第21話

空の国家ペルトーラが崩れ落ちたその夜——。

焦げた金属のにおいと、土煙の残滓が空気に漂うなかで、地上には新たな営みが始まりつつあった。


「急げ、こっちに重症者がいる!」

「子どもは先に診てください!高熱が続いているんです……!」


救援国家アルメディアから派遣された医療団が、現地入りしたのはわずか数時間後のことだった。

彼らは簡易テントを次々と張り、野外に即席の診療所を設けていった。


そこには、これまで治療を受けることすら叶わなかった貧民たちの姿があった。

飢餓により衰弱した身体、病に侵された皮膚、正体不明の咳をこじらせていた老人たち……。


医師たちは、何の躊躇もなく、ひとりひとりを抱きとめるようにして診察を始めた。


「落ち着いてください。あなたの痛みは、もうここにあります」

「薬も水もあります。すべて、アトワイト様から託されたものです」


泣き崩れる者。

静かに頭を下げる者。

「ありがとう」を何度も繰り返す貴族の婦人たち。


そして、数人の診察を終えた若い医師が、ふと空を仰ぎ見て、呟いた。


「こんな光景……俺は初めて見る。こんなに“感謝”に満ちた戦場が、あるなんて……」


アトワイトとユリウスは、中央の指令テントからすべてを見守っていた。


テントの前に、ひとりの少女がふらふらと歩いてくる。

小さな手に握られていたのは、粗末な焼き菓子。恐らく配給されたものの一部だ。


「……これ、お姉ちゃんたちにあげる……」


アトワイトがしゃがみ込むと、少女は恥ずかしそうに笑った。


「ありがとう……たすけてくれて……」


アトワイトはその焼き菓子を両手で受け取り、微笑みながら言った。


「うん。ちゃんと受け取るわ。……今度は、あなたが“助ける側”になるの。そういう世界に、していくから」


ユリウスが小さく頷く。


「君はやはり……“世界征服者”ではなく、“世界の再構築者”だな」


遠く、再建が始まった街並みの中で、少しずつ灯りがともりはじめる。

それは、新しい夜の始まり。

空の呪縛を断ち切った人々が、地に足をつけて初めて迎える、平穏の兆しだった。


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