰りたまへ。」

とのたまい、雀にはおにぎりを持たせて山に帰しました。


収穫なく家に帰ったお爺さんは、話を聞いて執念深く山に分け入り、とうとう藪の中に雀の住む里を見つけました。


雀は、お婆さんの糊を勝手に食べてしまったことを詫び、もう帰りたくないと頑なに首を振りました。しかしお爺さんは欲を捨てず、ふた親には事を告げて雀を家に連れて帰ろうとしました。


ふた親は大いに思案し、村を挙げてお爺さんを歓待しました。そして帰り際に、村の土地神さまを祭る社にてお祓いを施した大きなつづらを用意して、

「このつづらに雀をば押し込めしゆえ、持ちて帰りたまへ。」

とお爺さんに伝えました。

また、

「帰るまで、このつづらは決して開くべからず。」

とも申し伝えました。


お爺さんは、道々にたけだけしき思いを募らせ、とうとう山を下りる途中でつづらを開けてしまいました。すると、つづらからはおどろしい姿の鬼神が現れ、お爺さんは食べられてしまいました。


一方、お婆さんはお爺さんを心配し、山に入りました。

藪を分けさ迷いつつも雀のお里を見つけ、かくかくしかじかと事を打ち明けたところ、雀は家からまろび出でて、お婆さんにお礼の言葉を述べました。


ふた親も痛く感謝し、山の幸を詰めた小さなつづらをお婆さんに持たせて帰しました。

お婆さんは、

「あはれ、口惜しきこと。されど、まことに因果応報の理なりけり。」

とため息をつきつつ、山を下りました。


その後、お婆さんは村の親切なおなご衆とともに死ぬまで健やかに暮らしましたが、おとこ衆は分け知らず、いつしか怪しげな物語となって村々に伝えられました。


―甲斐山窩口伝逸話集より―

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