それは緊張しすぎです!

柳傑

緊張に潰されないようにするには

「こんなはずじゃなかった」──。


 本番のあと、そうつぶやいたことはないだろうか。


 準備はしてきた。

 練習も重ねてきた。

 

 けれど、いざプレゼンの壇上に立ったとき、試合のホイッスルが鳴ったとき、コンクールや試験の本番が始まった瞬間、心臓の鼓動がやけにうるさく感じられて、手が震え、頭が真っ白になる。

 

 いつもの自分が消えてしまったような感覚。

 

 そして終わってから襲ってくるのは、後悔と自己嫌悪である。


 こういう経験が一度でもあると、「また本番で失敗したらどうしよう」という不安が頭をよぎり、次の場面でもまた同じことが起こる。

 

 それを繰り返すうちに、「本番に弱い自分」というレッテルを、自分で自分に貼ってしまうのである。


 けれど、そもそもなぜそんなに緊張してしまうのか。


 それは――【自分が自分に、とてつもないプレッシャーをかけているから】である。


 失敗できない。

 失敗したら笑われる。

 失敗したら無能だと思われる。

 

 そんな思考が、あなたの頭の中に知らず知らずのうちに積み重なっていく。


 本番は「何かを証明する場」であり、「完璧でいなければならない場」だと、勝手に思い込んでしまっている。


 でも、それは明らかに考えすぎである。

 

 このことが、どれほど自分に対するプレッシャーになっているのかは想像に難くないだろう。


 誰もそこまであなたに厳しくない。

 

 何より、たとえミスしたとしても、


 考えてみて欲しい。


 あなたが最後に見た、人の失敗はどんなものだっただろうか?


 すぐに思い出せた人はほとんど居ないのではないだろうか。


 他人の失敗なんてほとんど覚えていないものである。


 自分もいちいち他人がどんな失敗をしているのか、わざわざ覚えたりはしないはずだ。


 けれど、自分だけはそれをずっと覚えていて、「あのときの自分はダメだった」と責め続ける。

 

 つまり、緊張の正体は「他人の目」ではなく、【自分自身の目】なのだ。


 では、そんなふうに自分で自分にプレッシャーをかけすぎていることに気づいたとき、どうすればいいのか。


 答えはシンプルである。【深く考えないこと】。


「失敗しても、まあそれはそれで仕方ないか」


 そうやって、少しでもいいから“ゆるさ”を持たせるのである。


 そもそも、「失敗=終わり」と考えていると、緊張は無限にふくれ上がる。


 当然のことだ。


 今一度冷静に考えてみて欲しい。

 

 この場で失敗したら、今の立場、信頼、これまで積み上げてきたもの。

 すべて失うのか?


 答えはNOだ。


 深く考えずに、「失敗しても失う物なんて大した事ない」「あとから笑い話にできる」と思えた瞬間、不思議と体の緊張もほどけてくる。


 むしろ、「緊張できるほど、頑張ってきたんだな」と認めるだけでいい。


 緊張を“排除すべき敵”ではなく、“栄誉の証”として扱ってやると、心がちょっと楽になる。


 さらに、言ってしまえば、どうせ失敗するかもしれないなら、ガチガチに緊張して何もできないより、自分の力をちゃんと出しきった上で失敗するほうがマシである。


 そのほうが、終わったあとに悔いが残らないし、「あのときはあれが限界だった」と自分を受け入れやすい。


 本当の意味で自分を認めるというのは、結果じゃなく「出し切れたかどうか」にあるのではないかと思う。


 それに、緊張そのものをゼロにする必要なんてない。


 むしろ、適度な緊張は集中力を高めてくれる。


 演奏家やアスリートがよく言うように、「いい緊張感があった」ときのほうが、むしろパフォーマンスは上がるのである。


 大事なのは、緊張をなくすことではなく、うまく使うこと。


 そう考えられるようになると、緊張はもはや恐れるべきものではなくなる。


 本番で緊張するのは、あなただけではない。


 誰だってそうである。緊張しない人間など、ほとんどいない。


 ただ、その緊張をどう受け止め、どう付き合うかで結果は変わってくる。


 自分に過度なプレッシャーをかけていたことに気づいたら、少しだけ肩の力を抜いてみてほしい。


「失敗してもまあいい」「できることをやろう」──それくらいの気持ちで臨んだほうが、案外いい結果が出たりする。


 むしろ、そういうときのほうが、自分の力を素直に出せるものである。


 そして、もし失敗したとしても、それはあなたが“勝負の場に立った”証拠である。


 逃げなかった、その一歩は確実にあなたの中に残る。


 次に同じような場面が来たとき、それが必ずあなたを支えてくれる。


 緊張は、あなたが真剣であるというサインだ。


 ならば、それを無理に消そうとするのではなく、大事な場面に挑む“相棒”として連れていけばいい。


 うまくいっても、いかなくても、自分の力を出し切れたと思えたら、それが本当の成功ではないかと私は思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それは緊張しすぎです! 柳傑 @suguruyana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