2‐8 / 岩倉の死-残せた道筋(佐野常民編/灯火と道筋)
◆【片桐、京にて起つ】
明治十五年(1882年)
大蔵卿を更迭された佐野常民が、博愛社の設立準備に奔走し、新たな戦いを模索している頃。片桐陽介は、静かに、しかし確固たる決意を胸に、東京の官職を辞した。
師であり、主君であった岩倉具視の病状は、日増しに重くなり、もはや政務に復帰できる見込みは薄い。岩倉に絶対的な忠誠を誓っていた片桐にとって、他の誰かの下で、あるいは岩倉の理想から離れた場所で働くという選択肢は、もはやなかった。
(岩倉様がお倒れになった今、わたしが官に残る意味はない……。あの方から受けた薫陶(くんとう)、そして共に見た欧米の進んだ建築や都市計画の知識……これを、京都のために、岩倉様の夢見た都のために、この手で活かすのだ!)
彼は、民間の立場から京都の再生に貢献することを決意した。それは、官の世界で苦境に立たされている佐野常民を支え、岩倉の「文化首都」の夢を形にするための、彼なりの新たな戦いの始まりでもあった。
数ヶ月後、片桐は京都の小さな町家を借り受け、「片桐建築設計事務所」の看板を掲げた。事務所はまだ小さく、大きな仕事の依頼も少ない。しかし、片桐の胸には、京都の未来を自らの手で設計しようという、まるで若葉のような、静かで、しかし熱い情熱が燃え上がっていた。
◆【京都皇宮保存に関する意見書】
明治十六年(1883年)夏。蝉時雨(せみしぐれ)が降り注ぐ東京・永田町の岩倉具視邸。
その奥座敷の病床には、日本の近代化を導いた巨星が、今まさにその光を消そうとしていた。岩倉具視の死期は、誰の目にも明らかだった。やつれ果て、声もかすれ、もはや指一本動かすのも困難な様子だったが、その瞳の奥には、まだ鋭い光が宿っている。
その日、佐野常民は、岩倉からの急な呼び出しを受け、息を切らして駆けつけていた。
「……佐野殿……よくぞ、来てくれた……。もう、時間が……ないようだ……」
岩倉は、途切れ途切れに、しかしはっきりとした声で言った。その手は、震えながらも、枕元に置かれていた一束の書状をまさぐっている。
「岩倉様…! どうか、お気を強く!」
佐野は、こみ上げてくるものを必死に堪え、岩倉の手を握った。
「よいのだ。佐野殿、これを」
岩倉は、震える手でその書状を佐野に差し出した。それは、彼が病床で、最後の力を振り絞って記した「京都皇宮保存に関する意見書」だった。その表紙には、岩倉自身の、震える筆跡でそう記されている。
『……千年の都がたちまち荒れ果ててしまったのは明治維新で体制が変わったからとはいえ、とても惜しいことだ……民の生業(なりわい)を回復するにはさまざまな儀式や祭りを行い、全国の人びとがこの地にやって来るようにするのがよい……歴史と伝統を踏まえた催しを行うことで、京都を再び一流の街として復興させ、ひいては日本の国格を高める……』
書状に目を通す佐野の目に、涙が溢れた。そこには、岩倉の京都への深い愛情と、その未来への具体的な構想、そして何よりも、日本の文化と精神を守り育てようという、彼の魂からの叫びが記されていた。さまざまな儀式や祭り、それは、佐野自身が水面下で模索していた計画と、奇しくも一致する部分が多かった。
「岩倉様…! これは!」
佐野は、感動に声を詰まらせた。
「佐野殿…京の未来を頼む…! わしの…最後の、夢だ!」
