カジュアル自殺の依存症

ちびまるフォイ

本人の証明

ある日辛くなったので自殺未遂した結果、

なぜだか自分の意思で死んだり復活できたりするようになった。


そして今日は久しぶりの登校日。

休み明けの気だるい気分をひきずって校門に行く。


ちょうど目の前で校門が閉められてしまった。


「遅刻だぞ!! 校内に入りたかったら遅刻を謝れ!!」


ジャージの体育教師は竹刀を振り回す。

そうだと思いつき、その場で脳内に命令を出して自殺した。


「お、おい! し、死んでるーー!!」


自分が死ぬと周りはもう遅刻とかそれどころじゃなくなる。

校門が開いたところで蘇生して何食わぬ顔で入っていった。


「いつでもカジュアルに死ねるのって便利だなぁ」


遅刻をとがめられずに登校すると、

ちょうど廊下では不良たちが通せんぼしていた。


「よお、ちょっといいか?」


「今から教室いかなくちゃなんですが」


「んなことより金欠でよぉ。お前、金貸してくれない? さもないと……」


不良たちはバタフライナイフを出す。

この先に待ち構えている暴力が見えたとき、

再び脳内に命令を出して自殺した。


「うわああ!? し、死んだ!?」

「まだ何もしてないのに!」


不良たちはカツアゲどころじゃなくなった。

自分たちが人を殺したという重罪人だと思われる。

蜘蛛の子を散らすように逃げたあと、自分はあっさり蘇生する。


「ふう。トラブル回避成功だな。自殺って便利」


自殺はあらゆる困難から一時的に守ってくれる。

何度も自殺を繰り返していくうちに、体も自殺に慣れ始める。


半生半死の状態もできるようになり、

省エネで過ごしたいときは体の半分を死なせて過ごす。


最近ではお金の悩みからも解消されている。

今日も保険の窓口へと向かった。


「生命保険に入りたい? その年齢で?」


「年齢が関係あるんですか?」


「ないですが……」


「じゃあ問題ないですね。死亡保険を加入してください」


「はい」


生命保険に加入してから自殺する。

医学的にはどうやら完全に死んでいるという状態で、

死亡保険が適用されるのになんら違和感もない。


その後、自分があっさり蘇生するのは医学的にも証明できず

もはや現代の奇跡というらしいがそれはどうでもいい。

お金がむっちゃ手に入るというだけが重要。


「お金に困ったらまたカジュアルに自殺すれば、

 生命保険で荒稼ぎできるぞ! やったーー!」


すっかり贅沢ざんまいの幸せ自殺生活を続けていた。

問題は自分の自殺にみな慣れてしまったこと。


「今日も遅刻だぞ! 学校を何だと思っている!」


「はあ……めんどくさいなぁ。自殺で乗り切ろう」


遅刻をとがめられたので自殺する。

蘇ったが、怒り顔の体育教師は仁王立ちで待っていた。


「お前はそうやってすぐに自殺するだろう。

 だがもうムダだ。どうせ蘇生することわかってるんだぞ」


「げ」


「生徒指導室へこい!! みっちり説教してやる」


「だったら死んでやりますよ!」


「おお勝手にしろ。だが死んでも復活したとき説教の続きだ!!」


「ひいい」


カジュアルに死んでもその後すぐに蘇ることがバレている。

こうなったらいっそガチめに死んでやるか。


すぐに復活しなければ、本当に死んだと思い込むだろう。


「それじゃ説教を……って、おい!?

