第5話 あの日の真相
真相はこうだった
春江がつくった児童館「めだかの学校」は、順風満帆に一年が過ぎたころ。
スタッフや常連の子どもたちで、カラオケ大会をすることになった――あの日の真相。
「綜助、どこに隠す?」
「明日だって、このホール使うの?」
「凛ちゃんの台所も片づけろって?」
“凛ちゃんの台所”というのは、綜助チームの中央指令室のようなものだ。
どうしてそう呼ばれているのかは分からないが、綜助が通い始める前から、みんなそう呼んでいた。
「カラオケ大会なら、カラオケボックスでやればいいのに」
「この箱、どうだろう?」
「ちょっと、幅が足りない」
「これは?」
「うーん……だめだ」
そこに、凛ちゃんと研ちゃんが、秘密基地をつくるときに使う箱を、給湯室から持ってきた。
「これは……」
「ああ、ちょうどいい!」
「これにしよう!」
それは、アイス最中12個入りの箱だった。
「これはどうする? こっちは……入る箱、きっとないよ」
「そうだ、こうやって仕込もう」
マジックテープを外して、転がした。それを部屋の端に持っていき、基地に作った他の箱をその上に並べた。
春江さんが入ってきた。
「あら、みんな、もう片づけてくれてるのね。さすが2年生」
そう言って、上機嫌に給湯室へ戻っていった。
「木を隠すなら森の中に」
「箱を隠すなら箱の中に」
綜助チームの大事な箱――アイス最中12個入りの空き箱は、山積みされた他の箱の中に紛れ込んだ。
そこへ、大人たちがわらわらと児童館「めだかの学校」に入ってくる。
(こんなにスタッフ、いたっけ?)
夜のカラオケ大会の準備に来たらしい。土曜の昼下がりのことだった。
朝から「めだかの学校」に来ていた人もいる。
「さすがね、河本さん。違うわね、こんなにたくさん」
「なんてったって重役さんだもんね」
「このアイス、好きなのよね」
「でも、これじゃ氷が入らないわね」
「あ、凛ちゃん、研ちゃん、アイス食べない?。みんなにはナイショ。カラオケ大会で配るから……」
「おいしい〜!」
こうして、アイス最中12個入りのひと箱の中身は、春江の友達3人と、凛ちゃんと一緒に来ていた子ども3人、計6人の胃袋に収まった。「めだかの学校」では、お菓子の箱は、大事な秘密基地をつくる大事な資材。研ちゃんの日本のお菓子の箱とヨーグルトの箱でつくる商店街も、ゆっくりではあるが、進んでっている。
しかも、そのアイスの箱は、ちょうどいいサイズだった。
その箱は、秘密基地の資材と一緒に重ねられ、「大事なもの」として隠された。
「その箱、積んであるの、ひとつも捨てないで。子どもたちが大事にしているから」
といって、春江は、カラオケの練習と衣装合わせをしたくて、他のスタッフにあとはまかせた。
「でも、邪魔ね。隣の部屋に持っていこう」
「山田さん、ちょっと手伝って」
「私も手伝いましょうか」
「あら、この箱、重いわね」
「給湯室で聞いてきたら?」
「あの……」
「ちょっと分からないな」
「アイスなら、そこの冷凍庫に入れれば?」
「あ……」
「いま氷出すから大丈夫よ」
「そうね」
――2時間後。
「春江さんに連絡が取れない」
「不審物?」
「なんだか……ジャック、コードとか付いていて……」
「まさか、爆弾!?」
「とにかく、早めに警察に連絡したほうがいいわよ!」
「えっ? 私?」
「早く!」
「110番?」
「手稲警察は?」
「あの……不審物が、児童館の冷凍庫に入っていまして……」
「分かりました。近寄らないでください。すぐに現場に――」
児童館の前に、サイレンを鳴らしてパトカーが到着した。
そのとき、春江はカラオケの練習を終えて戻ってきて、その光景に立ちすくみ、倒れそうになった。
「何か、不審な予告とかありましたか?」
「いつ、気づかれました?」
「さっき……」
「これ、プロジェクターじゃないですか?」
「名前もカタカナで“イイダ”とプリントシールが貼ってあります」
「えっ、これ、てっちゃんのじゃない?」
「あっ、綜助のおじいちゃんの……」
「すみません、お騒がせしました」
「気をつけてください。でも、何でもなくてよかったですね」
真顔で警察官はそう言っていたが、トランシーバーでは――
「無事確認。ただのプロジェクターが、アイスの箱に入っていました。発見場所は、給湯室の冷蔵庫の冷凍室です。ガリガリプロジェクターです。」
と伝えるとき、笑みがこぼれていた。
「飯田さん、物品を児童館に持ってくるときは、紙に書いて提出してください」
春江は、カラオケ大会の前にてっちゃんにきつく言った。
てっちゃんは、「イイダじゃない。イツクシマです」と小声で言ったが、
春江の「飯田さん、わかりましたか?」のセリフのあとには、
「はい、すみません。知らなかったもので……」
と答えて、中島みゆきの『時代』を歌い、そそくさと帰っていった。
このとき春江が歌ったのは『ペッパー警部』。
そうそう、箱の下に敷かれていたのは、スライド用の白い幕。上に載っていた箱を移動したときに、ガチャピンの人形が一つ残された。そして、そこは未就学児コーナーになった。
それから、けっこう長いあいだ巻かれることもなく、マジックテープはどこかに消えた。
あと。
この、プロジェクターの性能はいいようで、マイナス20度に3時間ほどいれたくらいでは、使用には問題がなかった。スマホでも、接続が可能で、試しに映し出されたのは、春江の衣装合わせの㊙映像場面。でも、それは、春江はしらない。この真相はかたりつがれることになるが、この㊙映像のことは、「忖度して」という合言葉で、知る人も多くは語らない。
児童館、めだかの学校 朧月 澪(おぼろづきみお) @koyumama0926
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