惑星時空間転移計画

ちびまるフォイ

戻るべきじゃない時代

世界の偉い人たちは喫煙所で会議をしていた。


「地球環境はますます荒れるばかりだ」

「いくら人間が成長してもこのままじゃ地球がもたない」

「なんとか環境を再生する方法があるか……」


そのとき、ニコチンが思わぬアイデアをくれた。


「そうだ。地球を昔の状態にタイムリープさせられないか?」


こうして"惑星時空間転移計画ワくせいじクうテんいけいカく"。

略称ワクテカ・プロジェクトが実行へと踏み出した。


「というわけで、なんとか地球そのものを

 昔の時代にタイムリープさせて環境を復活させようと思う」


「い、いきなり地球を送り込むのは危険じゃないです?」


「たしかに。ミスったら取り返しがつかないかもな……」


「まずはどこかの無人島とか、島国とかで試しましょう。

 それで上手くいったら規模を広げて、地球ごと送り込みましょう」


「だな。しかしそんな都合のいい場所があるか?

 無人島だと範囲が小さすぎてテストには向かない。

 できれば島国規模がいいのだが……」


「日本とかは?」

「あ、ちょうどよさそう」


「日本くん、それでいい?」


「遺憾」


「いいってさ。それじゃ早速送り込もう」


時空間転移の先陣は日本が務めることとなった。

海外では「遺憾」の意味は「OK」の意味らしい。


「スイッチ、オン!!」


日本の周囲にワープゲートが生み出され、

地球の大陸はそのままに環境だけが昔へとタイムスリップ。


「どうだ! 成功したか!?」


日本の様子を見ると、灼熱の大地が広がっていた。


「あれ……? 昔のジャングルが広がるはずでは……?」


「だ、大総統! タイムパラメータを見てください。

 6600万年前にするはずが、2億5000万年前になっています!!」


「いやもう桁数おおすぎて差分わからんが……」


「ぜんぜん意図しない時代にしちゃったってことですよ!!」


環境学者は青ざめていた。

その理由は日本の状況を見れば明らかだった。

すでにあちこちで人をはじめとした生物が死に絶えている。


日本だけ2億5000万年前になっていると、そこは灼熱の大地。

二酸化炭素濃度は現代の5倍近く。

平均気温は50度を超え、クーラーなんか追いつかない。


極度の乾燥状態で外を歩けば皮膚は焼かれ、

あっという間に脱水状態になって干からびてしまう。


さらに悪いことに、灼熱大国・日本の存在が周囲の海面温度を上昇。

未曾有のハリケーンの種を作り始めていた。


「こ、これはヤバい。早くなんとかしなくては」


「待ってください大総統。なにをなさる気で?」


「このタイムマシンをもう一度使うのだ。

 ポンコツでどの年代にいくかわからないが、

 今の状況を変えるにはもう一度使うしかないだろう」


「今より悪くなる可能性もありますよ!?

 氷河期に移動したらどうするんですか!」


「それはあくまで悪い結果だろう!?」


「それに今の日本は非常に貴重です。

 現代で失われた生物や植物がたんまりあるんです。

 この宝の山をなげうって、タイムリープさせる必要が!?」


「あるに決まってるだろ! 学術的価値なんて関係あるか!

