未来がないと誰が決めたの ~ 叶わないけれど嘘じゃない
石ノ葉 しのぶ
不倫でも真実の愛はあるの・・・
由美はいつも、ファミレスでアルバイトをしている大学生、誠に目を留めていた。
最初はただの気になる若者だった。
明るく、元気で、どこか無邪気な彼の笑顔は、何もかも忘れさせてくれるようだった。
家庭では夫との距離が広がり、子どもたちもそれぞれの生活に忙しく、誰もが心の中で何かを抱え込んでいるような、そんな空気だった。
夫は優しいが、どこか冷たい。
長年一緒にいても、心が通い合っている気がしない。
由美は、そんな自分の心の中で何を求めているのかさえ分からなくなっていた。
だが、誠と会うたびに、どこか違う自分を感じることができた。
それは、ただの軽い会話から始まった。
彼の笑顔、無邪気さ、そして優しさ。
彼が話していると、由美は自分の年齢を忘れてしまう瞬間があった。
何でもないような会話の中に、心が安らぐ瞬間があった。
ある日、誠が何気なく言った言葉に、由美は驚いた。
「なんでそんなに疲れてるんですか?」という問い。
彼は、由美がどれほど日々の生活に疲れているのかを無意識に感じ取っていたのだろう。
その問いかけが、由美の胸をわずかに締め付けた。
そうだ、私の心はずっと疲れていた。
夫との関係、家事、子どものこと、それらすべてが積み重なり、心に負担をかけていた。
でも誠は、そんなことに気づいていた。それが、なんだか少し嬉しかった。
その後も、何度か二人は会話を重ねるようになった。
お互いに話しやすいと感じる瞬間が増えていき、いつしか由美は彼に会うことが心の中で楽しみになっていた。
しかし、心の中では恐れていた。
これが間違いだと感じる瞬間もあった。
誠は、由美にとってはもう一度人生をやり直せるような、新しい風を吹き込んでくれる存在だった。
しかし、その一方で、彼との関係が続けば、家庭が壊れるのではないかという恐れもあった。
愛しているけれど、踏み込んではいけない一線があることを、由美は知っていた。
それでも、誠とのやりとりは続いた。
会話の中で、少しずつ心が溶けていくような感覚があった。
ある晩、ファミレスの閉店後、誠が言った。
「今日、送っていきますよ。」
その言葉に、由美は戸惑いながらも心の中で答えた。
誰かに送ってもらいたかったのだ。
自分の心の中で求めているものを、彼がそっとくれるような気がした。
車の中で、しばらく黙っている二人。
窓の外に広がる夜景が、二人を包み込んでいた。
その時、誠がふと口を開いた。
「由美さん、僕は…ずっとあなたのことが好きでした。」
その言葉に、由美は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
好き。
若い彼が自分をそう思ってくれていることが、素直に嬉しかった。
でも、それと同時に、この関係がどれほど危険で、誰にも言えないことなのかを、彼も由美も分かっていた。
それでも、由美は答えた。
「私も、あなたに会えてよかった。」
その一言が、どれほど大きな意味を持っているのか、彼は分かっていた。
二人は黙って、最後の別れの時間を過ごした。
誠が車を降りるとき、由美は心の中で何かが崩れるような気がした。
彼を見送ることができるなら、もう何も望むことはないのだろうか。
だが、答えは出なかった。
ただ、彼との時間が、心の中で温かな記憶として残った。
数日後、由美は再び誠と会った。
その日も、変わらない笑顔で彼は現れた。
由美はその笑顔に心を奪われ、心の中で思った。
「未来がないと誰が決めたの?」と。
二人が愛し合っていることに、誰が口を出せるだろうか。
愛することに、未来があるかどうかは関係ない。
今、心から愛しているという事実が、二人には何よりも大切なことだった。
そして、彼女は再び自分の道を歩み始める。
これからも、この愛は続いていく。
どんなに時が過ぎても、この心の中の彼は、ずっとそこにいる。
未来がないと誰が決めたの ~ 叶わないけれど嘘じゃない 石ノ葉 しのぶ @relambda
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