この世にもうひとつの生きていく世界

時は2045年――生死を彷徨う人間に与えられた生きていくためのもう一つの仮想世界『パーフェクト・リブート』
その世界がもたらす価値から社会から『現実』として初めて認められる世界でもありました。

病室で昏睡状態にある小春は、この「つくられた世界」で目覚め、そこで生きるミズキと出会い、新たな人生を歩んでいく物語。
そこで知った事実――それは現実世界での治療で回復し、意識を取り戻すことになれば、仮想世界から切り離され、姿はきえてなくなるというのです。
想いの人から自分が現実世界へと戻ることを告げられたら。

沸き起こるのは……
相手が生き返る知らせに喜びの気持ちを伝えたい幸福感でしょうか。
一方、自分がこの世に残され、目の前の相手がいなくなってしまう寂寥感でしょうか。

祝福したい気持ちと悲しみに沈む思い。

これらが同時に押し寄せ、言葉にできない気持ちで満たされる筆致は胸を打ちます。
現実世界へと戻ってもそこで得られた記憶や経験を心と身体は覚えている――それはまさしく生きてきた証です。

リアルとバーチャルの境界線が無くなった――この世にもうひとつの生きていく世界。そこでふたりのかけがえのない命の営みが純真無垢な余韻を残す、言葉を超えた感動的なSF小説です。

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