網目模様の時間と、布団を運ぶ旅

生字引智人

網目模様の時間と、布団を運ぶ旅

ラーメンライス城之外「見ろよ、安銅原。あの網目模様の時間を。縫い合わせるどころか、もんどりうって手を叩くしかない連中の哀れさを。」


ライスカレー安銅原「叩いた手の音が、"違う!"と"そうだ!"の間をただ濁らせているだけさ。救いようのない舞踏だ。」


ラーメンライス城之外「自己陶酔という名の水たまりに、自ら顔を沈めて泡を吐いている。まるで、夢を知らぬ子供のように。」


ライスカレー安銅原「辟易するよな。彼らの無様な肯定と否定の往復には。どちらにせよ、網目の裂け目からこぼれ落ちるしかない運命の現れなのだ。」


(ふたりは、しばし無言で、空気の歪みを眺めていた。)


ラーメンライス城之外「せめて、せめて我々だけは、もう少しだけ憐憫を抱いてやろうじゃないか。」


ライスカレー安銅原「ああ。

彼らのために、180日かけて布団を運ぼう。」


ラーメンライス城之外「夜の寒さをやわらげるためでも、昼の光を遮るためでもない。ただ、忘れられた存在たちのために。」


(ふたりは静かに歩きはじめる。足元に、布団が一枚ずつ、丁寧に敷き詰められていく。)


ライスカレー安銅原「……ところで、見たかい?あの口ひげ。1本、いや、516本程度まばらに散っていた。」


ラーメンライス城之外「滑稽だが、美しいな。無秩序の中に宿る無垢。ちょうど、夏の匂いが、まだ名前を持たない頃のようだ。」


ライスカレー安銅原「季節は……すでに、夏へ近づきつつある。」


(ふたりは、布団を抱えたまま、空に滲む陽炎の向こうへと消えていった。)

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網目模様の時間と、布団を運ぶ旅 生字引智人 @toneo55

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