伝説の巨人と捨てられた令嬢

安藤栞

巨人と令嬢

「カーシャ、“巨人”の継承は、妹のイムホフにすることにした」


十八歳の誕生日、朝食の席で父親は淡々と告げた。


「どうして!?イムホフは模擬戦で私に勝ったこと無いでしょう!?」


そうだ。

代々この家に伝わる“巨人”の継承は、長女にあり、それにふさわしい人間になるために私は剣術、魔法、学問、その全てにおいて最高の成績を収めてきた。


イムホフは私に比べ、大人しく、運動神経も悪い。勉強はそこそこできるようだが、それも私には遠く及ぶものではなかった。

それなのに、なぜ。


「イムホフにはユウキ王子との結婚も決めた」

「納得できないわ!理由を教えて頂戴!」


この家に伝わる“巨人”は、魔法とは違う旧世紀のエネルギーで動いているらしく、魔法によって生み出されるゴーレムとは遥か比べ物にならない力を持っていた。

背中から炎魔法よりもはるかに強い炎を吹き、風魔法よりもはるかに早く空を駆け、どんな魔法よりも強大な攻撃を繰り出すことができる。

そしてそれは驚くべきことに、人間の思考を読み取り、その意思に従って動くのだという。


強い力を持つものは、その力だけ高潔でなければならない。


その言葉を信じて、18年間努力し続けていたというのに。


「お姉さま、いい気味ね。散々私に対して文句を言ってきた罰よ」

「それは貴女が修練も何もせず遊びまわっていたからでしょう!」


転がり込んできた幸運に調子に乗っている妹に、私は声を荒げて返した。

どうせ遊んでる最中にユウキ王子と一夜の間違いでも犯したのだろう。


「カーシャ!!妹に対してなんてことを!」

「お前はしばらく謹慎だ!次に同じことをしたら追い出すぞ!」


――――


「こうなったら、この手しか……」

私はこっそりと自室から抜け出し、“巨人の居室”と呼ばれる部屋まで来ていた。

扉を音がならないように注意しながら開け、手にしたろうそくを掲げる。

かつて滅びた文明の遺産だという“巨人”は、腹の中へと繋がる扉をまるで自分を招くかのように開いたまま鎮座していた。


どうせそう遠くないうちに厄介払いされるのなら、こいつを持ち出して自分からオサラバしてやる。

扉をくぐり、腹の中に入ってみると、金属でも木でも革でもない不思議な素材の椅子と、レバーらしきものが配置されている。

取り敢えず、椅子に座り、レバーを握りしめてみると、どこか自分が王様にでもなって、玉座に座っているのだと、そんな全能感を感じた。


しかし、“巨人”は動かない。

立ってくれないと、動かすことすらできやしない。

もしかしたら、どこかに鍵でもかかってるのかもしれない。

そう思い、それを探すために椅子から立とうとしたその時だった。

足元から物凄い振動が届く。

地震!?いや、これは……動いてる!?


“巨人”は“巨人の居室”の天井を自らの四角い頭で破り、その穴を四角い肩で広げている。


「何で巨人が動いてるんだ!」

「わからん、とりあえず止めろ!」

「止めるったって、どうやって!」


周囲の兵士たちはパニックを起こしている、何名かは果敢にこちらに飛び込み、剣を振り上げてきた。

あいつを倒せ!

脳がそう考えると同時に“巨人”の右腕が振られ、運悪くそこにいた兵士たちを箒でごみを掃くかのごとき勢いで吹き飛ばした。


イムホフはどこだ?

その時、突然扉が閉まり、扉に付けられた窓が光り、目の前の景色を映し出した。

そしてそれは何段階か色を変え、青、緑、黄色、赤のグラデーションで世界が染まる。

そしてほとんど青に染まった視界のその中で黄色と赤に染まった見覚えのある人影が三つ。


「見つけた!」


“巨人”の手を伸ばし、動きを封じる屋敷を崩しながらそこに迫る。

屋根をはがしてみると、まるで人形のような大きさに見える両親とイムホフがいた。

天敵に見つかった小動物のように体を寄せ合って震えている。


気持ちがいい!!

自分を馬鹿にした妹も、その妹にだけ甘い両親も、今や自分に命乞いをして、情けない声を上げている。

母のコレクションである高そうな服は次々と燃え落ち、父の自慢の騎士団と魔術師は無謀な攻撃を続け、“巨人”の対人自動防御システムとやらにより放たれた矢より速い速度で飛ぶ金属塊により防御魔法や鎧を打ち砕かれ、体中に穴をあけられていく。


「ゴーレムを出せ!」


後方の魔術師が大声で叫ぶとともに、崩れた屋敷のレンガが人型に積み上がり、私の身長の三倍ほどのサイズのゴーレムが召喚された。


「邪魔だ!」


その3体ほどのゴーレムを見つけるや否や、私の思考は『ゴーレムを倒せ』と叫び、それと同時に“巨人”は動き出していた。

“巨人”の四角い袖口から円柱状の物体が現れ、それを掴むと次の瞬間、円柱の先端から青白く光り輝く光の刃が現れたのだ。

それは極めて強力な熱の塊であったらしく、石レンガで造られたゴーレムの体も、周囲の鋼鉄の鎧を着こんだ騎士たちも一振りで等しく溶かし、刃から離れた位置にいた魔術師たちすら、次々と着ているローブから火の手が上がり、一人、また一人と焼き殺していった。


「や、やめなさいカーシャ!」

「謹慎は解く、それに家もお前に継がせる!文句はないだろう!」

「お姉さま、謝りますから、命だけは……!」

「今更謝ったところでもう遅い!」


お前たちには一番むごたらしい死をくれてやる。

“巨人”の身体から人間サイズのペン型の物体が発射されて、三人の上で炸裂した。

炸裂したそれからは炎が舞い、三人を包み込んだ。

聞きたくもない命乞いと、私への怨嗟の声。

それは3分ほど続き、声が聞こえてから少しして炎も消えた。


すごい。

これが“巨人”の力……

これだけの力があれば、もう王族や他国に怯える必要もない。

世界を壊して、私のための世界を、私のように努力した人間が正当に評価される世界を作ることができる。

私が願ったことを、“巨人”は叶えてくれる。

王権は神が与えたものだと家庭教師の先生は言ったけれど、真の王権はこの椅子だ。

これさえあれば、私は王に……いや、神の代行者になれる。


世界を壊し、世界を作る。

私はこれから、神にしかできないと思われていた世界の創造を始めるのだ。

そのために、この古い世界をすべて壊すのだ……




その時、目の前に白い閃光が広がった。

それは私を飲み込み、世界中に広がっていく。


























考慮するべきだったのだ。

なぜ、これほどの力を持つものを作った文明が滅びたのかを。

光の中に溶ける意識の中で、そんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伝説の巨人と捨てられた令嬢 安藤栞 @ando_siori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