第九話・ロップ・イヤー家の〝地獄の釜のフタ開け祭り〟オクト仮装する

 マーチの薬草室でオクトが聞き返した。

「地獄の釜のフタ開け祭り?」

「そう、地獄の釜のフタ開け祭り」


「それ、オレが仮装してやるのか?」

「そう、オクトが責任者の仮装長になってやるの」

「どんな祭りなんだ?」


 マーチがテーブルの上にあった、祭り開催の告知チラシをオクトに手渡す。

「そのチラシの裏面に、祭りの歴史とか細かいことは書いてあるから」


 オクトが手渡されたチラシに目を通す。

【〝地獄の釜のフタ開け祭り〟ロップ・イヤー家の先祖に感謝をする祭り……共同墓地にある釜のフタを少しズラして、屋敷内の者がさまざまな仮装をして、飲み喰い踊り歌い先祖に健康と感謝を示す】


 オクトが心の中で呟く。

(なるほど、オレの世界にあった……お彼岸&お盆と、ハロウィンの要素が重なったイベント的なお祭りか)

 マーチが、ナスやキュウリやトマトやキャベツなどの野菜に、棒の四肢を刺したモノをテーブルの上に置く。

 質問するオクト。

「それは?」

「ロップ・イヤー家の先祖が、地獄とこの世を往復する時の乗り物……この野菜の乗り物を模した巨大な山車だしが、仮装をした住民が群がる大通りでぶつかり合う」


 マーチはさらに、祭りの最中はウサギレディの格好をした、ロップ・イヤー家の女性たちが大通りで〝茹で卵を道行く人に配り〟

 卵を受け取った人は〝特定の方向を向いて、笑いながら茹で卵をたべて〟。

 屋敷の室内では、〝針葉樹にイルミネーション的な飾り付けがされて〟。

 玄関に飾られた、イワシの頭を刺した〝笹に先祖に対して、願いごとを書いた短冊を飾り〟。

 鬼に扮した子供たちが〝赤い服を着て白い袋を持った、仮装の大人に炒った豆をぶつけ〟。

 集中して豆をぶつけられた大人は子どもたちに〝チョコレートやクッキーの菓子を袋の中から出してあげる〟。

 そんな祭りだった。


「聞けば聞くほど、よくわからない祭りだな」

「建物を両側に挟んだ通りでは〝魚の形をした空洞の布切れがロープで飾られる〟」

「どうして、オレが仮装長に?」

「他にやる人がいないから……あたしは祭り当日は、ウサギレディの格好をして、茹で卵を配らないといけないから」

「そうか……」

 オクトはそう言って祭りの内容を、頭に叩き込んだ。


  ◆◆◆◆◆◆


 地獄の釜のフタ開け祭り初日──ロップ・イヤー家の共同墓地に仮装をして集まった、者たちの手で墓地の中央の地面に埋め込まれた、地獄の金属釜のフタが少しズラされた。


 吸血鬼の仮装をしたオクトが、隣に立つウサギレディの格好をしたマーチに小声で訊ねる。

「どうして、釜のフタは少ししか、ズラして開けないんだ?」

「全部開けると、地獄の良くないモノが出てきてしまうと、言われているから」


 マーチの話しだと、ロップ・イヤー家に伝わる言い伝えで、ロップ・イヤー家の先祖の一人の女性がその身を犠牲にして地獄に堕ちて、希望が底に残った釜のフタを閉めたらしい。


