バレンタイン・ウォーズ
海湖水
バレンタイン・ウォーズ
今日は、バレンタインだ。
バレンタインというのは、好きな人にチョコレートを渡すイベント、一般的な認識はそのようなものだろう。
しかし、残念ながらこの学校では違う。
「おはよぉ、今日はバレンタインだねぇ」
「おはよう、ツムギちゃん。チョコレート作ってきたの?」
「うん、そうだよぉ。シャムくんに渡そうかなってぇ……」
朝、登校時に会ったツムギちゃんは、渡す人の名前を口に出した時、しまった、という顔を見せた。ただ、私が彼の名前を聞いても顔色を変えなかったことから、私の渡す予定の人とは違うと察したのだろう。再び話を戻す。
「でも、シャムくんって人気じゃなかった?確か狙ってる人30人くらいいたような」
「公式サイトを見るにもう23人まで減ってるみたいだよぉ。私も朝に1人倒したし」
「……やっぱりツムギちゃん強いな」
「まあ、争奪戦だからねぇ……そういえばハルナちゃんは誰に渡す予定なのぉ?」
「……私は渡す予定はないよ。エントリーもしてないし」
ツムギからの問いかけに、私は頭を振った。
バレンタイン、それはこの学校にとっては戦争である。各々は学校から配布された電子機器で、自分のチョコレートを渡したい男子にエントリーし、特殊なペイント弾で一日中戦い、最後まで勝ち残った人がチョコレートを渡すことができる。確か校長が歴史あるイベントみたいな話をしていた。こんなイベントが長く続いているという事実を私は信じきれていないが、とにかく恋の戦争はもう始まっているのである。
しかし、別にチョコレートを渡す予定のない人は話が別だ。
エントリーしていなければ他の人から狙われることもないし、この騒乱に巻き込まれることもない。私は好きな人もいないし、今年はエントリーしない道を選んだ。
「あ、近くに1人いるらしいよぉ」
「そのスマホやっぱり便利だね。位置情報とかわかるし、ハイテク」
「じゃあねぇ、私は行ってくるぅ」
「うん、頑張って」
私の言葉にツムギは頷くと銃を片手に走り去っていった。
学校についたら、戦争は一時休戦だ。
授業中は銃を全て没収され、一時的に戦うことを禁止させられる。
私にとっては、皆と仲良くしたいこともあって、学校の中で一日中過ごしたいと思っていたが、他の人はそうでもないのか、教室はピリピリとした空気で溢れていた。
ふと、ポケットに入れていたスマホがブーブーと震えた。何かメッセージが来たのだろうが、今は授業中。あとで見ようと、私はスマホではなく教科書に目を落とした。
放課後、私は靴箱でスマホにメッセージが来ていたことを思い出した。
誰からだろう。そんなことを考え、スマホの電源をつけると、画面にはシャムくんからのメッセージが映し出された。
『放課後、屋上で』
私は靴箱に靴をしまうと、屋上へと駆け足で向かった。ちょっと嫌な予感がする。
屋上に着くと、シャムくんが小さな箱を片手に立っていた。
私が声をかけようとすると、シャムくんが口を開き、私の方へと手に持った箱を突き出す。
「これ、受け取ってくれる?チョコレート、作ってみたんだ」
「……いいの?」
「うん、ぜひ受け取って」
私はすんなりとこれを受け取った。その後、どうなるかもなんとなく予想しながら。
帰り道、ツムギと出会った。
「ねぇ、ハルナちゃ〜ん、その手に持ってるものなぁにぃ?」
「……えっと……これは……」
「よーし、じゃあハルナちゃんは今日だけは敵だねぇ。あ、みんなも狙いに来てるらしいから気をつけてねぇ」
「ははは、知ってた」
私はツムギから背を向けて逃げ出した。
乙女の戦争はまだまだ続きそうだ。
バレンタイン・ウォーズ 海湖水 @Kaikosui
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