二代目始まりの使者は何を思う

@amakazenima

第1話 黒の騎士との出会い

忌み子、呪われた子。それが僕の名前だった。生まれた時から俺の目は普通じゃなかった。


「災いを呼ぶ赤い瞳」


僕の持つ目の色は災いを呼ぶらしい。そんな訳で僕は周りから敬遠されて育った。3歳までは母が育ててくれたけど迫害にあい、心を病んで亡くなってしまった。それから何とか森で果実や山菜を採って暮らしていたけど、もう限界も近かった。

フラフラとさまよっていると何かの気配がした。でももう隠れる気力もなく僕は木の根元に座り込む。足音が近づいてくるのが聞こえる。ガシャン、ガシャンという音に野生の動物ではないことはわかった。

そしてその姿を僕の目は捉えた。真っ黒の鎧を着た騎士が1人。真っ直ぐと僕の方へ歩いてくる。

あぁ…終わりなんだ…

僕はそう思いながら近づいてくる騎士を見つめる。そして僕の前まで来てこう言った。

「お前が紅に選ばれたものだな」

何のことを言ってるかわからないけど、敵意が無さそうなことはわかった。鎧で顔は見えないけれど、力強いその声に不思議と引き込まれる。

「だいぶ衰弱しているな…」

騎士はそういうと僕を抱えて、どこかへ向かっていった。


連れていかれた先は古びた聖堂だった。随分長い間放置されていたのかツタが絡まり石には苔がびっしりと生えていた。空気もどこかひんやりとし、不気味な雰囲気を漂わせていた。

「ここは…?」

僕がそう尋ねると騎士は静かに答えた。

「ここは昔「始まりの使者」が祀られた場所だった。しかし年月が経つにつれその伝承は皆の記憶から消えていき、忘れ去られていった…」

騎士は続ける。

「「始まりの使者」は6人いたという。そしてその誰もがひと目でわかる特徴を持っていた」

「特徴…?」

「お前の持つその瞳。それと全く同じ瞳を「始まりの使者」は持っていたという」

急にそんなことを言われて戸惑ってしまう。そもそも「始まりの使者」ってなんなんだ…。

「この世界が作り出されてから何千年の時が経ち、世界のルールが崩れていっている。そうなるとこの世界をリセットするために新たな「始まりの使者」が生まれ落ちるという伝承が我が家系に伝わっていた」

騎士は感情の読めない声でそう言った。ひんやりとした空気がさらに重くなるような気がした。


さらに奥に進むと何やら封印が施された扉があった。騎士は僕を連れてその扉の前に立つと何やら呪文を唱えた。すると眩い赤い光が扉から広がる。それと同時に僕自身にも変化が起こった。

目だ。急に熱を持ち扉に共鳴するかのように輝いている。しばらく輝いたかと思うとゴゴゴという石と石が擦れる音が響き、扉が開かれた。扉の先には何かがいた、それは人の形を持っているが明らかに人ではない。なのに僕はそれを不思議と怖いとは思わなかった。

「あれは「始まりの使者」の魂の1つ。紅の継承者としかリンクしないものだ」

騎士は僕を床に下ろすと剣を抜き僕へと向けた。

「さぁ、選べ。このままここで死ぬか、あの魂と一体化するか。ここから先はお前の意志次第だ。」

僕は迷う事なく答えた。

「死ぬくらいなら何だってやってやる」

そう言って人の形をした何かの前に立つとそれは姿を変え球体になり僕の中に吸い込まれて行った。その瞬間頭の中に映像が流れてくる。この世界が出来た時のこと。そして…僕の使命。

「懸命な判断だ。自己紹介をしよう、俺は「始まりの使者・黒」この世界を正すものだ」

騎士はそう言って手を差し伸べた。


魂が一体化したことによって僕の中に魔力が溢れ、力を扱えるようになっていた。しかし、まだ馴染まないのか調節は練習が必要そうだった。ちょっと明かりが欲しくて火を出したら自分の背の二倍はある火柱が立ってしまったり、炎の弾丸を飛ばそうとするとてんで的外れなところへ向かっていったり。黒の騎士に呆れられてしまったがそんな態度とは裏腹に力の扱い方をレクチャーしてくれた。

数時間も練習すればなんとか使えるようにはなってきた。そこで僕は騎士に気になっていたことを聞く。

「騎士はなんで僕の場所が分かったの?」

僕の問いかけに騎士は答える。

「空間把握。俺の能力でもある。「始まりの使者」を集結させるためのキーパーソンなんだ俺は。黒の魂がそう言っている」

騎士は続ける。

「聖堂は綻び力を失い世界の災厄が目覚めようとしている。だから俺は継承者を集めて災厄に備えたいんだ」

世界の災厄…それはこの世界の誕生にも関わってくる事象だ。この世界はかつて異形のものに支配され、それを神と崇めていた。その神は残酷で気まぐれだった。ある日その気まぐれで世界が破壊されそうになる。そこで立ち向かったのだ「始まりの使者」だった。彼らは特別な力を持った者たちで形成され、異形の神と互角の戦いをし、ついに退けることに成功した。神殺しの英雄、それが始まりの使者だった。そうして平和になったこの地を守るようにそれぞれの土地に聖堂が作られ、祀られることになったのだ。これは僕の紅の魂の記憶だ。記憶というか、記録に近い。

練習を続けていると辺りは暗くなり始めていた。騎士は火を起こし、テントを張り野宿の準備をする。僕も手伝おうとした時、木々の隙間から唸るような声が聞こえた。騎士にも聞こえたようで立ち上がり剣を構える。

「…数は多くない。三体だ」

僕は頷いていつでも炎の弾丸を撃てるように準備する。そして、暗闇と睨み合っていると木の影から小さな鬼のようなものが飛び出してきた。僕はとっさに魔法を放つ。炎は外れることなく命中し、鬼は燃えた。

「初陣なのにやるな」

騎士が素直に褒めてくれる。僕は生まれて初めて褒められ不思議な気持ちになった。

また小さな鬼が今度は二体同時に飛び出してくる。一匹は同じように仕留められたがもう一体の処理が間に合わずに鬼の爪が僕に振り上げられる。とっさに目を瞑ると引き裂く音が聞こえ、目の前には黒の騎士が立っていた。

「次の課題は多数の敵にどう対処するか、だな」

僕は頷いた。


鬼の死体は朝になると灰になって溶けていった。黒の騎士はその様子を見ながら「急がなくては…」と呟いた。

「これ…異形の神の手下だよね」

僕がそう言うと黒の騎士は頷く。

「やはり災厄の復活が近い。他の「始まりの使者」を集めて封印するか倒し切るかの対処をしなければこの世界は滅ぶだろうな」

世界が滅ぶ…。正直実感がわかなかった。だって僕は昨日まで何者でもない、死んでも誰も気づかないようなちっぽけな存在だった。世界の存続も実はどうでもよかったりする。でもあの時、初めて褒められた時に僕は心が踊るような、そんな気持ちになったのだった。自分が認められたような感覚、今まで無かった。欲を言えばもう一度その感覚を味わいたい。そう思っていた。

「次の継承者の所へ行くぞ」

黒の騎士は素早く荷物をまとめて歩き出す。僕は慌ててその後ろをついて言った。

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