エピローグ:新時代の幕開け

 王国が闇から解放されて数週間が経った。王都は再び活気を取り戻し、人々の笑顔が街中に溢れている。市場には色とりどりの果物が並び、子供たちの笑い声が聞こえる。奏多はアズリアを抱きながら、城下町を歩いていた。

「うん、やっぱり賑やかなのが一番だね」

 アズリアが「キュー」と頷き、ふわふわの尻尾を揺らす。奏多が屋台の前を通りかかると、店主が笑顔で声をかけた。

「お嬢さん、今日はいい野菜が入ったよ!」

「本当ですか? じゃあ、少し見せてください」

 店主が籠から取り出したのは、新鮮なトマトや人参だった。

「これならスープにぴったりですね」

「そうだな。あんたのスープは本当に評判なんだ。城の料理長も真似しようとしてたぜ」

「そうなんですか? なんだか照れちゃいますね」

 奏多は笑って野菜をいくつか買い、布袋に入れた。


 その後、王宮に戻ると、中庭でリシアとエルフィアが花壇の手入れをしていた。二人ともリラックスした笑顔を浮かべている。

「奏多さん、お帰りなさい」

「ただいま。何してたの?」

「新しい花を植えてたんです。この間の宴で、皆が花を持ち寄ってくれたので」

「うん、すごく綺麗だね」

 エルフィアが優雅に微笑み、花びらをそっと撫でた。

「闇が消えてから、花も元気に咲き始めました。きっとこの国も、もっと輝いていくのでしょうね」

「そうだね。エルフィアさんが元気になったから、花も嬉しいんだよ」

 リシアが頷きながら、奏多に話しかけた。

「今日はどんな料理を作るんですか?」

「スープを作ろうかなって。市場でいい野菜を買ってきたんだ」

「それなら、私たちも手伝います!」

「ありがとう。じゃあ、皆で作ろうね」

 三人が笑顔で中庭を後にし、王宮の厨房へ向かった。


 厨房では、淳平が大きな鍋をかき混ぜていた。石垣がその横で厳しい顔をして見守っている。

「おい淳平、塩加減が多すぎだ。もう少し控えろ」

「えー? でも、これくらいがうまいんじゃね?」

「お前の味覚は信用ならん。奏多、チェックしてくれ」

 奏多がスプーンでスープをすくって味見をすると、少ししょっぱさが強かった。

「うん、確かに少し濃いかも。でも、じゃがいもを入れれば少し和らぐかも」

「なるほど! じゃがいもか、いいアイデアだな」

 リシアが急いでじゃがいもを洗い、エルフィアが丁寧に皮をむく。淳平が笑顔で鍋をかき回し、石垣が肩をすくめてため息をついた。

「お前たちが一緒だと、やかましくて仕方ないな」

「まあまあ、みんなで作るとおいしくなるんだからいいじゃないですか」

 奏多が笑って言うと、石垣もやれやれと呟きながらも口元が緩んだ。


 しばらくしてスープが完成し、大皿に盛り付けられた。淳平が勢いよく一口すすると、目を輝かせた。

「うまい! やっぱり奏多のアイデアが最高だな!」

 リシアもそっと口に運び、幸せそうに微笑んだ。

「やっぱり温かい味がしますね」

 エルフィアも静かに頷きながら、一口ずつゆっくりと味わっている。

「こうやって皆で作ると、不思議と心が満たされますね」

「そうだよ。料理って、ただ食べるだけじゃなくて、心も温めてくれるんだ」

 アズリアが椅子の上で嬉しそうに尻尾を振り、奏多がその頭を撫でた。


 食後、淳平が唐突に話を切り出した。

「なあ、奏多。これからどうするんだ?」

「どうするって?」

「闇も浄化されたし、王女も元気を取り戻した。お前、また元の世界に戻るのか?」

 奏多は一瞬考え込み、窓の外を見つめた。

「正直、どうすればいいかわからない。でも……もう少しここにいたい気がする。私の居場所は、ここだって感じるんだ」

 淳平が安堵の笑みを浮かべて、拳を軽く突き合わせた。

「そっか。なら俺も安心だ。お前がいないと、この城もつまんねえからな」

「もう、淳平ったら……」

 リシアとエルフィアも、安心したように笑みを浮かべた。

「私も、奏多さんがここにいると心強いです」

「同感です。これからも共に歩んでいけるのなら、どれだけ心強いことか」

 奏多は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。

「うん、これからもよろしくね」

 アズリアが「キュー」と声を上げ、まるでその決意を祝福するかのように跳ねた。


 その後、奏多たちは王国の復興活動にも力を入れ、各地で料理教室や癒しの魔法を披露して回った。王都の人々からは「二人の聖女」として崇められ、リシアとエルフィアは新しい希望の象徴として広く認められている。

 淳平は騎士団の訓練を手伝いながら、若手たちに励ましを与えていた。石垣もその姿を見て、少しずつ厳しさを和らげている。

「俺たちが守った王国が、こうして元気になっていくのは悪くないな」

「うん、すごく嬉しいよ」

 奏多が遠くの市場を眺めながら、そっと呟いた。

「きっと、これからもいろんなことがあるだろうけど……みんながいれば大丈夫だね」

「そうだな。俺も、ずっとそばにいるからさ」

 奏多と淳平が並んで笑い、アズリアがその間にちょこんと座って、嬉しそうに尻尾を振っていた。

 終


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異世界に落ちたら聖女代理でした mynameis愛 @mynameisai

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