第7話「カレー」について

「カレーとは、ひょっとすると神事に供される料理なのではないか」


そんな仮説がふと頭に浮かんだのは、「キャンプ場」という場所について調べていたときのことだった。


我々の探査機はその性質上、清潔な場所とりわけ建物の内部には入り込みづらく、それゆえに観測データは依然として乏しい。

一方で、野外や不衛生な場所では、探査機が紛れ込みやすく、比較的観測が行いやすい。

しかし、そういった場所に人間の姿はあまり見られず、観測の機会も限られていた。


ところが、「キャンプ場」だけは例外だった。大自然の中にありながら、そこには多くの人々が集い、独特な営みを行っている。そのため、我々の記録にも豊富なデータが残されており、多くの考古学者たちの関心を集めてきた。


ただし、その目的は依然としてはっきりしなかった。人々は、都市の便利な暮らしからわざわざ離れ、山中や川辺に簡素な布製の休息所を設け、焚き火を囲んで食事を作ったり、火を見つめたり、時には歌いながらその周囲をぐるぐると歩き回る。

これらの行動が無意味であるとは考えにくい。自然と火を用いた、集団的で繰り返される営み、、、我々はこれを、何らかの神事あるいは儀礼的な行為ではないかと考えていた。


そして、映像を分析していたとき、ある重要な共通点に気がついた。

それは、非常に多くの人々がこの場で「カレー」を調理し、食しているという点である。


この発見は、私の中でいくつかの要素をつなげる鍵となった。この時代の人間は、無宗教を装いつつもこっそりと仏教的な精神が息づいているとされる。そして、仏教が生まれた土地はインドであり、同じくカレーもまたインドを起源とする料理なのである。


こうした文化的背景をふまえると、「カレーが神事における特別な食べ物である」というのはほぼ間違いないと思われる。

なぜなら神事の際の甘い食べ物がアメーであることを我々はすでに知っているからだ。

七五三という子どもの成長を祝う神事では「千歳飴」が配られていたことが、過去のデータ・研究から明らかになっている。


つまり、以下のような分類が可能ではないか。


神事において供される「辛い」食物=カレー

神事において供される「甘い」食物=アメー


この法則に従うならば、まだ観測されていないものの、将来的には以下のような食べ物の存在が明らかになる可能性もあると思われる。


神事における「苦い」食物=ニゲー

神事における「酸っぱい」食物=スッペー


もちろん、これらは現段階では仮説の域を出ない。だが、こうした文化的断片をつなぎながら、少しずつ人間たちの営みに迫っていくこと、、、それこそが、我々の考古学者の醍醐味なのである。


今後の観察と分析によって、新たな発見がもたらされることを期待したい。

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未来人の考古学 なぁりー @nary3954

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