第3話 結婚

 追手を全滅させた後、俺たちはそいつらの首を刎ねて、それを北にあるラエーニャの村まで持っていった。


「村長。リシャールの娘、ラエーニャは仇を討ちました。家督はこのまま私が引き継ぎますがよろしいですね?」


 そんなようなことを首を村の広場に晒しながら言ったそうだ。村の連中はラエーニャと俺を恐ろし気な目で見ていた。


「密貿易の利権。それはいいだろう。だが女に家督を認めるのはエルフの掟では許されておらん」


 村長は気丈に突っぱねた。掟は実力よりもものをいう。


「お前の協力者の男。大層な実力者のようだな?」


「ええ。タツミは勇猛なサムライです」


「和人というのは癪だが、その男の妻となれ。名目上はリシャールの家督は婿に継がせる。采配は妻であるお前がやれ」


「ふぅ……なるほど……タツミ?私と結婚してくれる?」


 いきなり話が飛んだ。


「家督を女が継ぐのはこっちでも駄目なのか?」


 家督、あるいは家父長権。家長である男が家とその家人の支配を行う。同時に養う責任が生じる。これを女がやることを世間は基本的に認めない。


「和人と一緒よ。だめ。例外はない。今回は他に継ぐのもいないし特例が認められると思ったけど、やっぱりだめね」


「はぁ……」


 この世界の結婚は家と家の同盟関係の証明である。社会の最低構成単位は「家」である。この話、断るのが難しい。少なくともここで断るとラエーニャは一瞬で路頭に迷う。あるいは村長の指示する家に嫁入りだろう。


「条件がある」


「言って」


「結婚に関して発生するもろもろの義務、権利は蝦夷の領域内でのみ有効として欲しい。和人側では結婚している事実そのものはなく、ラエーニャは俺の御家人という身分と扱う」


「あら?私が妻だと何か文句があるの?」


 とても美しいし、賢いし、なんだかんだとノリは会うのでパートナーとしては文句はない。だが。


「和人側での俺の身分は不安定なんだよ。それに俺の家の都合もある。蝦夷の妻がいると今後いろんなところで差支えが出る」


 差別をしたいわけではないが、差別に巻き込まれるのが人間である。隠れ里の連中は領主とその主である守護大名に反抗心を持っているが、北の蝦夷にもあまりいい感情は持っていない。もともと北へ入植してきた和人と蝦夷は血みどろの抗争を繰り返してきたのだ。俺が蝦夷出身の妻を迎えたと隠れ里の連中が知れば穏やかではないだろう。


「なるほどね。ああ。世間様は本当にめんどくさいわね!」


「ラエーニャ。掟は我らを守るためにあるのだ。その和人の男の言うことはもっともだ。その条件でも構わない。父の利権を継承したければ、その男と結婚しろ」


「わかったわ」


 俺もしぶしぶだが頷いた。助けるといった手前ここで結婚を嫌がって逃げるのは卑怯だろう。


「では婚儀を執り行う。タツミ殿。今回は特例的な結婚なのでラエーニャへの婚資金や村への結婚税は免除する。だが結婚式のやり方はこちらの儀式にしたがってもらう」


「わかりました。よろしくお願いいたします」


 こうして俺たちは結婚することになった。










 結婚式はそれなりに盛り上がった。女たちの舞や男たちの相撲や流鏑馬など色々な出し物が楽しかった。各家家から毛皮や工芸品などの贈り物も貰った。じゃあこれで解散か?と思ったのだが。


「二人にはこの神域の社で朝まで過ごしてもらう。もちろんちゃんと交わる様に。神々はお主らが偽りの夫婦であることを知れば、かならずや罰を下すだろう」


 そう言って社の部屋に俺とラエーニャは閉じ込められた。外から鍵がかかる音も聞こえた。というか壁に耳を張り付けたエルフの女たちの気配がメッチャする。


「初夜の睦言を同じ村の女たちが聞くのがエルフの伝統よ」


「しょうもない伝統だな」


 聞かれながらやるとかメッチャプレッシャー。ていうかなしじゃ駄目なの?


「あの。俺やったことないんだけど」


 こう言えばラエーニャが冷めて、ヤるのを嫌がったりしないかな?って淡い期待を抱いたのだが。


「私も初めて。だから優しくしてね」


 あっさりと受け入れられた。これヤらないといけない空気だ。ヤらなかったら恥をかかせることになる。現代的な恋愛結婚の価値観を引っ張っている俺にはこういう形式は戸惑いを覚える。


「ラエーニャ」


 俺はラエーニャの頬を撫でる。


「今は愛してるなんて断言できない。だけどいつかはそう胸を張って言えるようにするから」


「ええ。それでいいわ。私もいつかあなたを愛してるっていってあげるわね」


 そして俺たちは唇を重ねて、体を交わらせた。









 朝を迎えた時、不思議と横に眠るラエーニャを愛おしく思えた。肌を重ねることにはこんな効果があると初めて知った。


「おはよう。タツミ」


 ラエーニャが俺にキスしてくる。そこに甘い官能を感じた。愛はまだわからない。だけどこの子に離れていってほしくない。そんな感情は覚えた。向こうもそうであって欲しい。そう思う。

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和風異世界の農民に転生しました!蝦夷(エルフ)の美少女と一緒に武士になって、大名に成り上がります! 万和彁了 @muteki_succubus

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