6話 模擬戦 ―交差する想いと決意― 北条&柚月視点
訓練区域、東側の岩場と砂地が入り混じるルート。
風が吹けば砂粒が舞い、足元をさらうようにして地面を這っていく。岩肌が剥き出しになった斜面と半ば崩れたバリケードの残骸が点在する不安定な地形。
「ドローン展開。敵影、今のところなし」
耳元の通信から届く澄んだ声。その声の主──柚月まどかは小柄な体を伏せるようにして携帯型端末を手に上空を旋回するドローンの映像に集中していた。
目は冷静だが、細かな眉の動きにはわずかな緊張がにじんでいた。
「慎重に行こう。変に開けてるぶん遠くから狙われる可能性もある」
前方を歩く北条隼人が低く告げる。大柄な体格からは想像しづらいほど静かな足取りだった。
「岩場の中、すぐ向こう側に視界の死角がある。移動パターンに注意して」
「了解。……なあ柚月、ドローンの熱反応、なんかおかしいとか感じるか?」
「均一すぎるの。……熱源の偏りがなさすぎてむしろ不自然」
「つまり──待ち伏せの可能性が高いってことか」
北条の言葉に柚月は小さく頷いた。
そんなときだった。
岩陰から突如として訓練用機械兵が飛び出してきた。無音に近い動作で狙い澄ましたかのような鋼の拳が北条に襲いかかる。
「北条、左っ!」
咄嗟に発せられた柚月の声。その瞬間、北条の体が反応する。
スーツの補助機能を使って低く身を沈め、機体の一撃をぎりぎりで躱すと、一歩後退。岩場の窪みに身を滑らせ呼吸を整える。
「ちっ、いい角度だったな……」
その隙に柚月が拳銃を構える。連続射撃。小口径の弾が正確に機体のセンサー周辺をかすめるように走る。完全なダメージにはならないが十分な牽制となった。
訓練機が一瞬、注意を柚月に向ける。わずかに首を振り、センサーの向きを切り替えた──その瞬間を北条は見逃さなかった。
「──今か」
砂を蹴り、全力で飛び出す。
スーツの脚部補助装置が唸りを上げる。一直線に訓練機の右側面へと滑り込む。
拳に込めた力を訓練機の腰部関節へと叩き込む。
鈍い金属音が響き関節が歪んだ。機体がよろめいた瞬間、北条は上段から一撃を振り下ろす。
「これで終わりだッ!」
拳が装甲を貫通する。機体が仰け反り重力に従うように膝から崩れた。
直後、柚月の冷静な声が通信に乗る。
「撃破確認。北条&柚月、1点目獲得」
訓練機は砂の中に完全に沈黙した。
北条は呼吸を整えながら拳を見つめる。
「ふぅ……見事なタイミングだったな、柚月」
「お互いさま。あの角度、もし見逃してたらこっちが先にやられてた」
「油断せずもう一体行くぞ。あの二人──神谷と波多野には絶対に負けたくねえからな」
北条が拳を軽く打ち合わせ、再び前へと歩を進める。
「ドローン、次のスキャン開始。……東側斜面に微弱な反応あり」
「いい流れだ。追い込むぞ」
砂が舞い、岩陰に広がる霧がその輪郭をぼやかしていく。
やがて二人は岩場と砂地の地形を抜けた。
そこには自然に延びるように続く細道があり、進めば進むほど霧が濃くなる。
周囲の風景は一変し、訓練区域の中心付近と思しき開けた丘陵地帯へと導かれるように二人は到着した。
しかし霧は視界を完全に奪い、肉眼では数メートル先すらおぼつかない。
「柚月、ドローンの映像が……」
「わかってる。通信に微細なノイズも混じり始めてる。……あまり良くないわね」
「このあたり神谷たちも来てるか?」
「おそらく。レーダーの反応的にこの先で誰かが交戦中の可能性が高いわ。だとすれば神谷たちかも」
柚月は端末を睨みつけるように操作する。
「ドローンの映像に乱れ。……センサー波形も微妙に乱れてる。これは……普通の訓練機じゃないかも」
その言葉に北条の顔が引き締まる。
「ま、やってみなきゃわかんねえだろ。けど……いつもより体が緊張してる気がする。……妙な予感ってやつか?」
霧の先に、何かが動いた気配。
柚月の手がピタリと止まり緊張が走る。
遠く、赤くぼやけた光点が一瞬だけ見えた。
「センサーに一体、反応……!」
「……機影、見えた。けど──止まった?」
直後、遠方で爆発音のような衝撃。
霧の向こうに、巨大な影が蠢く。
「……神谷!?」
柚月が叫ぶように名を呼ぶが、返答はない。
通信を通じて報告を試みようとするも、画面に映るのはジャミングによる通信断の表示。
「……通信障害。妨害されてる」
その瞬間、柚月の顔色が変わる。
「嫌な予感がする……」
北条も拳を握り直し前方を睨みつける。
その視線の先、濃霧の中に確かに異質な存在の気配があった。
(第7話へ続く)
帝都東京:金剛戦線 – 未来の兵士たち すら16 @sura_16
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