少年は過去と歴史を背負う

本作は人の転生を扱っています。しかし近年の Web 小説界で語られる転生より、30 年ほど昔に転生という概念が日本の漫画と小説に登場した頃の扱われ方に近いという特徴を持ちます。

その二つの潮流は次の2点で大きく異なります。

1. 近年の Web 小説においては前世は平凡な人間として生きて転生により英雄としての人生を歩みますが、昔の作品では前世が英雄や亡国の悪漢であり転生後は前世の素性を隠した俗人として生活を始めます

2. 近年の Web 小説においては前世から転生後までの意識と記憶が一貫しておりアイデンティティが確固としていますが、昔の作品では俗人としての生活を始めてから前世の意識と記憶を徐々に取り戻してアイデンティティが混乱し危機を迎えます

本作においては、主人公は俗人として生活してきたものの、前世の意識と記憶が徐々に浮かび上がり危機を迎えます。若い皆様は上記の構造を念頭に読み進めるのがよいと、年寄り(僕)は余計なことを申します。

この構造により、何も知らない少年が我が国の成り立ちにおける秘密を背負うことになります。ただでさえ惑うばかりの年頃です。過酷な状況に少年は苦悩の中に突き落とされます。

苦悩する悲劇の主人公。物語として、これほど闇と鮮やかさを兼ね備えた設定はありません。

それを支える作品世界は、現代日本とは異なり、歴史を色濃く残した社会を維持し、作中の描写に古の風を吹き込みます。

これは絵巻と呼ぶべきでしょう。この先の展開が待たれます。

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