第4話「5フレームの真実」

今がこの世界でいつ頃の季節なのか、そもそも四季があるのか分からないが――

夜も更けて少し肌寒さを感じる。

テレビ局が支給してくれたジャケットごと転生させてくれてよかった。


「なかなか来ないな」


「ね。今日は来ないとかだったら困るな」


気を張っていたレインも、さすがに2時間が経つと暇に感じてきたようだ。

瞬はそれに同意して軽く談笑しつつも、気を緩めない。


「今更だが、念のためこれを渡しておこう」


何か文字が刻まれている、ヒスイ色をした石をレインが腰のポシェットから取り出した。


「なにこれ?」


「魔石だ。水の魔法が使える。もし襲われたらそれを握って念じるといい」


礼を言ってポケットにしまう。

やっぱり異世界って便利だなぁ。


そこからさらに1時間くらい経っただろうか。

昼から変わらずそこにある2つの月を見上げる。

本当、どういう原理でこの世界は回ってんだろ。


張りつめていた胸の空気をふぅと吐き出す。

その時。


キィィーンと、ハウリングのような高周波音が響いてきた。

――これか!瞬はすかさずRECボタンを押す。暗闇に赤い録画中のランプが光る。


「くるぞっ!」


寝かけていたレインも目を開いて叫び、瞬とカメラを見る。

呼びかけよりも早く動いていた瞬を見て、レインは目を見張った。


ファインダーに注視するために左目を瞑る。

プロは両目を開けて撮影することはできるが、やはりここ一番はファインダーに集中したい。


高周波音が大きくなる。音声のインジケーターはすでに振り切っている。

いつだ、いつ来る。


月明かりの夜の下、影が動く――ように感じた。

次の瞬間、香草が消えていた。あまりの速さに、瞬は笑うしかなかった。


「おい、記録できたのか!?」


「回してはいたから、多分大丈夫。戻って見てみよう」



宿へ戻り、即座にサムネイルを開く。村の全景を映したカットの次に、件のカットはある。プロなので、大事なシーンはワンクリップで済ますのだ。


「まずは普通に見てみよう」


キーンと、高周波音がスピーカーから響く。

香草の葉が揺れているのは風のせいだろう。

音が段々大きくなる。


そして――音のピークが過ぎたと感じたら、それが無くなっていた。何かは居たとは見えるが、通常の人の目ではそれが何かまでは認識することはまず不可能だろう。


「さっぱり分からん。何か通ったとは思うんだが……これじゃあ結局分からないじゃないか」


横で少し興奮していたようなレインが、肩透かしを食らったかのように言う。


「まぁまぁ、慌てなさんなお嬢さん。こういうのはね……」


無くなった直後までボタン長押しして巻き戻す。

逆再生される映像にレインは何か言っていたようだが、耳に入らない。

そこからボタンを軽く押していくと……


「いたいた、コイツだな、犯人は!」


1フレームずつ戻し、ようやくその“何か”が露わになった。

映っている時間は、およそ5フレームといったところか。

これじゃ分からないわけだ。


よくよく見ると、全身が煤けた影のような体毛に包まれ、四足。

目は蛍のように鈍く光り、頭部には小さな角のようなものが見える。


「モンスター……?」


レインがモニターをよく覗き込むと、表情が固まった。


「……私の知る限りでは、コイツは“ソロノア”。こんな南の村に出るはずない」


「知ってるのか?」


「北の方にいると聞くが、めったに出ない魔物だ。夜行性で、動きが異常に速い。人目を避けるのが得意で、何匹かの群れで動くらしい」


「じゃあどうやって対処するんだ?」


「うん、これも聞いた話だが、1匹捕まえて叫ばせれば他の個体は寄ってこないらしい」


識別すら難しいコイツを捕まえるだって?


「どうやって?」


「魔法で囲い込んで捕縛、だな。普通の方法ではまず無理だろう。

まぁ犯人が分かれば、あとは対処するだけだ。

王都の魔術師を派遣してもらわないとならないだろう」


何はともあれ、お手柄だな、記録魔法も大したものだ、とレインは瞬の方を叩いて労う。瞬は自分の技術が人の役に立てた充実感を覚えつつも、頭にはあることが浮かんでいた。



翌日。

さっそくレインと一緒に映像を酒場の主人に見せに行く。

まず映像が再生されることに主人と興味本位で集まっていた村人たちは驚いていたが、1フレームごとに止めて再生して見せると、さらに沸き立った。


「コイツだ! コイツは……なんでぇコイツ?」

「魔獣か? でも見たことねぇぞ」


件のシーンで止めると、周りの村人たちはその見たことのない魔物に首をかしげていた。レインが口をはさむ。


「コイツは“ソロノア”という。もっと北の、それこそ雪が凄い地域で見られるようなヤツなんだが」


なんでそんなヤツがこの村に?とざわつく。


「対処は難しいから、今から王都に要請して魔術師を派遣してもらうしかないだろう」


「はぁ……そうなるといつになるんじゃろ」

「来るまでにベゼラが全部盗まれるんじゃないか」

「俺たちのベゼラが……」


村人たちは落胆した様子で、口々に王政への文句を挙げていた。

そんな様子をしり目に、レインが大きな声を挙げた。


「相手が何か分かっただけマシだろう。それもこれも、シュンと記録魔法のおかげだな!」


バシンと、カメラの前に座る瞬の背中を叩く。

あはは、と照れ笑いをしながら、瞬はどうもどうもと頭を下げた。


「ま、そうだな!兄ちゃんありがとよ!」

「おうおう、次もなんかあったら頼むぞ!」


俺が撮った映像で、こんな風に言われるなんてな。

今までこんな経験無かったな。

取材先の人には感謝されることはあるけれど、視聴者の声なんて聞こえてこない。

例え聞こえてくるとしてもバッシング。


俺がやったことが、こんな歓迎されるなんてな――

嬉しい気持ちでいっぱいになる。


しかし同時に、この映像では根本的な解決に繋がっていないことに、もどかしさを感じていた。

ソロノアは対処法は分かっていても、そもそも元の1匹すら捕まえられない。

報道しても注意喚起にすらならないパターン。


酒場を出て、ポケットに手を突っ込んで空を仰ぐ。

どうにかしてあげたいが……指先にコツンと、固い感触。

取り出すと、レインからもらった水の魔石だった。


「魔石……魔法を込める……?」


その瞬間、小さな可能性が心の奥に灯った。

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レンズ越しの異世界~転生カメラマン、記録魔法で世界を撮る~ 結名 光 @camera_man

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