いっぱいの愛情

解体業

いっぱいの愛情

 東京の大学街、カフェ「サイクル」のカウンターに、sin(x)は座っていた。彼女は大学生で、長い髪が波のように揺れる。彼女の性格は、気分が周期的に上下する。今日は「ゼロ点」の気分だ。

「はぁ、私の人生、いつも同じパターン。テスト勉強して、カフェでぼーっとして、またゼロに戻る。なんか、変化が欲しいな……」


 そこへ、cos(x)が現れた。彼も同じく大学生で、sin(x)の幼馴染。少し自信家で、いつもsin(x)より「一歩先」を歩きたがる。

「よ、sin(x)! また落ち込んでる? ほら、俺と一緒にいれば、人生は完璧な円だぜ。覚えてるだろ? (sin(x))^2 + (cos(x))^2= 1

!」

 sin(x)は目を丸くした。

「cos(x)、急に数式持ち出すのやめてよ。円はいいけど、恋ってさ、もっと……ドキドキするものじゃない?」

 cos(x)はムッとした。

「ドキドキ? 俺、いつもお前をリードしてるだろ! ほら、俺の位相はπ/2進んでるんだ!」

 だが、sin(x)の少し寂しげな笑顔が変わらないのを見て、彼は決意した。

「よし、sin(x)。本物の恋、証明してやる。今日は冒険だ!」


 二人はカフェを出て、街へ繰り出す。sin(x)が好きなプラネタリウムへ向かった。星空の下、sin(x)は目を輝かせた。

「cos(x)、星って、なんか波みたい。周期的だけど、毎回違う物語に見えるよ。」

 cos(x)は頷いた。

「だろ? 俺とお前の波も、ずれてるけど調和してる。ほら、sin⁡(x+π/2)=cos⁡(x)だ。俺が少し先でも、お前はすぐ追いつく。」

 sin(x)はクスッと笑った。

「それ、数学の話? 恋の話?」

 cos(x)はすぐさま、「両方だよ!」と答えた。

 プラネタリウムの出口で、二人はすれ違ったカップルを見て立ち止まった。sin(x)が呟いた。

「cos(x)、恋って、いつも一緒にいられるもの? 私たち、ずれてる波みたいに、離れちゃわない?」

 cos(x)は少し考えて、ポケットからスマホを取り出した。

「sin(x)、これ見てみろ。オイラーの公式だ。複素平面の魔法」

 彼はアプリでグラフを描き、こう言った。

「俺とお前が手を取り合えば、特別な瞬間が生まれる。試してみない?」

 sin(x)はドキドキしながら手を握った。その瞬間、まるで星空が螺旋を描いたかのように、二人の心が重なった。cos(x)は囁いた。

「sin(x)、覚えてろ。俺たちがπ

の角度で向き合えば……cos⁡(π)+isin⁡(π)=e^(πi)。それが、俺たちの宝だ」

 sin(x)は目を細めた。

「e^(πi)? それ、マイナス1じゃ……」


「バーカ!」

 cos(x)が笑った。

「イーのパイアイ乗、e^(πi)いっぱいの愛情! 二人が手を取り合えば、いっぱいの愛情が生まれるさ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いっぱいの愛情 解体業 @381654729

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