 クソデカハリケーンが我が国に来たら元も子もないだろーー!!」


再び大陸タイムマシンのスイッチが押された。

まだ十分に冷却すらされていないマシンが異音を立てる。


ふたたび日本の周囲にワープゲートが開かれて、

大陸の状態を特定の環境に作り変えてしまった。


「どうだ!? 成功したか!?」


大陸監視ドローンを飛ばして状況を見ようとした。

空を飛んでいるドラゴンに捕食されて映像は途絶えた。


「……え? 見た? 今の……」


「見たこともない生物でしたね……」


タイムパラメータを見てみるが異常値を示していた。

もはやどの時代のどの環境なのかわからないらしい。

先ほどみた異世界の生物を考えると。


「もしかして、日本だけ異世界にしちゃった?」


「クラスメートごと異世界転生というケースもありますから。

 まあそういうケースもあるのかと」


「ええ……?」


この先どうしようかと大総統は頭を悩ませているとき、

急にホログラム映像が届けられた。


「わっ!? なんだ!?」


『そこは400年前の国の中枢機関ですか。こちらは日本です』


「なんでそんなピチピチスーツ着てるんです?」


『2500年の地球では普通の服です。

 それより、こっちはモンスターとの戦いで忙しい。

 余計な話をしている余裕はありません』


「2500年!? 400年後の地球ってこと!?」


「大総統、まさか……」


「異世界と未来を混合した世界に、

 日本をタイムリープさせちゃったようだ……」


「タイムマシン、ポンコツすぎません?」


「しょうがないだろ! わからないことも多いんだから!」


『無駄話は結構。やはりそちらが発端ですか』


ホログラム映像は日本の状況を映し出す。


地上から生えている高層ビルの摩天楼。

重力軽減装置で宙を自由に移動する人たち。


ジェット・カーがドラゴンとのチェイスを繰り広げ、

地上ではゴブリンの群れと、ビームガンの武装市民が応戦している


「じ、地獄絵図じゃないか……」


『未来の兵器もここでは資材が限定されている。

 今はこちらが優勢だがいつまでもつかわかりません。

 早く元の時代に戻してください』


「そうはいっても、このタイムマシンはポンコツで。

 次にスイッチ押したときいつに飛ぶかわからないぞ」


『ならばこちらの技術を提供します。

 2400年の技術なら、確実に直せます』


「そうか! その手があったか!」


ダメダメなポンコツタイムマシンを未来人に見せると、

脳内AIによりあっという間に答えを導き出してしまう。


『修理完了です。これで大陸はもちろん惑星ごと時代を超えられます』


「おお、ありがとう! 未来の人!!」


「大総統、はやくスイッチを!」


「ああ! スイッチ・オン!!」


日本の周囲にワープゲートが開き、異世界は異世界へ。

未来は未来へと元通りに転送された。

日本は元の状態に戻る。


「見ろ! 大成功だ!」


「ではこれを地球規模で実行しましょう!」


「ああ。失われた緑を再び地球に取り戻すのだ!!」


ふたたびスイッチが押される。

今度は地球の周囲にワープゲートが開き、

地球やその周囲を取り巻く環境を昔へと戻した。


ハゲ散らかっていた山は緑が生い茂り、

ゴミだらけだった海は澄み渡る青色に、

焼け野原のマングローブは再びジャングルへと戻った。


「大成功だ! これでまた好きなだけ伐採できるぞ!」


「タイムパラメータも6600万年前を示しています。

 地球が一番豊かな時代です!」


「そうかそうか。それはよかった。

 ああ、でも外に出るときは銃を忘れるな。

 たしかこの時代はまだ恐竜もまだいたらしいからな」


「ええもちろん。貴重な検体も得られるかもしれません」


二人は外に出ると、そこは緑いっぱいの幻想郷。

美しい大地に見とれてから空を見上げた。


「ああ、空がこんなにもキレイなんてな」


「きっと夜になると星もクリアに見えてキレイでしょうな」


「というか、すでに星が見えるほど透き通っているぞ」


「この昼間からです? さすがにそれは無理じゃないですか?」


「いや、ほんとに見えるって。ほらあそこ」


「……本当ですね。なんの星でしょう」


「なんか大きくなっていないか?」

「え?」


タイムマシンはあまりに優秀だった。

地球はもちろん、地球におきた環境変化もちゃんと当時を再現した。


6600万年前の地球。

恐竜が最後に生息していたその時代。

一番豊かな地球環境は長くは続かなかった。


「大総統……」


「言うな。もうわかってる……」


二人は覚悟を決めた。



「あれ、星は星でも……隕石ですね」



栄華を誇る地球環境が巨大隕石の衝突により

生物が死滅したのもちょうどこの頃だった。

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