あああああああ達の牢獄

ガビ

あああああああ達の牢獄

 名前というのは、何かしら意味をつけてつけられるものらしい。


 僕にも一応、『キャラット』という呼び方をされる。草の攻撃が得意な妖精の種族だ。


 しかし、それは種族の名称であって名前ではない。


 僕達の主である存在も、人間という種族らしいけど優一という名前がある。


 おそらくだけど、親が優しく育つようにと願った名前なのだろう。


 そんな愛情のある名前に比べて、僕の名前ときたら「あああああああ」である。


 主と僕の最初で最後のコミュニケーションは、「これからよろしくな! あああああああ!」だったものだから、この人間は頭がおかしいんだなと気の毒になった。


 しかし、主と共に旅をしているレギュラーメンバーのことは、まともな名前で呼んでいた。


 炎を操る龍である『ダイドウ』は『レッド』。

 水攻撃が得意な亀の『コマン』は『バブル』など、センスがあるわけではないが覚えやすい名前を持っていた。


 これはどういったことかという疑問には、このデータ上の待機場所の先輩に答えてくれた。


 たくさんのモンスターがいる、どこまでも広い空間だ。この白い光景がどこまで続いているのか気になり、何時間もかけて歩いたこともあった。

 しかし、どれだけ歩こうとも、変わりばえしない白い壁と床があるだけ。

 その日、僕はこの奇妙な場所から脱出することを諦めた。僕なんかが攻略できるようなものではない。


 ただ、寝たり他のモンスターと遊ぶだけの日々を送っていた。


 しかし、巧くこの空間に馴染めないモンスターもいる。

 隅の方でうずくまっているのは、希少性の高い闇属性を持つ「シャムロック」だ。

 かつては鋭かった牙も、時間という何よりも強い概念によってへし折られてしまった。


 きっと、孤独が彼を壊してしまったのだろう。


 そんな地獄で、僕を孤独から救ってくれた先輩の名前も、「あああああああ」だった。


 先輩は色んなことを僕に教えてくれる。

 知り合って間もない頃なんかは、この世界の真実を教えてくれた。


「実はな。この世界は『メシア、フロンティア』というゲームなんだ」


 先輩は雷を自在に操ることができる、バナードという種類のモンスターだ。僕なんかよりずっと強いはずの彼も、この待機場所で時間を持て余すだけの生活を送っている。


「ゲーム?」


「あぁ。ここは、別空間で主よりも高い技術を持つ人間達が作った架空の世界なんだよ」


 こんな馬鹿げた話、普段の僕なら鼻で笑って終わりだっただろうけど、何故だかスッと腑に落ちる感覚があった。


 僕には確かに今まで生きてきた5年の記憶がある。自分なりに必死に生きてきたつもりだ。


 でも、それが誰かによってもたらされた偽造の記憶なんだと言葉にされると頭の片隅にあったモヤモヤしたものの正体が分かった気がした。


「つまり、神様みたいなもの?」


「んー。神様というには愚かな連中だけど、まぁ俺達にとってはそうなんかな」


 それからも、先輩は神様の話をしてくれた。


 プログラムというものも作ったらしく、僕達の言動はそれによって決められているらしい。


 しかし、別世界でこのゲームを遊んでいるプレイヤーだけは、あちこちを動き回ったり、捕まえたモンスターに名前をつけたりできるとのことだ。


 その時のプレイヤーのコンディションによっては、名前を考えるのも操作するのも億劫になり、ボタンとやらをひたすら連打することによって「あああああああ」という名前が生まれることがよくあり、先輩と僕以外にも10体はいる。


 色々と聞きなれない言葉があって分かりにくかったけど、理解する必要はないのだらう。


 だって、僕達がここから出られる可能性は0に等しいんだから。


 バカでかいモニターには、険しくもやりがいのある冒険をしている主とレギュラーメンバーの6体のモンスターがバトルをしている。


 素晴らしいチームワークで、強敵をバンバン倒している。


 定期的に主がピクリとも動かなくなるのは、別世界のプレイヤーがゲームを中断したのだろう。


 しかし、すぐに戻ってきて楽しい冒険が再開する。


 その冒険に、僕達「あああああああ」達の出番はない。


 先輩達と一緒に、ここで大人しくしていよう。

\



 そんな、絶好調な主とレギュラーメンバー達も壁にぶち当たった。


 どうしても倒せないモンスターが現れたのだ。


 ラスボスがいるダンジョンの門番である鎧を身につけたそいつは、とにかく防御力が高い。いくら攻撃しても倒れないのだ。


 どれだけレベルを上げても。

 どれだけキズ薬を持って行っても全滅してしまう。


 当たり前だけど、バトルというのは勝たなくちゃ楽しくない。


 この連敗が故に主、もといプレイヤーの心を折った。


 結果、もう主は7年間動いていない。


 名前も知らないプレイヤーは、ゲームを降りたのだと、頭の良くない僕でも理解できた。


 その結果、6体のモンスターは門の前でこの7年を過ごしている。


 絶望するには充分すぎる時が流れてもなお、6体の目は死ぬことは無かった。


「……ねぇ、先輩」


「あん?」


「あの6体も、ここに来てもらうことってできないかな?」


「は?」


 信じられない馬鹿を見るような目で見られる。まぁ、実際に馬鹿だから仕方がない。


「だって、ずっと外にいるの可哀想だよ」


「そうだけど……俺らは何もできない。何も変えられないんだよ」


 先輩の言う通り、何か有効な手段があるわけでもない。


 無力だ。

 作られただけの僕達は、圧倒的に無力だ。


<……待機場所にいる、心優しいモンスターよ>


 モニター越しに映るレギュラーメンバーの1体、レッドが言う。


 何秒か、それが自分に向けられた言葉だとは思わなかったが、程なくこちらに話しかけているのだと理解する。


 こちらから見えているということは、向こう側も、こちらの様子が分かるシステムがあっても不思議ではない。


「心遣い感謝する。しかし、いつ主が帰ってくるのか分からん。我々は引き続き、ここであの方を待ち続ける」


 他の5体も、彼の言葉に深く頷いている。


 先ほど、僕「達」は無力だと言ったのは取り消そう。


 少なくとも、この6体は最強だ。


 待つというのは、どうせ来ないと諦めなければ苦行でしかない。

 それを、この6体はこれからも続けると言うのだ。


「……はい。出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」


「謝ることは無い。君の提案は嬉しかった。ありがとう」


 あぁ。

 神よ。


 世界を作り上げることができるのなら、この6体を救ってあげて下さい。


 主人公がいなくなったこの世界に、どうか救いを。


 この、底抜けに強くて優しいモンスター達を。

 ついでに僕達を。

 お救い下さい。


 彼らと違って弱い僕は、祈ることしかできなかった。



-了-

 

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