後編:5G -judgement-

「どうしてなの? 絶対におかしい。〈加速銃ターボガン〉を使って癌になるだなんて、何か、とんでもない陰謀的原因があるに違いないわ!!」

 床海とこうみカスミは、謎の癌大量発生の原因を探り始めた。


 忘れてはならないのは、床海とこうみカスミが、なんでも治す大発明をしてのけるほどの頭脳の持ち主であるということ。謎癌爆増の原因究明なぞ、彼女にとっては、造作も無かった。


「私の医院の顧客データに、誰かがアクセスしてるわ。住所検索履歴が大量に残ってる! なるほど、簡単じゃない」


 そういうわけで床海とこうみカスミは、白衣をバサっと羽織ると、検索の痕跡が残された住所に、しらみ潰しに訪れていった。


 とある加賀の、線路沿いバイ・ザ・レールにて。

 医者の印とは対照的な黒衣こくいまとう、怪しい二人がいる。何か、ブツブツ言っている。


「「コロシタイベー、タベタイベ、レプレプコロコロ、ワクワクタヒタヒ……」」


 おどろおどろしい二重奏のそれは、禁じられた魔導書に記されていそうな、呪文のよう。


「あんたたち、ここで何をしているのよ!」

 床海とこうみカスミは、黒衣の二人を、振り向かせる。


 小物感満載、素っ頓狂な声で、

「ほぇ? 何ってそりゃあ……電気工事の類ですよ? ほら、この電柱を見てご覧……って、お前は!!」

「貴様ッ! 噂の詐欺女医、ミスカミウコト!?」

 とのたまう二人の顔は間違いなく、医学会の世界的権威ナイヤロ・メドベードフ博士と、ドクトル・ゴジバコンのそれ。


「はぁ!? 逆よ、逆! 床海とこうみカスミよ! まぁいいわ。本当の詐欺師はどっちなのか、教えてあげるわ」

 白衣の右ポケットに、手を突っ込み、

「というか、何よ、その柱から伸びてる、綾取りみたいな紐たちは」

 床海とこうみカスミが指摘した電線ひもは、一軒家——かつて彼女が主治医を担当していた患者の家——を、ぐるりと魔法陣のように取り囲んでいる。電線ひもの出所はというと、単体の家屋の周りに立つにはオーバーキルな本数の電柱の切先。


「これは、電柱を支柱に銅線の結界を敷いて毒の磁場を築いているのさ! そこから発生する電離放射線レベルの電磁波をニンゲンに浴びせてミトコンドリアを破壊して細胞の癌化を誘発するという、まさに呪いの結界——」

 ドクトル・ゴジバコン即刻自供。

「おい! それは吐露禁とろきん事項だろうが! が……バレてしまったなら仕方ない! それにこっちは男二人、女医の一人くらい、腕力でじ伏せて——」

 慢心舐め腐りな、ナイヤロ・メドベードフ博士。


「そうかしら? こっちも丸腰ってわけじゃ、ないのよね……ジャン! これ、何だかわかる?」

 床海とこうみカスミが右ポケットから出した手には、小型のL字。

「「そ、それは!!」」

「あんたらが、プラセボだとか、霊感商法だとか詐欺だとか散々揶揄やゆしてくれた、〈加速銃ターボガン〉よ!」

 床海とこうみカスミは〈加速銃ターボガン〉で狙いを定める。

「だ、だから何だって言うんだ? それはただの玩具! ということになっているよな、メドベードフ博士?」

「そ、そうだ! 仮に効果があったとしても、たかが治療器具、我々に敵うはずが……」

 と、吠えるナイヤロ・メドベードフ博士は既得権益者にありがちなカブトムシ体型であるし、ドクトル・ゴジバコンは風吹けば折れそうなヒョロガリ。

「フッ。あんたら、甘いわね。所詮は『権威』、レッテルだけの裸の王様よ。裁きを……受けなさい!」

「は、ハッタリだ! こっちには呪いの結界があるんだぞ?」

 ドクトル・ゴジバコンはずんぐり体躯を反転、電柱をいじり始める姿はまるで樹液を舐め吸うカブトムシ。

「そうだそうだ! 奴にも毒の磁場を……コロシタイベー、タベタイベ、レプレプコロコロ、ワクワクタヒタヒ……」

 ナイヤロ・メドベードフは両手を左胸の前でおにぎり的三角型に組み、呪文詠唱へと移る。


 が、床海とこうみカスミは動じず、

「〈加速銃ターボガン〉は、あらゆる体の異常を、選択的に排除する。せっかく安く、抜群に治せるのに、それを邪魔するやつは……異常分子、同然だ! そんなやつにも、〈加速銃ターボガン〉は、効くんだよなぁ〜」

 と、〈加速銃ターボガン〉を握る右手の人差し指で、カチカチと目盛りを回し、目当てのところで止め離し……

「ダイヤルレベル、666〈ヘルス〉トリプルシックス! いけっ、〈加速銃ターボガン〉!!」

 ナイヤロ・メドベードフ博士と、ドクトル・ゴジバコンに、〈加速銃ターボガン〉の666〈ヘルス〉光線を浴びせると、青白い光のあとで……


 二体の、トゲトゲヌメヌメ黒光りの禍々まがまがしい爬虫類(H・R・ギーガー的造形だ!)が現れて、

「「ぎゃあああ! 変身解けたあああああああ!!」」

 と、己のの姿を嘆く。


「遺伝子改変効果で、塩基配列をあるべき並びにあげたわ。あんたらにはその醜い姿が、お似合いね!」

 床海とこうみカスミは親指を立てて、

「あと、これは、ダメ押しよ」

 微笑み、追い討ちをかける。


「5・G・J ——レベルファイブ・グラビティ・ジャッジメント!」

 〈加速銃ターボガン〉の隠された能力。G重力を局所的に、5倍レベルファイブにできる。


 二匹の爬虫類は、身動きを封じられ、底なし沼にまったかのように地底へと沈みゆく(巣穴へと帰る!)。

「「覚えてイロミナティーっ!!」」

 の捨て台詞と共に、地からマッドなハンド四本が中指立てて、埋め消えた(アイル・ビー・バックはやめてくれ!)。


 程なくして、床海とこうみカスミは名誉を回復した。

 世界医学会は判断ミスを認め、床海とこうみカスミに謝罪の後、世界医学会功労賞を授与した。

 〈加速銃ターボガン〉の技術は、守られた。


 人々は、〈加速銃ターボガン〉治療よって健康寿命ケコジュミョ=イコ寿命ジュミョを実現し、永遠に健やかに暮らしましたとさ。

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とある医学のターボガン 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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