岩倉は、佐野の手を弱々しく、しかし力強く握り返した。その目には、懇願と、そして信頼の光が宿っている。
「お任せください、岩倉様!」
佐野は、岩倉の手を固く握りしめた。
「わたくしが、この佐野常民が、水面下で進めている京都での内国勧業博覧会こそ、まさにこの『民の生業を回復する儀式や祭り』でございます! 必ずや、岩倉様の遺志を実現させてみせます! この国の未来のために!」
岩倉は、佐野の力強い言葉を聞くと、かすかに、本当にわずかに微笑んだように見えた。そして、ゆっくりと目を閉じた。佐野は、託された重い遺志を胸に、京都再興を改めて、そして固く誓った。それが、彼が岩倉と交わした、最後の約束となった。
◆【巨星墜つ】
明治十六年(1883年)七月二十日。
日本の近代化を導いた巨星、岩倉具視が、東京・永田町の自邸で静かに息を引き取った。享年五十九。喉頭癌に蝕まれ、最期まで国事を案じながらの逝去だった。その死は、一個の政治家の死というだけでなく、戊辰戦争から十数年、激動の維新回天を成し遂げた一つの時代の終わりをも、人々に強く象徴しているかのようだった。
その訃報は、電信によって瞬く間に全国に伝えられた。博愛社の設立準備に奔走していた佐野常民は、東京の事務所でその報せを受けた。
「岩倉様が……! ……ついに……」
彼はしばし絶句し、手にしていた筆を落とした。椅子に崩れ落ちそうになるのを、傍らにいたアレクサンダー・フォン・シーボルトが、そっと支える。数日前に託されたばかりの、あの熱い想いが込められた意見書を、彼は懐から取り出し、固く、固く握りしめた。その紙の感触だけが、今の彼にとって唯一の確かなものだった。
(必ずや、あなたの遺志は……! この国が、文化を軽んじることなく、真の豊かさを得るために、わたくしが……! あなたが見た夢を、この手で……!)
言葉にならない誓いが、佐野の胸を熱くした。涙が、止めどなく溢れ出た。
一方、京都で設計事務所を開いていた片桐陽介も、電報でその訃報を受け、深い悲しみに打ちひしがれた。師であり、主君であり、そして日本の未来を照らす灯台のような存在だった岩倉。その大きな存在を失った喪失感は計り知れない。彼は事務所の窓から、変わりゆく、しかしどこか寂しげな京都の街並みを眺め、ただ涙を拭った。しかし、彼はすぐに顔を上げた。その瞳には、悲しみと共に、新たな決意の光が宿っている。
(岩倉様……見ていてください。あなたの夢見た京都を、この手で……。佐野様と共に、そして京の民と共に、必ずや!)
岩倉具視の最期に立ち会うことは叶わなかった二人だが、その心には、託された「京都文化首都構想」実現への誓いが、深い悲しみを乗り越える力となって、より一層強く、熱く刻まれたのだった。巨星は墜ちた。しかし、その遺志は、確かに次代へと受け継がれようとしていた。
◆【民間の灯、京にて/ 京都商業会議所】
岩倉具視の死から数ヶ月。片桐陽介は、京都に開設した自身の設計事務所で、新たな決意を固めていた。師であり主君であった岩倉の遺志。これを実現するには、もはや中央政府に頼るだけでは駄目だ。佐野様も、官僚としての限界を感じておられる。ならば、京都自身の力、特に民間の活力を引き出す必要がある――彼はそう確信していた。
(これからは、民間の力だ。官の論理だけでは、京の真の再生は成し遂げられぬ。我々自身が、この都の未来を創るのだ!)
