第22話

遠く離れた西方の港町、《グラウルハーフ》。

その一角、薄汚れた木製の看板が揺れる冒険者ギルド《獣の爪》の酒場では、夜の熱気と情報の渦が巻き起こっていた。


「なあ、お前ら……また新しい噂が来たぞ。今度は“空の王国”だとよ」

酒瓶を片手に語り出したのは、ギルドの古参冒険者・カリム。

彼の隣で、若い剣士が眉をひそめた。


「……空の王国? あれって、あの《ペルトーラ》か? 神の巫女を戴く、選民の国ってやつ……?」

「そうだよ。そのペルトーラが、昨日をもって“消滅”したってさ。しかも……ただの戦争じゃねぇ。“神の機関”ごと、まるっと消されたんだ」


一瞬、酒場の喧騒が静まり返る。

“神の機関”——それは、この世界の各国家に根を張る、宗教的・軍事的支配の象徴であり、同時にタブーの対象でもある。

それが“潰された”という事実は、誰にとっても無視できない話題だった。


「またかよ……この前も、砂漠の奥で“火の神”の神殿が吹き飛んだって聞いたばっかりなのに」

「しかもな……」カリムは声を潜める。「どの場所にも共通して出てくるのが、“黒髪の女”と“銀髪の男”って噂なんだ」


「黒髪……? この辺じゃ珍しいな」

「それに銀髪って、まるで伝説の《呪族》みたいじゃねぇか」


そのとき、ギルドの受付にひとりの少女が駆け込んできた。

「お、お兄ちゃんたち! これ見て!」

手にしていたのは、中央貿易連盟の速報チラシ。そこには、こう記されていた。


> 《空中国家ペルトーラ、崩落。現地には不明の機械兵器と、救援国家の医療団の姿。》

《目撃証言によると、破壊と同時に解放が始まったという。》




「……救世主か。いや、“破壊者”か……どっちなんだ?」

「だが確かなのは、奴らが《神の手先》を潰して、貴族も、貧民も、関係なく“助けて”るってことだ」


誰が言い出したのかは、分からなかった。

ただその言葉は、あたかも風のように広がっていった。


“あの者たちは《神喰い》だ”

“神に成り代わって、世界を変える者たちだ”


冒険者たちの間で、火がつくように広がっていく噂。


やがて、その噂は、かつての神の代理たちすらも震えさせる大渦となり、次なる地へと届く——


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その日、空が落ちた《婚約破棄超巨大殺戮ロボットシリーズ》 みなと劉 @minatoryu

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