あとがき ——旅立ったあの子たちへ
アルカナの家を旅立ってから、幾年かが過ぎた。
季節はめぐり、風景も変わっていったけれど、僕の胸の中には、
今でもあの日の光景がはっきりと焼き付いている。
■ ユウタ(かつて世界の中心にいた少年)
小さな村で、細工職人の弟子をしていると聞いた。
「こいつは俺の机だから、勝手に触るな!」
そう叫んでいた彼が、今では弟子に「これ、貸してやるよ」と笑って言っているという。
“譲る”ことを知ったユウタの工房には、今日も笑い声が響いている。
■ アイリ(孤独に怯えた少女)
風の街の助産院で働いている。
子どもを抱きしめ、優しく背中をさするその姿に、彼女自身の寂しさの影はもうない。
“誰かに甘える強さ”を知った彼女は、
今は“誰かの不安を受け止める側”になっている。
■ リクト(涙を預けられる子)
剣術を学びに行ったという。
いつも泣いていた子が、今は剣を握り、誰かの盾になっている。
でも、ときどき「涙は出るけど、ふふ、アレンには内緒ね」と手紙に書いてくる。
——ばれてるぞ。
■ ユイカ(言葉の裏に孤独を隠した少女)
王都の学士院に推薦で進んだ。
多忙な日々のなか、「最近は笑う時間も増えてきた」と綴っていた。
“しぬって、いくらかかるの?”と問うた少女が、
いまは「生きるって、案外面白いね」と言うまでになった。
■ カナ(感情があふれて止まらなかった少女)
劇団に入った。舞台の上で大泣きして、大笑いして、大声で歌っているらしい。
誰かに合わせて抑えていた自分は、
今では観客を“泣かせる”側に立っている。
■ ショウタ(「見てほしい」と叫び続けた少年)
村の見習い鍛冶屋になり、地味な仕事に打ち込んでいる。
派手な声は減ったけれど、代わりに“静かに誰かを支える目”が育った。
——ちゃんと見てるぞ、ショウタ。
■ ナオとマコ(かみ合わなかったふたり)
今でも手紙を二人連名でよこしてくる。
「今週はマコが静かすぎ」「ナオがうるさすぎ」
——と、文句を言い合いながら、互いのそばに居続けている。
“すれ違い”から始まったふたりは、きっと“すれ違いのまま、いちばん遠くまで行ける”仲なんだと思う。
モノローグ(アレン)
みんな、ちゃんと自分の足で歩いてる。
つまずく日も、迷う日もあるだろう。
でも、きっと誰ひとり、“一人きり”ではない。
だって、あの場所で、あの時間を一緒に過ごしたんだから。
名もなかった子どもたちが、自分の名前を見つけて、
自分の人生を生き始めた。
それだけで、僕のすべては報われている。
追伸
たまに、戻ってくる子もいる。
何でもない顔をして、門を叩いて言う。
「なあ、アレン。夕飯、まだある?」
あるに決まってるだろ。
お前の好きなスープ、ちゃんと作って待ってたんだ。
これで、物語はひと区切り。
でも、子どもたちの人生は、まだまだ続いていく。
静かに、でも力強く——。
アルカナの家 ― 孤児たちと優しき再生の物語 ― あなたの蕎麦 @ookinakurinokinoshitade
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