その信念に基づき、片桐は行動を起こした。彼は、設立されて間もない京都商業会議所の門を叩き、一会員として名を連ねることにしたのだ。建築家としての専門知識や、岩倉の側近として得た中央政府の情報や人脈を、京都の経済人たちと共有し、共に汗を流すことで、活路を見出そうと考えたのである。
会議所の会合に顔を出すようになった片桐は、そこで一人の男と出会った。中村栄助。京都で油問屋と鰹節商を営み、会議所の副会頭として辣腕(らつわん)を振るう、京都経済界の中心人物だ。その風貌は、いかにもやり手の商人といった感じで、眼光は鋭く、しかしどこか人を惹きつける温かみも感じさせた。中村は、片桐の若さにもかかわらず、そのしっかりとした物腰と、瞳の奥に宿る京都への熱い想いに、すぐに気づいた。
「片桐さん、あなたは、なかなか面白い方ですね。岩倉様のお側にいらしただけのことはあります。私も、このまま京都が寂れていくのを、指をくわえて見ているわけにはいかないと思っています。何か、大きなことをやらないと、この都は本当に終わってしまう。あなたの力を、貸していただけませんか?」
ある会合の後、中村は気さくに、しかし真剣な眼差しで片桐に声をかけた。
「中村副会頭……!」
片桐は、その言葉に、そして中村の目に宿る京都への真摯な想いに、深く共感した。
「……はい! 喜んで! 私にできることがあれば、何なりと!」
二人の出会いは、まだ小さなものだったが、やがて京都の未来を大きく動かすことになる、確かな一歩となった。
◆【京での誓いと再会、計画始動】
明治十七年(1884年)初夏。
佐野常民は、久しぶりに京都の土を踏んだ。大蔵卿を更迭され、博愛社の活動に忙殺されながらも、彼の胸には常に「文化首都・京都」への想いが、そして岩倉から託された意見書の重みが、深く刻まれていた。東京での政府への働きかけには、もはや限界を感じていた。
(……やはり、京のことは、京の民の手で……。そのためには、中村殿の力が必要だ……)
佐野は、京都の東山近くにある「片桐建築設計事務所」を訪ねた。小さな町家を改装した質素な事務所だが、中には西洋の建築書や、彼が手掛けたのであろう建物の精巧な図面が整然と並び、片桐の新しい道への意気込みがひしひしと感じられた。
「佐野様! ようこそお越しくださいました!」
片桐は、恩人の訪問に顔を輝かせた。
「片桐君、立派な事務所ではないか。君の決意、しかと伝わってくるぞ」
二人は、しばし互いの近況を語り合った後、本題に入った。佐野は、懐から岩倉具視から託された「京都皇宮保存に関する意見書」の原本を、改めて片桐の前に広げた。その紙面には、岩倉の震える筆跡で、京都再生への熱い想いが綴られている。
『……民の生業を回復するにはさまざまな儀式や祭りを行い、全国の人びとがこの地にやって来るようにするのがよい……歴史と伝統を踏まえた催しを行うことで、京都を再び一流の街として復興させ、ひいては日本の国格を高める……』
「岩倉様のこの遺志……我々の手で、必ずや実現させねばなりませぬ」
片桐が、力強く言った。その目には、涙が滲んでいる。
「ああ、そうだとも」
佐野も、深く頷く。
「わしは、この京都で、必ずこれを成し遂げたい。そのための具体的な計画を、ここで、君と共に練り上げようではないか」
その夜から、二人は、夜遅くまでランプの下で膝を突き合わせ、岩倉の意見書と、ウィーン万博の資料、そして片桐が持つ建築・都市計画の知識を基に、具体的な計画書を作成し始めた。
「内国勧業博覧会 京都誘致」――壮大な事業計画が、二人の熱意によって、少しずつ、しかし確実に形になり始めていた。
◆【民への希望、古都再興への道】
岩倉具視の死から数年が過ぎても、佐野常民の戦いは続いていた。大蔵卿を更迭され、今は博愛社の活動などに忙殺される日々。それでも、彼の胸には常に「文化首都・京都」への想いが、そして岩倉から託された意見書の言葉が、熱く燃え続けていた。
(……最後にもう一度だけ、官を信じてみよう。これが、本当に最後だ……)
片桐陽介と共に練り上げた「内国勧業博覧会 京都誘致」という、壮大かつ具体的な計画書を手に、彼は諦めずに、再び東京の政府有力者への説得を試みていたのだ。
しかし、現実は、やはり厳しかった。古賀宗助、山縣有朋、井上馨らが主導する政府の方針は、依然として富国強兵・殖産興業に偏重しており、文化や地方(特に京都)への配慮は乏しいままだった。
「佐野君、君の熱意は買う。だが、今の日本に、そのような大規模な祭典や施設に投じる予算はないのだ。第一、京都にそれだけのことができるのかね?」
「まずは国家の基盤を固めることが先決だ。文化はその後でもよかろう。それに、博覧会は東京で十分だ」
何度足を運んでも、返ってくるのは同じような、冷たい言葉ばかり。佐野は、自身の無力さと、官僚組織の厚い壁を、改めて、そして決定的に痛感していた。佐野は、これにより、官による実現という道筋から、完全に民間による実現へと舵を切り替える決断をした。
◆【民の力、結集の刻】
