青の季節
sui
青の季節
高校三年の春、ミナトのクラスに転校生がやってきた。
名前は、セイ。
どこか遠くの街から来たらしいけれど、詳しくは語らなかった。
話す言葉は静かで、瞳は深い湖みたいな青だった。
最初は距離があった。でもある放課後、校舎裏でミナトが落とした音楽プレイヤーを拾ってくれたのがきっかけだった。
「この曲、すごくいいね。青っぽい」
「青?」
「うん、透明で、ちょっと切なくて、でも綺麗。そんな色」
それからミナトとセイは、よく一緒に音楽を聴くようになった。
放課後の帰り道、文化祭の準備、部活のあと、テスト勉強。
季節がめぐるたびに、セイは少しずつ笑うようになった。
けれど、夏の終わりが近づいた頃、セイがふいに言った。
「この学校に来たのは、“一度だけの季節”を探してたからなんだ」
「それが終わったら、私はいなくなる。名前も、記憶も、全部この世界から」
ミナトは冗談だと思った。でも、その瞳は本気だった。
「なんでそんなこと言うの?」と問いかけても、セイは微笑むだけだった。
そして文化祭の夜、ふたりでこっそり抜け出し、校舎の屋上で音楽を流した。
夜風の中で、セイが小さく呟いた。
「ねえ、これは、私が見たかった“青の季節”。ありがとう、ミナト」
その瞬間、世界が一瞬だけ揺れたような気がした。
次の日から、セイの姿は消えていた。先生も、生徒も、誰も彼女のことを覚えていない。
転校生なんて、最初からいなかったと、言う。
けれど、ミナトの音楽プレイヤーには、セイと最後に聴いた曲がちゃんと残っていた。
タイトルは、「青の季節」。
再生ボタンを押すと、風の音と彼女の笑い声が、少しだけ混じっていた。
ミナトは今日もその曲を聴く。
“あの季節”を忘れないために。たとえ世界が彼女のことを忘れても、自分だけは覚えていたいから。
青の季節 sui @uni003
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