第10話 検査
なんだかパタパタと部屋を整えたりしているうちに、出勤の日にちとなる。面倒見がいいのか、興味本位なのかはよく分からないが、宇月さんが声をかけてくれたので、2人で出勤となった。
(人と一緒に行くなんて、小学生以来じゃないか)
なんてことを思いつつも、横には宇月を携えて柊は自分の所属する部署の部屋に向っていく。彼自身、実は何処に行けばいいのかよく分かっていなかったのもあって、宇月の案内は大変助かっていたのだ。
警察署の玄関を入って最奥まで行き、そこからエレベーターに乗る。
「別棟の部屋に行けるのは、このエレベーターだけですから、気をつけて下さいね」
宇月の説明を受けながら、3階まで行く。そこから渡り廊下を経て隣の建物に移動する。この建物全体が派出署となるのだと説明をしてくれた。この建物に入るには、あのエレベーター経由でしか入れないようになっているのだという。
「ああ、でもここの職員になれば裏口が使えるようになると思いますけどね」
3階が業務を担う部屋となっていて、階下は取調室などになるという。
「まあ、知らないと困るような細々としたことは、高遠課長がきっと追々説明してくれますよ」
そんな話をしながら正面の部屋のドアを開ける。
「おはようございます」
宇月が軽やかに中に挨拶をする。
「柊さんを連れてきましたよ」
部屋の中には二つのブロックに分かれて事務机が配置されている。そのブロックの奥にあるデスクが課長の場所なのだろうか、高遠が座っていている。事務机についているのは、見たことのある2人だった。先日言われた時間よりも15分は早く到着したと思うのだが、他の人はまだ来ていないのだろうか。
「やあ、おはよう。今日から宜しくね。宇月君、ありがとう」
課長はにこやかに挨拶を返し手招きをしてくるので、自分が呼ばれたのだろうと机の側に近づいてみた。後ろの方に宇月がついている。
「この部屋のメンバーはあと4人いるんだけど、今はそれぞれ出ているんだ。ここでは基本は二人一組になっていてね。柊君と組むのは霧嶋君になる。あの夜に会っているよね」
紺色のスーツ姿の女性が軽く頷いている。彼女はあの夜、刀を持っていなかった方だ。彼女の向かいの席にもう一人がいる。
「彼女も知っているよね。竹ノ内君だ」
言われて竹ノ内も軽く会釈する。柊も2人に会釈して挨拶をした。
「それから、あと別に解析班っていうのがあってね。三人いるんだが隣の部屋にいるんだ。彼らはちょっと別系統の仕事を担当してるもんでね」
高遠課長は終始笑顔だ。
「えっと、私の仕事は事務関連ですよね。どのような内容になるのでしょうか」
にこにこにこと笑顔の高遠課長。周囲の目が憐憫を帯びているのをヒシヒシと感じる。
「じゃあ、霧嶋君。解析班に彼を案内してくれるかな。ついでに検査して貰ってくれる?」
「はい。では、ついてきて下さい」
霧嶋はそう言って、柊を隣の部屋へと案内した。
隣の部屋にいたのは3人。可愛らしい10代半ばっぽい女の子と、ヒョロリとした背の高い痩せぎすの眼鏡をかけた男性。残りの一人は、人懐っこそうな金髪に髪の毛を染めたチャラそうな雰囲気の男性だった。
「正塚さん、柊さんを連れてきました」
霧嶋が、そう声を掛けると女の子がこちらを向く。
「んもう、キリちゃんたら。えっちゃんて呼んでって言っているのに」
ちょっと頬を膨らませて、ちょっとむくれたように言う。柊がそれをみて動揺しているのに対して霧嶋は冷ややかに言い返す。
「そういうのは、いいですから。高遠課長が、彼の検査をお願いしたいそうです」
そう返されると、正塚がすんと真顔になる。
「君はノリが悪いよね。少しぐらい付き合ってくれてもいいだろう」
先程のぶりっ子っぽい声とは別人のような凛とした声だ。雰囲気も変わった。
「やあ、君が界渡りの柊君か。私は正塚だ。で、ヒョロいのが切明、チャラいのが興梠だ」
切明は作業の手をいったん止めて柊の方を向いて目礼してくれた。
「えー、チャラいってひどいっす。正塚さんは見かけは少女ですけど、年齢からみれば立派なロリババアですから、気をつけてくださいね。オレが今まで一番新入りだったんですが、柊さんが来てくれて嬉しいっす。興梠です」
チャラ男は挨拶も軽かった。正塚に思いっきり足を踏まれて、悲鳴を上げているが。
「どうも、柊です。よろしくお願いします」
とりあえず、見なかったことにして挨拶をした。
「あの、検査って何でしょうか」
少し戸惑いつつも、そちらを聞いてみる。ロリババアは気になるところだが、禁忌だと察したからだ。女性に年齢を尋ねてはいけない。
その問いを受けて、正塚は自分についてくるようにいい、奥のドアを開けて入っていったので、柊はその後ろをついていく。
その部屋は奥の壁は一面に金庫のような厳重な雰囲気の扉がつけられていた。入って左側の壁にはなにかの機器が置かれている。
「そこへ座ってくれるかな」
機器がある面の逆側には椅子が二脚置いてある。そのうちの一脚に腰掛けると、正塚が机の上に置いてあった銀色の容器を渡してくる。
「はい、受け取って」
そう言われて素直に受け取る。金属らしく少し冷たい。どこかで見たことのあるものだろうかと、筒を角度を変えてみてみる。円筒の片方に筋が入っているのがわかる。蓋だろうか。
「蓋を開けられるかい」
言われてこの蓋になっている部分を捻ってみると、簡単に開く。中を覗くと外見と同じで銀色の空間が拡がっている。イメージとしてはステンレスの水筒が近いだろうか。銀色の筒から顔を上げて、正塚をみる興味津々という表情でこちらを見ている。他の面々も銀色の筒を持ち眺め回している柊を真剣な顔を指定見ている。
「あの、どうかしましたか」
首を傾げて聞いた柊に、満面の笑みで正塚が答える。その笑みは少女の笑みとは思えない老獪さを感じさせるもので柊が、椅子の上ですこしのけぞる。
「その筒は、魂を封じるための監獄だ。
柊はここに来た夜の事を思い出した。細長い筒のような物を倒れた男に向けていた事を。放り投げてしまいたい衝動に駆られたがそれをこらえ、蓋をして正塚に返した。それでも気味が悪くて、指を動かして手の平をこすり合わせてしまう。その動作をみて正塚はふふんっと鼻で笑う。
「これはまだ使われていない奴だからそんなに気にしなくても大丈夫だよ。中に何もはいっていなかったでしょう」
そう言われても、気味悪さは拭えなかった。
「第一段階は合格でいいんじゃない。かっちょっうさんにそう言っといて」
朗らかな口調で正塚は霧嶋に伝える。それから柊に対して血液検査などを始めるのであった。
殺人許可証はお持ちですか? - 生者には発行されません - 凰 百花 @ootori-momo
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