深い失意の中、再び佐野は京都にある片桐陽介の設計事務所を訪れた。その顔には、疲労と、そしてある種の諦観の色が浮かんでいた。
「片桐君…わしは、もう限界かもしれん。政府を説得するのは、不可能に近いようだ。彼らに、京の価値は、文化の力は、到底理解できんらしい……」
佐野は、弱音を吐露した。
「佐野様……」
片桐は、主君を失った時と同じような悲しみを、佐野の表情に見出した。
「ですが、諦めてはなりませぬ! 岩倉様も、きっと…!」
「わかっておる!」
佐野は、しかし力強く応えた。
「だからこそ、決めたのだ! 岩倉様の『意見書』にもあったではないか。『民の生業を回復するには…全国の人びとがこの地にやって来るようにするのがよい』と。そうだ、『民』という言葉がある…! 我々は、京都の民の力を結集してみるべきなのだ!」
「民の力……! 京都の商人や、市民たちの…! 佐野様、まさしく私も同じことをずっと考えておりました。では、本格的に民と連携するお気持ちになられたのでございますね!?」
片桐の目に、強い光が宿った。
「うむ。そこで、片桐君に頼みがある」
佐野は続けた。
「君は、京都商業会議所にも出入りしていると聞いた。そこの中心人物……たしか、中村栄助殿とかいう、気骨のある人物がいると聞いたことがある。君は、彼と面識があるのだろう?」
「はい! 中村副会頭のことですな! 彼は、京都の経済界だけでなく、京都の政界にも大きな影響力を持つ、まさに京都の顔とも言うべきお方です。私も何度かお話ししましたが、京都への想いは人一倍強い、熱いお人です! きっと、佐野様のお考えを理解してくださるはず!」
「そうか……。その中村殿に、わしは会ってみたい。そして、この計画を……岩倉様の遺志を、直接打ち明けてみたいのだ。片桐君、仲介を頼めるだろうか?」
「もちろんですとも!」
片桐は、力強く頷いた。
「佐野様の『民の力を結集したい』というお想い、そして岩倉様の御遺志。私が京都商業会議所に入会したのは、この日のためでもありました。必ずや、お引き合わせいたします!」
◆【交わる決意、共に描く京】
数週間後、佐野常民は、片桐の案内で、京都商業会議所の副会頭室の前に立っていた。彼の胸には、岩倉具視の意見書の原本と、片桐と共に練り上げた「内国勧業博覧会・京都誘致」の計画書が、熱い想いと共に抱かれている。
そこで待っていたのは、噂に違わぬ精悍な顔つきと、鋭い眼光を持つ男、中村栄助だった。彼は、京都の油問屋及び有力鰹節販売会社の社長であり、府議会議員でもあり、そして京都商業会議所の副会頭として、まさに京都の「民」を代表する人物だった。その佇まいは、単なる商人ではなく、都の未来を憂う指導者の風格を漂わせている。
「佐野様、ようこそお越しくださいました。中村栄助と申します。片桐さんからは、かねがねお噂は伺っております」
中村は、丁寧ながらも、どこか値踏みするような、しかし興味津々といった目で佐野を迎えた。
「こちらこそ、お忙しいところを、お時間をいただき感謝いたします。佐野常民です」
二人は、しばし京都の現状――活気を失った街並み、疲弊した伝統産業、そして人々の間に漂う閉塞感――について言葉を交わした。そして、佐野は意を決して、懐から岩倉具視の意見書の原本と、片桐と共に練り上げた計画書を取り出した。
「中村殿、実は……本日は、この京都の未来について、そして故・岩倉様の遺志について、お話ししたく参りました」
佐野は、岩倉の「文化首都」構想、ウィーンでの経験、そしてこの計画に込めた京都再生への熱い想いを、中村に語り始めた。中村は、最初は静かに、しかし次第に身を乗り出すようにして、佐野の話に聞き入っていた。その鋭い眼差しには、驚きと共に、深い共感の色が、そして次第に興奮の色が浮かんでくる。
「……文化首都……内国勧業博覧会の京都誘致……」
佐野が語り終えると、中村はしばし黙考していたが、やがて、まるで堰を切ったように、力強く頷いた。
「佐野様……! 素晴らしい……! 実に素晴らしいご計画です! これこそ、今の京都に必要なもの……いや、我々京都の民が、心の底から待ち望んでいたものです!」
中村自身も、京都商業会議所副会頭として、また一市民として、衰退していく故郷の姿に強い危機感を抱き、なんとか活気を取り戻したいと、寝る間も惜しんで模索していたのだ。佐野が語る壮大で、しかし具体的な計画は、まさに彼の想いと完全に一致するものだった。
「わたくしも、このままでは京は終わると、ずっと危惧しておりました。官に頼らず、我々民間の力で何かを成し遂げねばならぬ、と! 佐野様、この中村栄助、微力ながら、その計画、全面的に協力させていただきます! いや、恐れながら申し上げれば……わたくしに、その先頭に立たせてはいただけませんでしょうか!」
中村の力強い言葉と、その目に宿る、京都の未来を切り開こうとする決意の光に、今度は佐野が深く感動する番だった。
(この男となら……この中村栄助となら……きっと、やれる! 岩倉様の夢を、実現できる!)
