第7話: イカロス作戦と彼女の正体
ルシェルナ・ウンブラ本部
ヨーロッパ東部の凍てつく荒野に雪が激しく降る中、地下深くでは静寂が機械音と緊張の息づかいに変わっていた。リリィとエイタと共に、私はGPSA特殊部隊の青いラインが入った黒い戦術アーマーを着て、主トンネルの入り口に立っていた。
「EMPセンサーが作動してる」とエイタが囁き、手袋に組み込まれたホログラフィック・キーボードを素早く操作する。「けど、5分だけ奴らの目を潰せる。その間に動くぞ」
私はうなずき、リリィに視線を向けた。彼女はプラズマ兵器を再確認し、確信に満ちた目で私を見た。
「生体認証システムを突破できるの? レン」
「使われてる人工神経網のタイプは分かってる。ファイアウォールの隙間さえ見つければ、あとはバイオテクノロジーの出番さ」
我々は旧排水路を通って侵入した。呼吸マスクをしていても吐き気を覚えるほどの臭いだった。エイタは先頭に立ち、腕のナノ粒子スキャナーに集中していた。
「壁に触れるな。監視ナノボットがいる。心拍の振動すら感知する」
リリィは小さく日本語で祈りを捧げていた。その背中を見つめる私は、数か月前の彼女を思い出す。高校生だったはずなのに、今ではまるで歴戦の兵士のようだ。
凍り付いた古びた鉄扉の前に到着。私はバックパックを下ろし、生体解剖用の携帯装置を取り出す。本来はデジタル解剖コンテスト用のものだが、今では敵のセキュリティを破るためのツールだ。
「DNA暗号化か……。通常ならサンプルが必要だけど、センサーに残ったタンパク質の残滓から模倣できる」
「……お前、本当に怪物だな」エイタが呆れ気味に言う。
私は酵素と塩基配列を調整し、センサーに残った痕跡から鍵を再構築する。
3分後、鉄扉はゆっくりと音を立てて開いた。
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ブラボーチーム側 - 東トンネル
ナディラとGPSA現地エージェント2人は無言で進んでいた。彼女は左手に言語スキャナーを持ち、トンネルの壁に刻まれた古代の記号をじっと見つめていた。
「ただの古いトンネルじゃないわ。これは……知識の納骨堂よ。冷戦時代の遺構の上に本部を建ててる」
後ろの武装エージェントが驚いた表情で尋ねる。「どういう意味です?」
「旧ソ連の通信システムが使われてて、それがこの組織の暗号と重なってるの。科学と神話を融合させた通信だわ」
ナディラはデバイスのボタンを押し、小型ディスプレイにコードの断片が浮かび上がる。
「これを解読して、緊急時の脱出経路を把握しておく」
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アルファチーム - サーバールーム
我々はサーバールームへの侵入に成功した。空中に浮かぶ無数の端末が磁気サスペンションで並んでいる。エイタはすぐにナノフォレンジック装置を接続した。
「一言で言えば……地獄だな。三重暗号で、しかも民間衛星ネットワークと直結してる」
私はタブレットを開き、デジタル操作を開始した。「まずは第一層を突破する」
生体分子ネットワークの再構築アルゴリズムを稼働し、AI『ノクス』に信号の隙間を分析させる。数秒後、一つの端末が点滅を始めた。
「ビンゴ。あとはデジタル解剖データを解析して、特定の遺伝子パターンを見つけられれば、内側からセキュリティをシャットダウンできる」
リリィはドア付近で警戒していた。彼女のヘッドセットに小さな通知音。
「ニョーヴォからの連絡。時間がないって」
私は素早くウイルスコードを入力し、システムに挿入。2分後、すべての画面が消えた。
「今だ!」エイタが叫ぶ。「バックアップ電源が動く前に脱出する!」
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脱出地点 - 再会
地下の脱出地点へと走る我々。ナディラたちブラボーチームもすぐに到着。彼女は核施設の設計図と、過去世紀のデジタル文書を持っていた。
「ようこそ地獄へ。でも……勝ったわね」彼女は微笑む。
エイタが私の肩を叩いた。「合格だ、アサクラ。赤ランクの敵拠点を落とした最年少の隊員だ」
信じられない気持ちだった。でも、まだ私が話していないことがある……
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我々が地下本部に戻ると、全員が作戦の評価に集中していた。私は一人、観測室で外を眺めていた。
そこに立っていたのは……リリィ。
灯りの向こうを見つめる彼女の横顔を見て、心の奥が騒いだ。
リリィ・ユザキ。高校時代の学園のアイドル。
でもそれだけじゃない。
彼女は――GPSA東京本部の最高責任者の娘だ。
ただの高校生が偶然ここにいるわけじゃない。
彼女は、私がここまで来られた理由かもしれない。
そして、これがすべての始まりだと……私はようやく悟った。
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次回へ続く。
世界の核を封印せよ lauzecha @lauzecha
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