 また死んだのか。ふん、どうせすぐ蘇るだろ」


この先長い時間死ぬことになるのもわかっていないだろう。

今度の自殺は歴代最長にして焦らせてやる。



長い時間が経った。


自殺から目を覚めたとき、周囲は真っ暗だった。


「ど、どこだ? それに息が苦しい。

 やたら狭いし……おーーい! だれかーー!」


寝袋よりも固く狭い場所に閉じ込められていた。

いったい自分が死んだ後に何が起きたのか。


壁をどんどん叩いていると外から騒がしい声が聞こえてくる。

重機の駆動音が響くと、まばゆい太陽の光が差し込む。


「い、生きてる!? 生きてるぞ!?」

「そんな! 確かに死んでたのに!!」


「えっと、ここはどこですか?」


「ここは墓地だよ。君は死んで埋葬されたんだ」


「あっぶねぇ……火葬じゃなくてよかった……」


「ゾンビとかじゃないよな?」


「体腐ってないでしょうに。ふう、だいぶ寝たなあ。

 それじゃ俺の自転車は? 生命保険で買った高級なやつ」


「いやそんなものないよ」

「は?」


「だって君は死んだはずだ。死人の所有物なんて……」


「いやいやいや! 現実に今、ここに復活してるじゃないですか!」


「しかし医学的には確かに死んでるし、

 ここに死亡証明書もある。君はもう社会的に死んでる存在なんだよ」


「そんな紙きれよりも、今ここに立っている俺を見てくださいよ!

 これのどこが死んでいるというんです!?」


「そうは言ってもねぇ……」


死んでいる時間が長すぎた。

社会はすでに自分を死人として扱ってしまった。


自分が住んでいる家も失う。

所有していたものもすべてなくなり。

はては死人なので人権も失い、社会からも人として認められない。


「住居がほしい? あなた名前は?」


「〇〇です」


「生存データベース上では死んでますね。

 あなた、他人の身分を偽るなんてよくないですよ」


「本人ですよ! 顔そっくりでしょう!?」


「顔はいくらでも似せられます」


「ほら指紋も! それに声紋、網膜スキャンしてください!

 全部本人と一致しますから!!」


「今の技術じゃそれも真似できますから」


「一度死んで蘇ったんですよ!!」


「なにそれこわい」


自分の今の身分はただの死人の肩書を使った嘘つき。

そんな人間は社会で生きていくことができない。


「ああどうしよう。このままじゃ生命保険も入れない。

 お金も作れないし、住む場所だって失ったまま。

 とにかく自分が自分だと証明しなくちゃ……」


あてもなく歩いたとき、目に入ったのは裁判所。

蘇生したての自分の脳にアイデアが浮かんだ。


「そうだ! ここで自分の証明をしよう!

 公的に認められればきっと大丈夫だ!!」


裁判所に頼み込んで自己証明裁判がとりおこなわれた。


「では被告が、被告本人であることの裁判をはじめる。

 このパネルには被告本人でしか知り得ない情報がある。

 それを間違いなく答えられたなら、本人だろう」


「なんかクイズ番組っぽいですね」


フリップにかかれたお題に答えていく。

小さな頃の思い出や、恥ずかしい過去などもある。

さらけ出すのは自殺で避けたいが背に腹は代えられない。


すべて満点解答をなしとげると裁判長もにっこり。


「結果が出た。被告を本人そのものとする!」


「やったーー! これで公的に本人と認められた!」


「本人しか知り得ない情報をすべて知り、

 あらゆる身体情報も本人と一致している。

 もはや本人以外にうたがいの余地はない!」


「ありがとうございます、これで元の生活に戻れる!!」


おおはしゃぎで裁判所を出ようとしたとき。

裁判所の大きな扉が開かれた。


「ちょっと待った!!!」


門を開けたその人に見覚えがあった。

その顔を忘れるわけがない。


「みんな騙されるな! そいつは偽物だ!!」


そいつは自分そっくりだった。


「俺は自分を自由に死なせることができる!

 だが、その後に復活なんかしてなかった。

 全く同じ体の別個体に魂が移動してたんだ!」


「は、はあ!?」


自分の言葉に自分が驚く。


「そいつは、俺をベースにした別個体だ!

 深めの自殺をしようとしたが、失敗して死ねなかった。

 だが蘇生プログラムは実行されて、俺が二人になったんだ!」


急にぶちこまれた情報の大波に目が回る。

とにかく決めてもらわなくちゃならない。


「裁判長! 記憶もすべて合っていて

 生体情報も本人そのものなんですよね!?

 俺が本人でしょう!?」


「いいや! お前はどこまでもそっくりにさせた偽物だ!」


二人の自分が答えをもとめて裁判長を睨みつけた。

裁判長の答えはひとつだった。



「もうわからん……」



裁判長はカジュアル自殺をし、その場を逃れることにした。

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