第9話
「ゼニアス、お前……、隊長なのか!?」
ゼニアスの突然のカミングアウトに、思わず驚きの声を上げてしまった。マジか。どうやらゼニアスは俺の思っていたよりも数段、高い役職に就いているらしい。
「おやおやゼニアスくん、身分を隠しての交友かい?感心しないねぇ〜〜」
「黙っていてくれるかなぁ!?」
くすんだ緑髪の女性が、ゼニアスに弄りを入れる。
「トミヤ、コイツらをサクッと紹介する。騒がしいと思うが、少し我慢してくれ」
やれやれという表情で、ゼニアスはこちらに話しかけた。
「あ、ああ……」
全くもってその通り騒がしいやつらだが、この人たちも全員隊長という事か。戦闘モードのゼニアスの気迫は凄まじい物だったが、彼らもゼニアス並の実力を持っているとしたら、
________十分に警戒する価値はあるだろう。
「まず、6番隊隊長・クレス=フォリア。
肩に乗っかってきたコイツだ」
「トミヤさん……でいいっすか?今後ともよろしくっす!」
「人懐っこいから、仲良くしてやってくれ」
「次に5番隊隊長、カリュム=ポステリオル。
海外から来た、医術に精通している数少ない騎士の1人だ」
「あれれ、ワタシの説明としては足りなくないかい?も〜っと天才的な部分とか、プッシュしてほしいなぁ〜〜?」
「……喋り方はウザイが、彼女には何度も助けられている」
「ヨケーな一言!ゼニアスくんは手厳しいねぇ〜〜」
「4番隊隊長は僕だから飛ばすとして……。
3番隊隊長、ゴディカ=ゴーレウス。
テーブルの上で酒を飲んでる、あの爺さんだ」
「うぇー。へへ、トミヤくんとやら、お前さんは酒は呑めるのか?よかったら1杯……」
「初対面の人に酒を進めないでくださいよ……」
「次に……2番隊隊長、ユキノ=イチノセ。
1番奥に立ってる、薄い水色の髪色をした、あの女性だ。彼女も海外から来た騎士で、僕たちとは違った形の剣を使っている」
「……」
「あー、すまない。僕も正直、彼女とは事務的な事以外で話した事がないんだ。まぁ、仕事は本当に頼りになるから、困った時は気にせず話しかけてみるといい」
ここまでで、ゼニアスは全員分話し終えたかのように息を付いた。
「一先ず、これで全員説明ができたな」
「……いや、1番隊隊長は誰なんだ?」
俺の疑問に対し、赤髪の少年……クレスが答えた。
「遅刻っす。あの人、いっつも遅れてくるんすよ!迷惑なもんっす」
「ああ、そういう訳だ。だから1番隊隊長は来た時に紹介してあげよう」
ゼニアスは困ったような笑顔を浮かべている。1番隊隊長……。1番隊の隊長が1番強いと安直に考えるのなら、最も強力な存在となるが……、会えるのが楽しみで仕方がない。
「まぁ、分かった。1番隊隊長が来るまで、少し待ってもいいか?俺も1度会ってみたい」
「おやトミヤくん。アイツが来るまで待つのかい?朽ち果てるまで待つことになっても知らないぞぉ〜〜?ひひっ」
「カリュム、悪い冗談は良してくれ……
それに、彼は毎回遅刻こそするが、来なかった事はないだろう」
「そうっすよー!多分もうすぐ来ますって!」
「……ひっく」
「……」
……こうして、彼らの話を黙って聞いているだけでも、色々と人間性や人間関係が見えてくる。彼らはゼニアスの同僚だ。彼が俺の味方としても騎士としてもある限り、彼らはゼニアスを通じて強力な味方として動かすことができるだろう。
しかしゼニアスが完全に国を裏切り、騎士を辞め俺の味方に着く事があれば、ひとたび彼らは強大な敵となる。
どちらに転んだとしても、彼らの性格やできる事を深く知っておくに越した事は無い。
「あっ、このまま立ち話ってのもアレっすよね。お茶持ってくるんで、トミヤさんも入ってくださいよ!」
「なぜ僕の家で君が仕切るんだ、まったく……」
クレスに促されるがまま、家の内部に足を踏み入れる。
彼とゼニアスの会話はテンポがよく、聞いていて心地が良い。隊長間の中でも特に仲が良かったりするのだろうか。
「先輩とトミヤさんが仲良くなったキッカケとか、ボクすっごく興味あるんすよねー!よければお話聞か________」
うわァーーーーーーーーッ!?
