第4話 初陣、氷と影のシンクロ
翌週、選抜訓練の目玉とも言える「模擬ダンジョン戦闘演習」が始まった。
仮想空間ではなく、現実の訓練場をダンジョンに模して構築されたリアル模擬環境。
そこには本物の罠、本物の魔物型ロボット、そして本物の“死の恐怖”がある。
参加者はくじでチームを組まされる──はずだったが、教官の粋な(もしくは皮肉な)采配により、レンはレイラとチームを組むことになった。
「……よりにもよって、あんたと組むことになるとはね」
「俺だって、正直緊張してるよ」
「信頼してるからじゃなくて、“やらかされそうで怖い”って顔してるじゃない」
「半分正解。でも、もう半分は……興味って感じ」
「興味?」
「氷の女王って呼ばれてるけど、案外ふつうに話してくれるし。
それに……一緒に戦ったら、何か見えるかもしれないって思って」
レイラは一瞬黙り──ため息をついた。
「……ほんと、あんたって変わってるわ」
訓練スタート──模擬ダンジョン第A-04区画
内部はほぼ無光。微弱なライトのみが足元を照らす。
そこに響くのは、自分たちの足音と──機械仕掛けのモンスターたちが這いずる音。
「右上、高台の上にスナイパー型。“クロウ・アイ”。狙撃優先」
「了解」
レイラの鋭い観察眼が光る。
その指示にレンは即座に反応し、背負ったカスタム・クロスボウを持ち替え、わずかに照明が漏れる隙間から発射──
──「ギャアアア!」
金属製のモンスターの目が、破裂した。
「……狙撃、上手いのね」
「ゲームだと、こればっかやってたから」
「リアルでも通用するのね……正直、舐めてた」
レイラが、わずかに驚いたように目を見開く。
その後も、パーティは奥へ進んでいく。
二人しかいない編成ながら、危なげなくモンスター群を捌いていくその様子は、監視室の教官たちをも唸らせた。
罠エリア──「死の跳梁」
通路に差し掛かったとき、レイラが立ち止まった。
「待って。……ここ、床の目地の形が違う。罠ね。
たぶん“ラッシュ・トラップ”。通過した瞬間に左右から刃が飛んでくる」
「じゃあ、俺が誘導弾撃つから、タイミング見て回避して──」
「待って。そのトラップ、単独起動じゃない。連動型の可能性もある。
一か所起動したら、連鎖する可能性が……」
「OK、じゃあ俺が一か所だけわざと踏む。罠が動いたら、俺が引きつけるから、レイラは左上の跳び台から上に回って制御装置を狙って!」
「は? ちょ──危ないって、あんた──!」
次の瞬間、レンは自らトラップを踏み抜いた。
「──来い、鉄屑ども!!」
罠が作動。刃の嵐が唸りを上げて襲い掛かる。
しかしレンはVR仕込みの超反射神経と動体視力で、一歩ごとに最小限の動きで刃を躱していく。
一方、レイラは跳び台から一気に跳躍し、壁伝いに登る。
「制御パネル、発見……ハッキング弾──発射!」
ピィィィィィ!
鋭い金属音と共に、罠の動作がストップした。
「……生きてる?」
「かすり傷だけ……あー、心臓止まるかと思った……」
ふぅ、とレンが膝に手をついて息をつく。
その横で、レイラがじっと彼を見つめていた。
「……バカじゃないの。死ぬわよ、あんた」
「バカでも生き残ったら正義だって、VRで学んだよ」
「……その言葉、リアルで言って説得力あるの、あんたくらいよ」
訓練終了後
演習を終えた後、評価室で二人の戦闘記録が映し出されていた。
教官の一人が呟いた。
「連携ランク──“S-”評価か。まさかこの二人がここまでとは……」
「まだ粗削りだが、可能性の塊だな。とくに黒川の直感と行動力、レイラの補完力……。予想を超えてる」
──そしてその夜。
レイラは部屋のベッドの上で、天井を見ながら小さく呟いた。
「……あれが、“影に隠れてた王”……か」
ほんの僅かに、口元が緩む。
彼女の心に、小さな火が灯った瞬間だった。
VRダンジョン・リベリオン ~引きこもりゲーマー、現実(リアル)で最強のシーカーになる~ @knight-one
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