焔の誓い その1


ガンドとフォリの決戦の日から、少し前。


道場から少し離れた……エルファニア王国十二種王が1人、"竜王"マイル・リジェネーションの城、王の間にて。




「よく来たな! これで何回目だ? そんなに私の妹が気に入ったのか? アンブラ!」


そんな風に言葉を並べながら、面会にやって来たアンブラと話しているのが、マイル・リジェネーションその人である。


「……いやぁ、最近暇なので……時間潰しでも、と思って」


「むー? ほんとかー?」


「っていうか、あまり女の子に会いに行ってるみたいな言い方は……」


「ん? 千明の事か? 千明はもう遊びに来ているぞ。別に問題ないんじゃ無いのか?」


「……はぁ? ……あの人はよくわからん人だな……」


アンブラはため息をついた。

それからやれやれと言った感じで頭を掻いた。


「……んじゃまぁ、そろそろ行って来ますね」


「うむ!」



王の間から、通路を左へ、部屋を3つ通り過ぎた所にある、豪華な部屋。


そこが、マイル・リジェネーションの妹……ローズ・リジェネーションの部屋である。


「……よう。来たぞ、ローズ」


部屋に入り、ベッドに座る長い黒髪の少女に声をかける。黒いドレスに身を包んだ、小さな体躯の少女。彼女が、ローズ・リジェネーションだ。


「……あっ、兄様。来てくださったのね。ローズ、嬉しいな……」


「まぁ、暇だしな。話し相手になってやる時間はある。……そういえば、千明さんがここに来ていると聞いたんだが……」


「ココダヨー」


ローズの背後から千明の声がする。

よく見ると、千明はベッドに寝転んでいるようだ。



「……何してるんですか」


「別に? ローズちゃんと遊んでただけ。そういう君は何をしに来たのかな?」


「話し相手になりに来たんですよ……」


「私を置いてか〜?」


「っ……アンタ朝にはもう出かけてただろ」


2人がちょっとした口論になっていると、ローズがあわあわした様子で、


「け、喧嘩は良くないよ……?」


と言った。

背後に「ぴぃ……」とか、そんな文字が出てそうなくらい縮こまっている。


「……あー、そうだな。すまん」


「ごめんね。ちょっと熱くなっちゃった」



どうやら2人とも、ローズには弱いようだ。


───────────────────────



しばらく話をして、ゲームをして遊んで……最終的に夕暮れの頃になって、2人は帰る事にした。


帰路に着く。2人はそこまで帰り道に話す性格でも無いので、普段なら黙々と帰るのだが……


「……千明さん」


「なに?」


「俺が部屋に行くまで、ローズと何話してたんです?」


「……秘密だよ」


「えー……教えてくださいよ」


「やーだね。聞いてもそんなに面白く無いと思うよ?」


「いや、面白いとかじゃなくて……」





「随分と楽しそうだね」



不意に、聞き覚えのある声がする。

……このドス黒い物を感じる声は……。


「……エイ、ド?」


フッ、と影が動く。

脇道から、エイドが現れた……。


「……やぁ。久しぶりだねぇ」


そんな軽口を叩くエイドを、アンブラが睨む。


「何をしにきやがった」


「おっと! 攻撃とかしないでよね。僕にはもう残機残ってないんだから。その代わり僕も君らを傷つけるつもりは無いよ」


「……信用できるとでも?」


「あぁうん、無理だろうね。だから先手を打って会いに来たんだ。出会した時にいきなり攻撃されても困るからさ」


「……ほう?」


「良い事を教えてあげる。だから攻撃しないで! お願い」


エイドは、両手を合わせて懇願するようにそう言ってくる。


「……聞いてやる」


アンブラは、その行動からあまり嘘だと思えず、そう返した。


「……よし、取引成立だ。じゃあ、教えてあげるね」




「……………………千明ちゃんが怪物化した時、君は心当たりが無くて暫く塞ぎ込んでたね?」


「……? あぁ」


「あの時、君はこっちへ来て、ローズちゃんと出会ったばっかりだったはず。かなり仲良くしてたねぇ? ……まぁでも確認した感じ、妹を愛でてる感じではあったけどね」


「……そりゃまぁな」


「……で、ここでこの2つを結びつける事実が1つあるんだ。なんだとおも……」


まだ言いかけた所で、「やめてっ!!!」と、千明が叫んだ。


「……なんだよぅ」


「お前の口から……それを……言う……な……」


「……っ、ぐぅぅ……」


千明が頭を抱える。

少し、腕が黒ずむ。


「千明さん!?」


「……まだ怪物化の因子が残っていたのか。困ったな、今の僕には直せないよそれ」


「……どうすれば良い?」




「怪物化の因子は、それが肥大化する原因となっている欲求を満たせば消える」


「……ま、口止めされたからこれ以上は言わないけど……多分わかるだろうから、手は貸さなくて良いね?」


「………………?」


アンブラがきょとんとした表情をしているのを見て、エイドが大きくため息をついた。


「……ま、頑張ってね。本当に危なくなったら、喋るから、呼んで。これ電話。僕も悪いとは思ってるからさ」


「……あ、ああ」


(前と随分違うな……)


エイドはそのままどこかへ飛んで行った。




「……大丈夫ですか、千明さん」


「……………………大丈夫。大丈夫だから、君は何も気にしなくて良いから」


「……肩くらいは貸しますよ」


「……平気。1人で歩けるよ」




なんとなくぎこちない。

気まずい空気を漂わせた2人は、夕暮れの街へ消えて行った。


一抹の不安を残して……。

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異世界異能譚 幸田啄木鳥 @koudakitutuki2055

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