「何の音だ!?」
その場にいた全員が顔を上げる。
「声が近かったぞ」
「何かあったのか!?」
口々に声を挙げる。
「待っていてくれ、外を見てくる」
ゼニアスがすぐに剣だけ手に取り、ドアを開ける。開けてすぐに、怯えた様子の男性が目に入った。
「そこのお兄さん!何かありましたか!?」
「ッ!?その剣、騎士様か!?助けてくれっ、そこに、すぐそこにっ」
「落ち着いてください。どうしました?」
「そ……、そこに、街の中にっ、デカい魔物がっ!!」
「「「「!?」」」」
男性の助けを求めるその声は、家の中にいる全員の耳に届いた。
「ま、街の中に魔物が……!」
「ありゃりゃりゃあ……、面倒臭いねぇ」
「……」
「…………よう聞け、お前たち。
……今日の街は、"狂気"が濃く満ちておる」
ジョッキに入った1杯を飲み干し、ゴディカは静かに口を開いた。
「……狂気が満ちてる、って?」
聞き馴染みのない言葉に、俺は疑問を浮かべる。
「トミヤさん。ゴディカ爺ちゃんの言う"狂気"は、絶対に当たるんす。"狂気"は爺ちゃんだけに分かる特有の感覚、"狂気"が濃く満ちれば満ちるほど、不吉な出来事が起きる……。
気をつけてほしいっす。ボクが守りますから」
周りを見ると、既にみな武器を手に取り、真剣な表情に切り替えていた。
「はぁ……。行くよ、タイチョー共。ひと仕事だ」
カリュムの一言を皮切りに、全員が動き出した。既にゼニアスは行動に移したのか、姿が見えなかった。
街へと繰り出すと、既に人々は避難を済ませ、魔物が道を練り歩いていた。
「数が多いっすね……」
「分かってるね、ボウヤ。あくまで退けるだけだ、倒しちゃいけないよ」
「言われなくても分かってるっすよ……」
カリュムとクレスが、互いに"契約"の事を念押しする。分かっている事だが、強調するようにして頭に無理やり覚えさせているのだろう。
「ふぅむ、しかし本当に数が多いのぅ。
ここはみな分かれた方が良さそうじゃの」
「…………」 コクッ
ゴディカの提案に、ユキノが小さく頷く。
「トミヤさんはボクに着いてきてほしいっす。人を守ることには定評あるんで!」
「ワタシは……道中の魔物を退けつつ、怪我人がいないか見て回ろうか。命優先だね」
「では、儂は雑魚の一掃といこうかの。全体的な数を減らすのが1番じゃろう。
ユキノは……、魔物の中でもより強めで危険な魔物がおったら、ソイツを集中して退けてくれんか?」
「……!」 コクッコクッ
「よし。あっ、トミヤさんもそれでいいっすか?」
「ああ、構わない」
「んじゃ早速________」
ギャオオォオォォッ!!
「……急いだ方がよさそうだねぇ〜〜」
「じゃあ、行動開始っす!!」
その掛け声と共に、みな各々の方向へと駆け出した。
「んじゃ、先に安全なところまで送り届けるっすね!行きましょう、トミヤさん!」
「ああ、分かった。急ごう」
俺とクレスは、街の避難所を目指して走った。クレスはおそらく俺よりもずっと速いだろうに、俺に合わせてペースを緩めてくれている。見た感じの印象からも読み取れたが、やはり優しいヤツなのだろう。
「……ところで、なんか暑くないっすか?ボクだけ?」
「そういや確かに……」
その時、ほっぺに何か熱い物が当たったような感じがした。
「っ!?今、なんか当たったぞ……?」
「ホントだ、なんすかねこれ……火の粉?」
「火の粉…………」
「うわぁッ、おい誰か……!消防呼べ!消防!」
向こうから、住民の甲高い声が聞こえてきた。
「火を操る魔物が出たっぽいっすね。厄介なんで、先に対処しときましょうか」
俺たちはより足早に火の粉が飛んでくる方向へ足を運ぶ。が、進めている途中で、俺はある事に気がついた。
……この道、今朝、通った道だ。
嫌な予感がする。汗が出てきた。これは暑さからか、それとも________
「誰か!消防呼んだか!?」
「待って!今呼んでくるわ!何て言えば通じるかしら!?」
「なんでもいいよそんなの!」
「あー、こう言えば通じるんじゃねぇか!?
テイラー家の道具屋が燃えてる、ってな!」
心臓の動きは、留まることを知らなかった。
金銀罪宝 〜道具屋の息子、最強の嘘吐き術で頂点を目指す〜 咲原 @Sakuhara_0
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