 祭りの開始を告げる白日花火が屋敷の上空に打ち上げられ。

 大通りから、仮装をした住民が踊る、サンバに似たリズムが聞こえてきた。

 野菜馬の形をした山車だし同士がぶつかり合う音と、住民の悲鳴と歓声が聞こえる中。

 大通りに向かう道を歩きながら、オクトがウサギレディ姿のマーチに質問する。


「ずっと気になっていたのだが……ロップ・イヤー家の者が死後行くのは地獄一択なのか?」

 足を止めたマーチが、蒼白で呟く声が聞こえた。

「今まで、一度も考えたコトが無かった……子供の時から、それが当たり前だと思っていた……ロップ・イヤー家には天国という選択肢は無いのか? あぁぁぁ」

 振り返って、後ろの共同墓地を見たオクトの目に、少しフタが開いた釜の中から、白いモヤのようなモノが出てきて消えたのが見えた。


  ◇◇◇◇◇◇


 鬼の仮装をした子供たちが、赤い服を着て白い袋を持った大人たちに、炒った熱い豆を投げつけ、大人たちはチョコレートやクッキーを子供たちにプレゼントする。

 仮装して大通りで踊り狂う住民たち……激突する野菜山車だしの音。


 混雑している祭りの雑踏の中で、本部にいる仮装長の腕章をしているオクトのところには次々と、アクシデントが持ち込まれた。


「うちの仮装をした子供が、同じ仮装をした子供たちの中に紛れ込んでしまって、わからないんですけれど」


「仮装をしたうちのネコ、どこにいるか知りませんか?」


「路上設置の簡易トイレはどこですか?」


「彼女が血まみれゾンビナースの仮装をしていて、強すぎて腕も組めないんですけれど」

 などなど……そのつど吸血鬼の仮装をしたオクトは、アクシデント解決のために奮闘した。


 昼食に料理長のノーヴが監修した仕出し弁当を食べて、一息ついたオクトは本部から離れて一人、雑踏を逃れた路地に来て。

 壁に背もたれて飲み物を飲みながら、建物の間から覗く青空を見あげていた。


 狭い空を鳥が横切っていった時──オクトに話しかけてきた者がいた。

「こんにちは……仮装長の仕事大変そうだね、その格好は吸血鬼? 初めてみた」

 見ると路地に置かれた酒樽さかだるの上に年の頃は十七歳くらいの、一人の少女がちょこんと腰かけていた。


 屋敷の住民が普段着ている服よりも、数世紀古い服を着ている。

(古着屋で買ってきた古着を着た仮想かな?)

 酒樽の上に腰掛けて、後ろ髪を手で搔き上げながら少女が言った。

「一応、自己紹介しておくね……この屋敷にいるつもりなら、長い付き合いになりそうだから……ボクの名前は【アフタヌーン】よろしく」

「オレの名前は……」

「知っているよ、オクトーバーこと【オクト】……君、屋敷での仕事は決まった? 天職とか、適職とか」

「まだ、薄っすらと見えてきたとしか……」


 樽から飛び降りた、アフタヌーンが言った。

「そっか、焦らなくてもいいよ……ボクはいつでも屋敷の住民を見守っているからね……オクト、君のコトも家族だと思っている……ディーの居場所を突き止めた、君の推理力は見事だった」

「どうして、そのコトを?」


 その時、マーチのオクトを呼ぶ声が聞こえ、声が聞こえた方向を見て再びアフタヌーンの方を見ると、アフタヌーンの姿は消えていた。


  ◆◆◆◆◆◆


 祭りの初日が終了して、マーチの薬草室に戻ってきたオクトは吸血鬼のコスプレをしたまま、テーブルに伏せてグッタリとしていた。

 ウサギレディの仮装から、普段の姿にもどったマーチが言った。

「お疲れさま、祭りは七日間続くからね……明日は、ロップ・イヤー家の三人姉妹、マーチ・エイプリル・メイが和装官女の仮装をして、二段の平らな山車だしの下段に並んで座って、上段には和装のキングとクィーンの仮装をした──お父さんのジュライとお母さんのジェーンが並んで座って、大通りを山車で進むイベントがあるからね……オクトも明日の仮装を考えておいた方がいい」


