Perfect Reboot(パーフェクト・リブート)― 世界に似たどこか

晴久

プロローグ 「世界の断片」

この“つくられた世界”がなければ、わたしたちは出会えなかった。


風も、空も、作りものの中で、その中で、ミズキは現実だった。

彼の指先のぬくもりは、それが夢ではないと教えてくれていた。


わたしの名は、天辰小春。二〇二八年四月十日生まれ。十七歳。

事故に遭ってから、ずっと目を閉じたまま、生きている。

どれほどの時間が経ったのか、わからない。

季節も、カレンダーの数字も、音も、匂いも、遠くへ霞んでいく。

けれど、永い眠りの奥で、どこかへ繋がる細い糸のようなものが、張り巡らされているのを感じる。

それは、まだ終わっていないという証だった。


今、わたしの意識は『パーフェクト・リブート』と呼ばれる仮想空間に接続されている。意識だけがここに送り出され、体は病室で静かに時を刻んでいる。

集められた記憶の断片が、ここで少しずつ再構成されていく。

このパーフェクト・リブートは、『深層同期制御装置』と呼ばれる専用の装置によって脳波を読み取り、記憶や感情を再現・刺激することで、意識の回復を促す仕組みになっている。


ここにいるわたしも確かに生きている。

自分の名前を思い出し、言葉を話し、人のぬくもりに触れている。


今日、現実でひとつのニュースが流れた。

「本日、政府が“仮想空間パーフェクト・リブート内における被害者証言”を、正式に司法証拠として認定してからちょうど半年が経過しました。

意識障害などで昏睡状態にある患者が、深層同期制御装置を通じて接続された仮想世界で発した言葉が、“証言”として扱われるようになっています」

キャスターの声が続く。

「そのきっかけとなったのが、昨年の『北千住駅構内暴行事件』です。

仮想空間内で目撃証言を伝えた昏睡状態の男性の証言が、犯人特定の決定打となり、事件の解決につながりました」


——社会がこの仮想空間を、はじめて“現実”として認めた瞬間だった。


ここでは、となりに、ミズキがいる。誰かと時間を重ねることは、こんなにもあたたかい。

「……小春」

そう呼ぶ彼の声は、いつも深くて、どこかあどけなさが残っていた。

「オレ、お前のことだけは、絶対に忘れたくない」

わたしも同じ気持ちでいた。

ミズキの言葉は胸にすっと入ってきて、同時になにかが深く沈んでいった。


忘れられるわけがない。

目が覚めたら、この腕で、確かめる。

現実の中で、ミズキを探しだす。

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