✨特別編「風は、ことばを運ぶ」

――あれから一年。言葉はまだ、僕たちのそばにあった。


春。

校舎の桜が、また今年も静かに咲いた。


都立言語魔法学園の校庭には、制服にまだ慣れない新入生たちが、花びらをはしゃぎながら追いかけている。


その様子を、部室の窓から眺めていた。


「……もう、俺たちが“先輩”なんだな」


武田涼が言う。

かつてはムードメーカーに徹していた彼も、今では後輩に構文リズムの基礎を教える“頼れる副部長”だ。


「今年の新入生、やたら即興詠唱志望多くない?」


「……あなたのせいよ、全部」


詩織がため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑う。

彼女は正式に部長となり、構文倫理や感情共鳴の指導担当として後輩たちの信頼を集めていた。


「私、少しずつわかってきたの。

 “強い言葉”って、何かを壊すものじゃなくて、“支えになるもの”なんだって」


部室の隅で、ノートに詞を綴っていたカノンが、そっと口を開いた。


「……ことばは、音になる前に“誰かの想い”になるから」


彼女の隣には、今では正式に詩的構文と歌詞構文を融合させる“デュアル詠唱”を研究する後輩がいて、少し緊張しながら彼女の構文記録を見つめていた。


僕はというと――


去年の大会以降、数多くの詩的構文に関するオファーを受け、詩とAI構文解析の接続可能性を研究テーマにしていた。


けれど、そんな肩書きより大切なことが、今の僕にはある。


それは、“この場所”に、戻ってきた理由を忘れないこと。


放課後。

部室の黒板に、今年の目標を書き出した。


【目標】

『言葉で、誰かを勇気づける構文を完成させること』

『卒業までに、詩集をひとつ作ること』

『春人先輩と、また共作すること(カノン・私情)』


誰かがふざけて書き加えた一文に、皆で笑いながら訂正線を引こうとして――やめた。


「……それ、いい目標かもね」


詩織がそっと言う。


僕たちはまた、今日もペンを握る。

AI解析装置は時に気まぐれで、構文は時に暴れもするけれど――


それでも。


詩は、まだ“生きている”。

僕たちの中で、今も言葉が揺れている。


そして、その言葉がまた、

誰かの心に灯るなら――


それはきっと、魔法だ。


卒業式の日。

白詰草の咲く小道で、僕は一編の詩をノートに書いた。


「たしかにあった、言葉の日々

 笑った日も、泣いた日も

 ぜんぶ、詩になって


 いま、未来の風に託す

 この“ことば”が

 誰かの光になりますように」


風が吹いた。

春のはじまりを告げる、やさしい風だった。


それは、ことばを乗せて運ぶ風。


まだ見ぬ誰かの心へ。

未来へ。

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言の葉の魔術師たち 〜AI詠唱構文が紡ぐ青春〜 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

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