時計

学生作家志望

考えてくれよ

目の前で人が飛んだ。飛んだと言っても、飛ばしたに近かった。都会のビル群が並ぶ、まさに中心地のような場所で、私は人をひき殺してしまった。


何か急いでいたとか、何を血迷ったとか、そんな大それた格好の付く理由などはない。私はただ普通に運転をしていた。その日も、いつもの通りに家に帰ろうとアクセルを踏んでいた。ただそれだけだった。


しかし私は、突然道路に走ってきた中学生ほどの男の子をひいて殺した。


その時の景色が、未だに目に焼き付いて離れない。体が宙を浮かび上がり、少年の目線はフロントガラス越しの私を見つめていた。私の中では、この時この時間こそ数十秒と長くあった気がしたが、本当はほんの数秒。浮かんだ体は容赦なく、地面に激しく落下し潰れた。



「え・・・・・・?だい、丈夫?」




車を降りた私は、果てしないほどの暗闇の未来と現実を見た。


私はようやく、人を殺してしまったのだと知る。少年の体は、腕がギクシャクと曲折をおよんで、首までもが曲がりくねったままであった。一定間隔で、同じ言葉を繰り返しながら体を揺さぶる私の手は、確か、染めたように真っ赤になっていた。



罪を償え、反省しろ。私の人生は、赤の他人の言葉に徘徊される形となった。こうなってしまうなら、もう幕など閉じてしまいたい。なのに、私の人生は続いてゆくばかり。面白みはちっともない。絶望でしかない日々。一生つきまとってくる罪悪感に、毎日精神を侵された。



少年は事故死として片づけられた。



「あの子が、急に飛び出して、」



喉が枯れるまで叫び続けた甲斐があったのだろう。私の訴えはのみこまれた。親族の方々とも、すでに和解を済ませてある。



「でも?だから?人を殺したんだよ。お前は。未来ある子供を。」



世間は少子高齢化真っ只中。


そうであっても、そうでなくても、子供の未来は必ず、安全健全のもとに保証されているものであり、それは社会で守らなければならない希望であった。今の時代では特にそうなのだ。


だからこそ、ネットのはびこるこのご時世において私は、大犯罪者としてのレッテルを面に貼って生きていかなければならなくなったわけである。



レッテルを持った私はどんどんと疲弊をしていった。会社もやめて、いよいよ部屋からも出ないようになった。ネットも見ることは出来ず、大犯罪者に許されたのは、ただの白い壁とのひとりぼっちの噛み殺し、それだけ。




「ああああああああっ、、」




壁をたたいて、引っ掻いて、私の爪はいくどとなく剥がれて床に落ちた。足の爪は自分ではがしたし、台所からカッターを持ってきて皮をそいだこともある。どれも痛いだけで、私のもっと奥の方の痛みなんかは、ちっともとれなかった。とれるはずなんてないってこと、私だって分かっていたのに。


それでも。自傷した。



「なにやってんの!!」



「お母さん。」



「もう壁叩くのやめてって言ったでしょ!やめてってば!!」



お母さんは私の腕を荒く掴んで、いつも以上に強く止めようとしてきた。でも、私は壁を殴り続けた。壁を殴るというか、自分の面とか腹とか、なんでもかんでもが気に食わなくて、あざになるまで体を叩きつけていた。



だからお母さんは、私を止めないでほしい。私を止めるべきじゃないんだ。



「離してよお母さんっ!」


「なんで、、もうそれ以上あざなんて作んないでよ!」



腕を強く振り払う。その時のお母さんの声は、かすれて震えていた。そのころにはお母さんは顔を覆うことに精一杯となっていた。喉がギチギチと今にも壊れそうな音を立てながら、痛そうな泣き声をあげる母を、私はどう受け止めれば良いのかが分からなかった。


私の心はもうとっくに壊れていたのだ。表現するならば、蛆虫が体の外と中を何百匹と行き来をしているような感覚だ。私は自傷をすることで、その蛆を殺そうとも考えていた。でも、いくらやったって、半透明のその虫たちには何も効かなかった。


いくら楽になっても、どれだけ傷つこうとも、私の中のそれは、もう消えないのだ。



「一生永遠に、私は救われない。だからもういいよ、お母さん。」



泣き喚くお母さんの声が、より一層甲高い叫び声の様になる。



未来と、希望と、考えうるものの全てを無くした。



「子供の未来を奪ったんだよこいつ、」「一生監獄の中で過ごすべきwwww」



「二度と帰ってくるな。」



私はあの少年の未来を奪って、自分の未来も奪った大犯罪者だ。



「お母さん。もっと長く、楽しく、ずっと生きてね。」



久しぶりに笑ったな、私。



空に開け放った体が、宙を浮かび上がる。私にとっては、長い数十秒だった。


深夜、雑居ビルの最上階から飛んだ体は、たったの数秒にして



潰れる


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