かえる
キランソウ
かえる
いつの間にか、夕暮れを早くを感じるようになった。
離れていく話し声、入り口で誰かを待つ自転車の群れ。
そんなお帰りムードを横目に公園に入り、いつものように一番高い鉄棒につかまって風を感じていると、おじいさんがすぐ手前のベンチへやってきた。
私は夕方のチャイムが鳴って少ししてからここに来る。公園に来るのは好きなのだが、子供たちと、遠慮なく近づいてくる大人が苦手だからだ。
このおじいさんを除けば、この時間は集中したランナーや黙々と犬の散歩をする人など、羽を伸ばす邪魔をしてくる人がいない。
おじいさんが邪魔をしてくると言っても、毎度まっすぐこちらへ向かってくるものだから少しびっくりさせられるだけなのだけれど。
おじいさんは敢えて私の近くのベンチを選んでいるのだろうか。私はここがお気に入りなので、わざわざこのおじいさんのためだけに移動はしたくない。
特に興味はないが、おじいさんはいつも険しい表情をしているように見える。影のせいだろうか。
空気は動き、草木は揺れるがおじいさんと私の間だけはつめたく、止まっているように感じられる。
どうやらこの沈黙は虫の合奏でも音を入れる事ができないようだ。こんなに近くなのに、まるで距離感が分からない。
すっかり時間が経ってしまった。
あかねに焼けていた西の空もだんだんと紫色になってしまい、東のかすむ雲の隙間からは淡く点の光が覗いている。
普段であれば、もう公園を出ている頃だ。
でも、ここに留まっていてよかった。すぐその後、今まで感じていた全ては、ただ私の考えすぎだった事を知れたからだ。
小さな子が、何か叫びながらおじいさんに飛びついた。その後をおそらく親だろうか、レジ袋を片手にこちらへ歩いてくる。
帰ろうよと、子供はそう言っているように感じられた。おじいさんはゆっくりと立ち上がり、小さな手を取って公園を後にする。
もしかすると、これまでもおじいさんは私を気に留める事もなく、公園のざわめきを聞きながら家族が来るのを待っていただけなのかもしれない。
つまり毎日、待っている誰かがいるという事だ。嬉しいのではないのだろうか、なぜ険しい顔をしているのだろう。本当に、私にはわからないが。
誰もいなくなった公園で少し冷たい風を受け、今日の一日をぼんやり振り返りながら羽を伸ばす。
もう少しすると酔っぱらいのサラリーマンや、熱々な男女や、ここで朝を迎える人々がやってくる。
そして、すっかり冷たさを持った風も夜を連れてやってくる。
私もそろそろ帰ろうかな、身体を冷やす前に温かい巣へ。
羽を伸ばしたまま鉄棒を飛びおり、赤い紅葉の浮かんだ池を見やる。さて、今日のおみやげは何にしようか。
水面を眺めていた"私"はふと浮かんだ波紋の中心へ飛び込むと、"おみやげ"をくわえ黒がかる紫色の帰路に就くのであった。
かえる キランソウ @ajuga_reptans
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