🌅第20話(最終話)「ことばの、その先へ」

――すべての詩は、この一行のために。今、言葉は“魔法”を超えてゆく。


決勝戦の朝、僕たちは早くから会場に集まっていた。

凛とした冬の空気が、少しだけ心を引き締めてくれる。


対戦相手は、関西代表・鳴神高等術言学院。

リズムと連詠を武器にした構文詠唱の強豪校だ。


でも、恐怖はなかった。


全国大会という舞台に、僕たちは“自分たちの詩”を持ってきた。

恐れずに書いた。誰かのために、何より自分のために。

それだけは、胸を張って言える。


決勝戦は、自由詠唱・団体構文戦。


テーマは掲げられていない。

代わりに提示されたのは、一行だけの問い。


「あなたにとって、ことばとは何か」


「これは……“答え”じゃなく、“存在証明”ね」


詩織の言葉に、誰も返さなかった。

代わりに、静かに構文端末を開く。

もう、語る必要はない――今は、詠うだけだ。


先鋒:武田 涼


「Yo、オレは逃げた。ことばをふざけて

 傷つかねぇ道、選んで笑った

 けどな、今なら言えるぜ――

 “本音こそが、詩の原点”ってな!」


構文名:《真言崩壊式・BreakLaugh》

形式:コード構文/分類:自嘲共鳴型


構文が爆ぜ、ステージに一瞬だけ虹色の稲妻が走る。

観客から笑いと、同時に、拍手が起きた。


中堅:古谷 カノン


「こえにならなかった こえたちを

 うたにして 届けられるなら

 わたしは もう、沈黙しない」


構文名:《自己詠唱型・Canone(カノン)》

形式:歌詞構文/分類:自己覚醒型


透明な光が舞い、会場全体に共鳴の波が走る。

その音は、静かに観客の胸を震わせた。


副将:綾瀬 詩織


「たしかな答えを求め続けた

 でも、ことばはいつも揺らいでいた

 それでも私たちは、詩を綴る

 “それでも”を、遺すために」


構文名:《継詠詞・ことのはの橋》

形式:古語構文融合型/分類:記憶継承型


風が吹き、宙に浮かぶ詩文が橋のように光を架ける。

それは“過去”と“未来”をつなぐ構文だった。


そして――大将:井上 春人


ステージ中央に立つと、視界が少し霞んだ。


(思えば、はじめはただの詩だった。誰にも届かなくてもいい、そう思っていた)

(でも、今は――)


僕は、言葉を紡いだ。


「伝わらなくても、書いてきた

 届かなくても、願ってきた


 でも、今は知ってる

 ことばは、魔法になる


 誰かの手に、誰かの涙に

 そして、自分の明日に


 だから、

 この一行を――信じて、託す」


構文名:《詠終ノ詩(えいしゅうのうた)》

形式:詩的構文・感情超共鳴型

評価:SS/現象指数:最大記録更新


構文光が咲いた。


それは花だった。

ステージ全体に、ひとひらずつ、詩のような光の花が咲き乱れた。


風に乗って、春の匂いがした。

まだ冬なのに――。


会場が、静まり返る。

誰もが、言葉を失っていた。


けれど、皆の心には

“ことば”が、確かに残っていた。


【大会結果:優勝 都立言語魔法学園】


歓声が弾けたとき、僕たちはまだ、呆然としていた。

勝ったことよりも――言葉が届いたことが、ただ嬉しかった。


帰り道、詩織が言った。


「……“ことばの魔法”って、きっと、奇跡じゃないのね」


「え?」


「積み重ねた想いと、震えながら選んだ一行が、

 誰かの世界を少しだけ変える――

 その“変化”が、たぶん一番の魔法なのよ」


僕はうなずいた。


僕たちは、まだ未完成の詩人だ。

でも、言葉を諦めない限り――

世界は、少しずつ変えられる。


だから、これからも書き続ける。


「ねえ、春人くん。これからも一緒に、言葉を紡ぎましょう?」


「もちろん」


これは、ことばの物語。


青春と、魔法と、声にならなかった想いと。


そして、僕たちが選んだ、未来の詩。

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