太陽の独占禁止
ちびまるフォイ
太陽の片道切符
『地球人の諸君。ワレワレは宇宙人だ。
太陽の独占に成功した。
太陽光がほしければ使用料を払いたまえ』
宇宙人からの通信が全人類に届けられた。
最初は誰も相手にしなかった。
どこかの愉快なハッカーがやったイタズラだと。
『わかってもらえないようだな。
では、半日だけ太陽を閉じてみよう』
するとまだ昼間なのに真っ暗になった。
かろうじて電灯が手元を照らすだけで、月明かりすら無い。
なにより激烈に寒い。
ガンガンに暖房を焚いてやっと半日を乗り切ると、
太陽の独占がなんら悪い冗談じゃないことに気がついた。
『地球人の諸君、これでわかっただろう。
ワレワレは今太陽を自由にON・OFFできる。
太陽の恩恵を得たくば、使用料を払いたまえ』
これはもう宇宙人からの交渉というより身代金だった。
世界各国の首脳陣は集まって会議をした。
「太陽の独占なんてバカげている!」
「しかし現実に太陽の主導権は奪われたままだ……」
「黙っていられるか! 見敵必殺!
宇宙人なんてぶち殺してしまえばよい!」
「太陽を独占できるような科学力の宇宙人だぞ。
こっちの軍事力でどうこうできるものなのか?」
「ぐぬぬ。それじゃこのまま一生使用料を払い続けるのか?」
「宇宙人の要求金額は?」
「1ヶ月利用で、9999兆アースマネーです」
「聞いたこと無い暴利じゃないか……」
「しかし払えないこともないのが、いやらしいところですな」
「どうします? 払うんですか? 払わないんですか?」
「むう……払う以外の選択肢はないだろう」
首脳陣はしぶしぶ自国民から強制的にお金を接収。
なんとか工面したお金をシャトルに乗せて宇宙人に届けた。
『たしかに。では太陽光1ヶ月分は保証しよう。また来月に』
宇宙人からの通信はそれだけだった。
1ヶ月の猶予が与えられたが、
その間にやったことといえば首脳陣たちはゴルフ会談と
市民たちは接収したことによる暴動だけだった。
翌月の支払いがふたたび迫る。
『来月分の支払いが届いていない。
これは太陽光を切ってしまってもよいのか?』
「そ、そんなわけないでしょう!?」
『では期日までに使用料を払いたまえ』
「ひぃ……」
期限が迫ってから焦るのは、夏休みの小学生と同じ。
人間の本質はそう変わらないのだろう。
「どうする? 次も払うか?」
「払うしかないでしょうね。太陽が失われたら地球は終わりです」
「そうは言っても、このまま一生払い続けるのは無理だ。
すでに暴動が起きている。次回もお金が集まるか……」
「宇宙人に献上している莫大な金があるのなら、
それを軍事開発に注ぎ込んでやっつければよい!!」
「だからそれができたら苦労しないだって……」
「結局、払って首がしまっていくのか。
払わずにみな死んでしまうのか……その2択か」
「いえ、3択です。まだ別の選択肢があります」
「そんなわけないだろ? 戦えと?」
「人工太陽を作るのです。
そうすればもう宇宙人にお金を払わずに済む」
「それを1ヶ月で? しかもどこにそんなお金があるんだ」
「お金はあるじゃないですか」
「お前まさか……」
「国民全員が、ちゃんと宇宙人にシャトルが届くまで見ているとでも?」
こうして秘密裏に人工太陽の製造計画が行われた。
場所は太陽光が届かなくても温度が保証されている海底火山。
その火山付近にドーム状の研究施設が建てられた。
人工太陽はそこで開発と研究が進められる。
市民向けには宇宙人に支払いシャトルを飛ばすパフォーマンスをし、
誰もお金を払っていないのにシャトルだけが届けられた。
最後の宇宙人との通信が地球人に届けられた。
『ワレワレは宇宙人だ。
地球人のみなさん、実に残念です。
太陽の使用料を踏み倒そうとするなんて。
では約束通り太陽光は届けないことにします』
ふたたび地球は暗黒に包まれた。
今度は半日なんてものじゃない。
人間たちは太陽に頼らない原子力発電をフル稼働。
必死こいて電気で暖を取るが長くは続かない。
地表はじわじわ凍りつき、植物は死に絶え、
家畜たちはみるみる倒れて食べるものすら失われる。
ストーブでどうこうできる次元じゃないほど
地表は極寒にして絶命の大地へと変わる。
限られた人類だけが地下に逃げることができ、
地表にとどまった人間は死に絶える。
地下で暮らす人達の希望はただひとつ。
「はやく、はやく人工太陽を作り上げてくれ!!」
その一方で海底火山ドームの研究所は混迷を極めていた。
「人類の80%が死んでいます。人工太陽の状況は?」
「……」
「博士! なんとか言ってください!」
「ダメだ……。何度やっても上手くいかない……。
人工太陽計画は失敗だ……」
「そんな!!」
「今も地球の資源が失われている中で、
人工太陽を作り出そうなんていうのがどだい無理だったのだ……」
「それじゃ人類はどうなるんですか!
地下暮らししている人も長くもちませんよ!」
「……」
博士はもう何も言えなかった。
そんなとき血の気の多い軍人が立ち上がった。
「ほうら、私の言ったとおりだ。
最初から宇宙人をぶち殺してしまえばよかったのだ!!」
「またその話か……」
「もういい。私は宇宙に出る!
そして宇宙で幅をきかせている宇宙人の首をとる!
そうすれば私は人類の救世主! 神となるのだ!!」
軍人は宇宙仕様の戦闘機で繰り出した。
向かう先は独占されている太陽。
幸いにも今は太陽光が届かない状況。
どれだけ近づいても消し炭になる心配はない。
「宇宙人どもめ、追い詰められた地球人が何をするかわからせてやる!」
たったひとりのレジスタンスは太陽にたどり着いた。
太陽は専用の鉄製のカバーに囲われていた。
「ここが太陽……。光が無いとただの石の塊みたいだな」
警戒しながら太陽の表面を散策していく。
すると、遠くに居住区のような建物が見えた。
「あれが宇宙人のねじろだな。
あそこのリーダーを抑えれば人類の勝利だ!」
軍人はナイフを構えてそっと建物に近づく。
しかし相手を見つけるよりも、バレるほうが早かった。
「あ、こんにちは」
後ろから声をかけられ軍人は飛び上がった。
「あれ? 今日担当のバイトの人?」
「へ? あ? え?」
軍人は目を白黒させる。
そこにいたのは宇宙人でもなんでもない。
同じ地球人だった。
「最初はわからないよね。はいこれ変声器。
これ通して声を出すと宇宙人っぽくなるから」
「宇宙人……えっ? ここに住んでいるの?」
「何を今さら。早く地球に帰りたいよなぁ。
なんか地球が選ばれた人だけまで減ったなら
太陽のカバー外していいって言われてるんだ」
「君は……そのためにここで?」
「宇宙バイトだからね。
でももうすぐ地球に帰られるみたいなんだ。
ああ、そろそろ時間だ。アナウンスしないと」
宇宙バイトの人は変声器を口元に当てて呼びかける。
『地球人の諸君、ワレワレは宇宙人だ。
そろそろ太陽カバーを外しても良いだろうか?』
太陽の独占禁止 ちびまるフォイ @firestorage
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