5-2 夏の終わり
明日から学校が始まる。
地獄のテストの後に待つ学園祭、クリスマスに初詣、運命を決める入試を終えればあっという間に卒業。
バースデーパーティーのとき顔を見せなかったカズさんに対して女子たちからはチクチク、ネチネチと大バッシングを受け、心が折れたのかついに行動に移した。
綾子をラグーナの裏に呼び出し気持ちを伝えている。
俺たちは二階の窓から顔を覗いているが、いつになく緊張しているカズさんが面白くて顔がニヤけて仕方ない。
笑ってはいけないのはわかっているから必死に堪えようとしているのに星司が笑かしてくるし、女子たちは今後の展開を妄想しながら盛り上がっている。
そんななか、一人だけ複雑な表情をしている人がいた。
ルカたちとの別れ際、誰よりも泣いていた芽乃ちゃんは腫れぼったい眼のまま二人を見つめている。
自分の母親とカズさんが結ばれたらということを想像しているのだろうか?
綾子が大好きな芽乃ちゃんは再婚することには賛成しているが、相手は厳選してほしいと言っていて、本当の父親を超える存在であることが大前提。
残念ながらいまのカズさんでは及第点にもいかない。
そんな気持ちも
まるで彼女にプロポーズする彼氏のようだ。
ほどなくして後ろ手に持っていた花を綾子に差し出し気持ちを伝えている。
そこから数秒間の間があった。
綾子は長い髪を一度耳にかけたあと
予想通りの結果に気まずい空気なのがこちらにもひしひしと伝わってくる。
かわいそうだから今度、海に連れていってあげよう。
**
「ハルくん、かじゃねん」
「どうした?カズさんがフラれて安心したのか?」
ドスッという鈍い音が背後からして痛みに変わる。
当たりどころが悪く
だんだん蹴るポイントが高くなっているんだが。
本当に腰痛と痔になったら治療費払ってもらわないと。
「そろそろデリカシーというものを学ぼうね」
飾音は暴力を振るうということについて学んだほうがいい。
「二人は卒業したらどうするの?」
それぞれの進路について説明した。
「そっか、二人とも
芽乃ちゃんとすごした時間は長い。
彼女が小学校に入る前から知っていてたくさん遊んだから、そのころのことを思い出すとさまざまな感情が溢れてくる。
俺も飾音も彼女に対しての想いは強く、別れを言うのは辛い。
「たまには帰ってくるよね?」
もちろんだ。
何度か街に行っているが、あの人混みの中で一生をすごすって考えただけで胃が痛くなる。
「二人とも街に出るなら一緒に住んじゃえばいいのに」
「ちょっと芽乃ちゃん。急になに言ってんの」
「だって、そしたら毎日一緒にいられるじゃん」
俺と飾音が同棲?
もしそうなったらああでもないこうでもないと言われ、暴力で全身
なによりあいつのためにならない。
俺といたらバカが移るし苦労ばかりかけて幸せでいられなくなる。
「芽乃ちゃん冗談うまくなったな」
「芽乃は本気で言ってるんだけど」
どういう意味だよ。
わけがわからない。
幼馴染とはいえ、どうして一緒に住まないといけないんだ?
「本当に住んでみる?」
冗談に聞こえなかったのは俺だけか?
照れた表情でそんな言われたらどういう心理かわかんねぇじゃん。
真剣に答えるのは違うし、笑いに変えようにもどういう言い方をしようか考えてしまった。
しばらく空いた間はとても長く感じた気がした。
「なんてね。さ、芽乃ちゃんご飯にしよう」
その後、テーブルを囲みながらそれぞれの進路について話した。
星司は島に残って親の手伝いをするか、ゲーム業界への道を目指すか考え中。
えなかは複数の企業から年間契約を結ぶことになったが、実家には戻らず、しばらくこっちで一人暮らししながら綾子の手伝いをする予定。この島の居心地が予想以上に良かったらしく、もっと多くの人に奥湊の魅力を伝えたいと、広告塔になって若い人たちに移住してもらえるようPR活動をする。
あの日の告白の答えは、まだいらないと言われた。
もう一度訊いたときに答えをくれればいいと。
観覧車の上で告白されたことはいまだに嘘のようにも感じられるが、彼女と出会えたことは嬉しいし、これからも良い関係性を築いていきたい。
カメラマンに関しては新しい人が見つかったようで、お世話になっている企業から独立したフリーのカメラマンが就くことになった。
その人は女性だからこちらとしても安心だ。
飾音は愛嬌もあるし頭も良いからきっと街に出ても変わらずモテると思う。
こんな小さな世界に留まるよりもっと多くの人と出会って良い男を見つけたほうがあいつの幸せのためになる気がするし。
リビングのテーブルを改めて見回すと、みんなの笑顔が蘇ってくる。
夏の太陽に負けないくらいまぶしい笑顔と笑い声。
今年の夏は本当に刺激的だった。
ルカたちはいまどの辺を飛んでいるのだろう。
L.U.K.A.〜遠い星からやってきた少女〜 音無 ゆの @yuno01074
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