人間コントローラー

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

AC社より、〈しっとり足泥々〉発売!

 電子薄板から、コマーシャルが飛んでくる。

「あなたの微笑みに、煉獄滅遺留の青ヘルメイル・ブルーの、美しさを。MACsマックス、〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉……」


 人々の間で、青い歯磨き粉——ブルートゥースペーストがファッション的に大流行。

 微笑みの間隙かんげきからは、白き歯ではなく、真っ青がのぞくようになっていた。

 地球の青海が、人々の青歯のせいで染まっているのかと、錯覚するほどに……


 が、青の混沌が渦巻いて、しばらく。 

 おかしなことに人々は、自我と意思とを、失い始めた。


「左! ここで左に曲がりたいのに……曲がれない! 左! いな! 右! 永! 美!」

「本当は優しくしたいのに……つい怒ってしまう! コラコラ! ばかばか! 叱り! 叱責! 美! 永!」


 人々は、思うように動くこと、思うように考えること、感じることが、困難になっていた。


 が、いつ何時も、救世主メシヤは存在する。

 異常事態の中、いつも通りに動ける者たちがいた。

 彼らは、〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉非者だった。

 つまりは、自我と意思との喪失は、〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉のせいだったのだ。


「〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉者の皆さん! この〈青歯白化薬——ブルートゥース・ホワイトニングドラッグ〉を使えば、行動も思考も感情も、元通りになります!」

 救世主メシヤの一人が言った。


 摂取者たちは、藁にもすがる思いで、それを求めた。

「それは本当か! ぜひこの苦しみを治してくれ! でもまた毒薬詐欺にひっかかりたくないから、きちんと成分や仕組みを知った上で、使うかどうかを判断したい!」

 摂取者の一人が、なんとか己を制御し、懇願。


「〈青歯白化丸薬——ブルートゥース・ホワイトニングドラッグ〉は、幻の白龍——〈シューティング・ク工ンサワードラグーン〉の生き血を大量配合しています。そのキレート作用により、自我と意思喪失の原因物質——つまり毒だけを、選択的に排出できます。この丸薬を飲み続ければ、青い歯が元の白い歯に綺麗さっぱり……とまではいきませんが、黄ばんだ歯、くらいには戻ることを、保障します!」

 救世主メシヤはそう言うが…………龍、の生き血。そんなものが、いるのか? あるのか? 


「ま、幻の龍、か。突飛な話だが、他に手段はない。ぜひそれを寄越してくれ! いや、だがその前に、もう一つ知りたいことがある。だいいち……どうしてこんな現象が!? 治療薬が作れるってことは、この異常のメカニズムも、既に解明済み、というだよな?」

「はい、もちろん。説明しましょう、実は〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉というのは……」


 なんと人々の体は、〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉により、デバイスと化していた。ペースト状の青色の正体は、〈クネクネツク〉と呼ばれるもので、とあるものの原料物質。〈クネクネツク〉は歯で噛み砕かれた食べ物を栄養源に、環形かんけい寄生体〈ジクサ・クリエイタ〉を生産する。〈ジクサ・クリエイタ〉は、歯のエナメル質、象牙質を容易く貫通すると歯髄しずいへ浸透、神経へと侵入する。ナノコードと呼ばれる無数の微細触手を軸索じくさくに見立てて、宿主の脳神経回路にアクセス。脳の特定領域に神経可変脳炎ニューロン・モディファイアを引き起こし、行動も思考も感情も潜在意識をも、乗っ取ってしまうのだった。そしてこの〈ジクサ・クリエイタ〉を介して、〈青い歯磨き粉——ブルートゥースペースト〉摂取者は……


 製造元、MACs社へと接続・監視・制御されていたのだ!!


「この読み取り装置リーディング・デバイスの画面を見てください。『A:3』『P:7』『C:5』『R:6』『E:4』。これが、ブルーティースコードです。あなたは、ブルーティース人間になっているんです。あ! 今コードが書き換わりました。というのもこれ、常可変性アドレスなんですよ」

「わけがわからなすぎる……。その、〈ジクサ・クリエイタ〉というのは、生物なのか?」

「いえ、MACs社製造の、人工物です」

「ならどうやって、我々の体の中で、動いているんだ? 動くなら、電池というかバッテリーというか、何せよ動力源がいるだろう?」

「ケータイキャリア回線です」

「は? ケータイ? 回線? 何をふざけたことを言っとるんだ……いや、ここは一旦心を落ち着けて……話を、聞かせてくれ」

「第N世代・第O世代キャリア回線、あとウィーフィー。〈ジクサ・クリエイタ〉は、それらギガヘルツレベル周波数帯の電磁波によって励起れいき状態となるのですが、直後基底きてい状態に戻る際に放出するエネルギーを使って、動いています」

「そうなのか…………なんて、気味の悪い!!」

「ええ、本当にそう思います。脳神経回路に侵入した〈ジクサ・クリエイタ〉は強固な骨格のようなものを持っていますので、通常の免疫システムではほとんど排除されませんが、〈シューティング・ク工ンサワードラグーン〉の生き血由来のこの、〈青歯白化丸薬——ブルートゥース・ホワイトニングドラッグ〉を飲み続ければ、希望はあります!」

「わかった。でもそれ、お高いんでしょう?」

「いえ、そうでもありません。一キロあたり数百クレジットです。一日数千ミリグラム、多くても一万ミリグラムで済みますし」

「それは助かる! 安さが気になるところではあるが……」

「そこも心配いりませんよ。安さの秘密は……クローン技術です。幻の龍ドラグーンの大量生産に成功しました。これ、他言無用、ですよ?」


 摂取者たちは、解毒を開始した。

 どうなる、人類……

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人間コントローラー 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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