二人の間に、京都再生への固い決意と、熱い共感が確かに生まれていた。
◆【京の誇り、響く喝采】
ある日の夕刻、佐野は、政府のとある会議の末席で、発言の機会を得た。それは、地方からの陳情に関する、取るに足らない議題の最後だった。しかし、佐野はこれを、官僚としての、そして岩倉の遺志を継ぐ者としての、最後のメッセージを伝える場と捉え、静かに立ち上がった。例え、古賀宗助や山縣有朋が、冷ややかな視線を送ろうとも、もう彼には何の恐れもなかった。
「……陳情の趣旨とは異なりますが、最後に一言、申し上げたい儀がございます」
佐野は、居並ぶ高官たちを見渡し、言葉を続けた。その声は、穏やかだが、確信に満ちていた。
「今、京都は疲弊しております。しかし、それはかの都が価値を失ったからでは断じてありませぬ。我々が、その真の価値を見過ごしているからではないでしょうか」
彼は、ウィーンでの経験を簡潔に述べ、そして、岩倉具視が遺した言葉を引用しながら、熱く、魂を込めて語り始めた。
「今、京都の人たちが求めているのは、山林の修復、美しい自然を守ることだ。神社仏閣の古い美術品を守り、鑑賞できるようにすること。 それらは、決して過去の遺物などではない。未来への投資なのです! 京都が本来持つ自然の美しさ、そして千年の歴史が育んだ文化の輝きを取り戻し、それを広く内外に示すことができたなら……人々は必ずや、再び京都に魅了されるでしょう。そうすれば日本中の、いや、世界中の人々が京都の『お得意様』になることだって夢ではないのです! それこそが、京都が生きる道であり、ひいては日本の国益にも繋がる道だと、私は確信しております!」
佐野の魂からの叫びとも言える演説が終わると、会議室は一瞬、静寂に包まれた。古賀や山縣は、依然として冷淡な表情を崩さない。しかし、他の閣僚たちの中には、目を見開き、あるいは深く頷き、佐野の言葉に心を動かされた者が少なくなかった。やがて、どこからともなく拍手が起こり、それは次第に大きな喝采へと変わっていった。それは、佐野の訴えが、多くの者の心に響いた証だった。
その拍手を背に、佐野は静かに会議室を後にした。彼の「官」としての戦いは終わった。
佐野が官僚として、京都文化首都構想のために、唯一、残せた実績。
それはあの第一回内国勧業博覧会の東京開催だった。京都での内国勧博覧会開催という壮大な構想を実現するためには、まず国内での前例を作る必要があった。そのため、東京・上野での開催は、京都開催への布石として欠かせないものだったのだ。
そして、その彼が灯した「文化首都・京都」への灯火は、決して消えることなく、これから京都の民と中村栄助という新たな旗手へと、確かに受け継がれていくのである。東京での博覧会成功という一筋の光が、京都での輝かしい未来へと繋がる、わずかではあるが確実な礎となったのだ。
(第二部 完)
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灰燼からの京都再生譚~文化の力~ @yuwki-matsumura
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