「七日間も続く、仮装の祭りだなんて聞いてないよ」

「言ったら仮装長なんて、引き受けてくれなかっただろう」


 マーチが、オクトの前に薬草茶ハーブティーが注がれたティーカップを置いて言った。

「ところで、屋敷内での仕事は見つかった? いろいろと、お試しで仕事をやっているみたいだけれど」


 オクトはメイの農作業を手伝ったり、フェブの動物飼育、セブの漁業をやってみたりした。

「どれも、なんか自分の適職や天職の気がしないんだ……ピタッとパズルみたいに、ハマりそうな感覚のモノは見えてきているが」

「そっか、焦らなくてもいい……あたしは、すでにオクトをロップ・イヤー屋敷の一員として、家族として認めているから」

「それと同じような言葉……今日、ある少女から聞いた」

「ん? 誰が言った?」

「アフタヌーンって名乗った不思議な少女から、目を離したら消えてしまったけれど」

「アフタヌーン……ちょっと待っていろ」

 そう言うとマーチは、薬草室の隅から紙に包まれた額縁を持ってきた。

「その、消えた少女って……こんな顔と服装をしていなかったか?」

 包んだ紙の中から出した額縁には、オクトが遭遇したアフタヌーンの肖像画が描かれていた。


 それを見たオクトは一瞬で理解した。

「ロップ・イヤー家の先祖だったのか」

「地獄の釜のフタを、閉めてその身を犠牲にした出来事から一年後に、第一回目の地獄の釜のフタ開け祭りが開催された……開催するたびに祭りのイベントが増えていったがな」


 薬草茶を一口飲んで、落ち着いたオクトが言った。

「そう言えば、まだマーチの薬師の仕事はお試し体験していなかったな……教えてくれ」

 マーチが、ぼやき口調で言った。

「はぁ? おまえ、薬師の仕事をナメているだろう……膨大な薬学の知識が必要になるぞ体験したかったら……とりあえず、この薬学の書籍を最後まで読んでみろ、読めたら見習いの助手に使ってやってもいい」


「なんだ、そんな簡単なコトか……読めばいいんだな、楽勝」

 オクトの動きが、分厚い本の一ページを開いた状態で停止した。

 直後にオクトからイビキが聞こえてきた。


 マーチがハリセンを手に立ち上がって、オクトの頭を殴る。

「目を開けたまま眠るな! 器用なヤツだな」

 叩かれて目が醒めるオクト。

「すまない、難しい本を読むとすぐに眠くなってしまって……推理小説なら眠くならないんだけれどな」

「ふ~ん、そうか」


  ◆◆◆◆◆◆


 祭り二日目──祭り大通りに、落ち武者の仮装をしたディクが。異世界勇者の仮装姿で、立ったまま目を開けて眠っているオクトに近づいてきて言った。

「わたしの、妻と子供を見なかったか? わたしと同じ落ち武者の仮装をしているのだが……はぐれてしまった」


 仮眠から目覚めたオクトが、少し考えてから言った。

「ここで待っていてくれ……すぐに連れて来る」

 数分後──落ち武者の仮装をした、ディクの妻とベビーカーの中で、落ち武者の仮装をした子供を連れてきた。

 三人家族の落ち武者が揃って、安堵したディクがオクトに訊ねる。

「どうやって探し出した……この雑踏の中から」

「落ち武者が行きそうな場所を推理した……もう離れるなよ」


 礼を言って去っていくディク家族の後ろ姿を眺めながら、見つけてくれたお礼だと言って渡された、折れた矢を手にオクトは自分の適職がなんなのか見えた。


  ◆◆◆◆◆◆


 祭りが終わり、オクトは・イヤー大祖父のところに行った。

 大祖父はよほど気に入ったのか、黄金の大陽仮面をかぶった姿で、オクトの対応をした。


「屋敷内でやる仕事が見つかったそうだね……どんな仕事かな?」

「はい〝探偵〟です」

「ほう、探偵か」

「変ですか……ほとんど事件が起こらない屋敷内で、探偵だなんて」

「いいんじゃないか……平和でヒマな探偵というのも」


 椅子から立ち上がった大祖父は、誕生した探偵オクトを抱きしめて言った。

「オクトは、もう立派なロップ・イヤー家の一員だ……助け合う家族だ、わたしは家族愛でオクトを助ける、なにか困ったコトがあったら遠慮なく言ってくれ」


 大祖父の力強い言葉に、オクトの目から涙が溢れた。



 とりあえず~おわり~

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大草原の大きなお屋敷~掃除が大変……ついでに長女が薬師でぼやく~ 楠本恵士 @67853-_-

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